第463話―ブルースカイ・キャットマウンド三曲目―

ネコ、ネコのニャン!猫塚の星を秘められた輝きで貴方を倒します。

そんな夢を見ました。


(おかしい。レッスンや勉強で忙しいのにセーラームーンやプリキュア見ていないのに。セリフやポーズを夢の中で決めて……もしかして憧れを持っていたのかな私って)


そうだとしても意気揚々と口上を名乗ったアレは普通に無しだ。

ネコ、ネコのニャン!なんて、あざとさが強く前に出ている上に魂胆が見え見え過ぎて寒気さを覚えてしまう。

さて、そろそろ起き上がろうかと右手をベッドの端につく。

すると手のひらから柔らかくて弾力性のあるものがあたります。マシュマロみたいな物体が気になり横目を向けると真奈さんの首から下のアレを触っていました。


「すぅー……うーん」


「うぁっ……」


(胸を触ってしまった!?

は、早くどけないと……)


恥ずかしさのあまりに私は手を離すと部屋を出るのでした。

ドアを音を鳴らさず閉めて、安心すると息が自然とこぼれる。まだ顔が赤いまま、人為的ではないといえ触ってしまったことに拭えない罪悪感が湧いてしまいます。もし、これが兄がした場合は数時間後に忘れるだろうなぁと

兄の尊厳を貶めるようなことを想像してしまいます。

向いている身体を反転して、閉められたドアの奥は兄の部屋。そして、その部屋の前の方向から空き部屋。

そこで兄は一人で寝ています。


「……ち、ちがう」


ぼんやりとなる中で想像というビジョンが脳内で動いて私が兄のいる部屋に音を立てず寄って潜り込んで、このまま惰眠だみんを貪りたいと考えてしまった。


(私はアイドルなの!

アイドルが簡単に異性から近づこうなんて意識が弱すぎる。もっと誇りを持たないといけない。

ファンのためにも清廉潔白であらないといけないんだから!)


そうと決まれば一階に降りて溜まっていた宿題をやっておかないと。

それに泊まらせてもらっているから料理ぐらいは作っておかないと。

洗面台から居室に足を入れると真っ直ぐキッチンに入って冷蔵庫を確認。

勝手に食材を使うのも勝手な好意からの迷惑にならないか不安になる。

アニメやマンがの影響も受けたかもしれないと開けてから現実的になる。

ご馳走を振る舞うことしていいのか。

――料理が完成して宿題も素早く終わらせ、そして二時間が経過して兄と真奈さんが仲良く手を繋いで入っていくと私は台本を机の上に置く。


「お二人とも手を繋いで良いですね。

おはようございます兄と真奈さん」


入室するとすぐに二人の前に移動して頭を下げて挨拶をします。


「どうして猫塚さんが……そうか登校する前に、ここから近い撮影があるって昨日そう言っていたね。

とりあえず、おはよう」


思い出してくれたはいいものの、兄は忘れていましたね。そりゃあ大勢の女の子の一人に過ぎませんから、その程度の認知でも悲しくありませんよ。

ええ、決して断じて悲しく無いです。

すると真奈さんが慌てて私の頭をなでてくれます。急になにをするのですかと尋ねる前に真奈さんが口を開いた。


「よしよし、いい子。

少し落ち着いたかな?

おはようネコちゃん。今日も良い一日にしようねぇ」


「は、はい」


まるで母親か女神だなと思っていると真奈さんは振り返ります。


「忘れているなんて、お兄さんダメだよ。思い出して良かったけどネコちゃん悲しそうな

顔をしていたんだからねぇ」


「私そんな顔をしていました!?」


真奈さんは珍しく好意を持つはずのお兄さんに説教しています。

嫌われるかもしれないのにスゴイ勇気を持っているなぁと私は感心します。


「ああ、猫塚さんごめん。

言葉を選ぶように気をつけているつもりだったけど……あとでつぐなせてほしい」


それも驚きだったのですが、申し訳なさそうな顔をした兄が私に頭を下げて陳謝をします。逆に、大げさな二人に私は申し訳ない気持ちにさせられます。だってあの二人はどうしてここまで真摯的になってくれるのか不思議で仕方なかったからです。


