第437話―フィクションな空の得恋その四―

まず先に読み終えたのは冬雅だった。

どうしてそんなことを分かったかは一目瞭然な動作をしたからであった。

冬雅は息をやや大きく吐いて脱力のリラックスを取ると時計を見て、

その次に窓と視線を巡らして時刻の変化を視覚の情報を集める。

まさか先に読み終えるとは想像もしていなかった俺は少し驚いていた。

読みスピードなら、どの職種でも書類を素早く読み終える環境にある弟の移山の方が勝手に身についていると思っていた。

どのような環境かまでは把握はしていないが少なくとも労働組合が駆けつけるまで酷使しているなら書類を重要な箇所だけを文字を流すように目を追って見つけていくことに自然と習得。

そして書類内容あたりの時間を減らそうと一種の防衛本能が紆余曲折を経て速読力が向上していったと思う。

あくまで推測の域だが冬雅よりも速読力そくどくりょくなら上回っていると勝手に決めつけていた。

腕を高く上げて伸びをした冬雅は俺に、こぼれんばかりの笑顔を向ける。


「お兄ちゃん、お待たせしました。

見事、最新エピソードも含めて読み終えましたよ」


レーベル賞を狙ったものじゃなく小説投稿サイトで書いたもので一話一話とエピソードがある。

何話まで読んでもらうかまでは細かく発言も無かった。ここまで読んでほしいと二人にお願いを申し上げることも

考えてはいたが俺は敢えて細かいお願いをしなかった。

もし内容がつまらなくなるような断念なものでも目的を達成するまで読んでいた。とくに二人の性質を考慮すれば

アバウトな方が良かったと俺の判断。


「最新話も…そこまで読んでくれたのは嬉しいのだけど苦じゃなかった?

いや、まずお礼が先か…わざわざ拙作を拝読してもらい、ありがとう」


「わたし、お兄ちゃんのすべてが大好きだって世界中にも神様にも宣言は出来ますけど。

そのところだけは嫌いです」


「……ふ、ふゆか?」


なんでも肯定されるような愛情を持つ冬雅に、まさかの嫌悪感を顕にされて

精神的な苦痛を受ける。

まさか、そんな明確なことを言われるとは一ミリも思っていない俺は

自分の耳を疑ったが批判的な睨んで

いる冬雅の顔を見て聞き間違いではないと受け入れるしかなかった。

でも、どこか敵愾心からの排除といいうよりも理解していない痛みからの

怒りに窺える。


「……いいですか、お兄ちゃん。

わたしがどうして怒っているか以前にも説明しましたよねぇ。

それは覚えていますか?」


思い出そうと過去を振り返ってみたが思いつくものは複数はあっても確信的なものはなく実質的に

これがというものは、どうしても見当たらなかった。


「……すまない。注意とか何度もされているから思い当たる節が多すぎて

分からない」


「そう、ですか。ちょっと悲しいですねぇ…全部までは理解されないのは

重々承知なのてすけど……」


「冬雅…長年のパートナーだって完全に理解していないから完璧な理解なんて無いのは当然だよ。

でも、今回は俺がなにを失念したのが原因なんだから理解力とか

別問題じゃないかな?」


どんな気が置けない相手であっても完璧な理解なんて存在しないと俺は見てきた。なんでも意気投合をしている

ようにもある真奈でも、ときどき

意見が合わないのもあるのだ。

ここで意見が合わないのを問題視される主張もあるが俺から言わせれば検討外れだと思う。

すべてが一緒の人間がいない。見た目や性格も必ず相違はあるし価値観の違いだってある。

大事なのは、どれだけその人を理解しようとかとするかだ。内外が似ても決定的な違いはあるし、すべて一緒の考えても無いから完全に理解なんて

存在しない。いきすぎた希望は妄信と知らずに運命の人と夢を見てしまう。


「そうなんですけど…知って欲しいんです。悲しくなるのを」


「悲しく?」


「はい。お兄ちゃんを見ていて思ったのは因果関係を求められる犯人を探しなど起きると、原因となる材料を

集めて形にして真犯人であるかのように導く傾向があります」


真犯人?け、けど某有名な天才高校生が言っているじゃないかな?真実はいつも一つだって。

いや、それよりも集めて形にするのは俺が真実にたどり着けないよう別の道を作り出しているみたいなんだが。

なんだか話の規模が大きくなっていませんかね。ここで移山が眠って推理タイム披露してくれないかな?


「そうなのか?えーと具体的には」


「お兄ちゃんは原因を自分に誘導させる悪癖があります。それは美徳かも

しれませんが危険でハラハラします」


怒られたと思ったら心配されて…いやそれが最も強いのだろう。

怒気を醸し出すのは心配や不安のストレスが原因だろう。


「なるほど…でも俺は大人だから上手くする。

それに責任を自分に向けるようなことがあっても、そこまで善意は無いと思うんだけど」


「それです。もう、もうー!

失