「い、いいよ。

二人ともそうまでしなくても私そんなこと思ってませんし大丈夫ですから」


ライブじゃないのに私は響き渡るほどの声量を出したが二人は、なかなか折れずに謝ってくる。

どうしてこんなことにと私は疲れてしまい折れることにしました。

テーブルに囲んで食事をしようとキッチンに回って火をつけるコンロで温める。その間に二人はお茶やご飯を器に入れてテーブル置きます……。

湯気が溢れてきて火を止めて皿に移して持っていく。並び終えると私は真奈さんが勧められた椅子に腰掛ける。


「「「いただきます」」」


(あはは、向かいには誰もいないよ)


そう、向かいの席には誰も座っていない。乾いた笑みをついこぼしてしまう光景だった。さぁ席の位置というと

中央に兄、右には私、左には真奈さん

になる。

きっと真奈さんは公平に私を兄の隣に座らせたのでしょう。でも私は兄と恋人になりたいかというと、分からない。なので公平にライバル扱いをされるのには困っているし戸惑いを感じずにはいられませんでした。

もしかするも私は真奈さんが苦手かもしれません。

――それから一時間後に、冬雅さんが遊びにきました。玄関で、兄に熱烈な告白をしています。私が見ているのによくするなぁと感心と引きました。


「あれぇ、どうしたの?

朝早くからお兄ちゃんの家に遊びに来るなんて」


普段なら絶対にいないだろう時間帯に私がいることに冬雅さんは首を傾げて理由を尋ねられました。

まさかアイドルと知っていながらも今まで通りに接することにびっくり。


「え、えーと。そうですね撮影か近くに撮り行うので一日だけ泊まらせてもらっています」


「わぁー、そうなんだ。

困ったことがあったらいつでも相談してねぇ。あっ、挨拶まだだったねぇ。

おはよう」


「おはようございます」


分かっていたけど活力の集められて凝縮感のある人だ。

ちょっと前にお兄ちゃん大好きと叫んだ人とは思えないほど頼り甲斐のある人だった。さすがの女子大学生だ。

屋内に入ってまず先にするのは手を洗うこと。冬雅さんを連れて居室に戻ります。冬雅さんは視線を走らせます。

なんだろうと気になって視線の跡を追うと台所でした。もしかして朝食を食べたいのかなと思いながら聞いてみるとを違いました。


「えぇー!もう食べてしまったのですか……大学だけじななくて、ここでもするのですか。ぼっちめしを」


かなり寂しそうに耐えて歩み続けるしかない、そんな背中に一瞬だけ見えました。タイミングが悪いと思いましたが、そもそも今は、午前6時で私たちが食事を取ったのが一時間前の5時。

こればかりはタイミングが悪いとは言えないと結論づけて冬雅さんの隣に、お菓子でも食べて駄弁るべきかなと悩んでいたらスマホの予定のスケジュールに設定していたアラームがポケットの内側から鳴ります。


「そろそろ撮影に行かないと」


居室を出て玄関に向かいます。

撮影用の化粧は現場で到着しているプロの方にお願いしている。

ローファーを履いて振り返れば兄と冬雅さん真奈さんが見送りにいました。


「道に迷わないように気をつけるんだよ猫塚さん」


「次に泊まるなら私の家ならいつでも貸してあげるよ」


「気楽にファイトだよネコちゃん」


「はい!行ってきます」


誰かに見送られるのって懐かしいと感じながら外に出る。

空は今までにない強く差し込んでいた。あまりにも眩しさに目を細めて原因はなんだろうと何故か探ろうとしていると気づきます。

私の心境の色が彩っていたからだと、なんでもないと感じて。

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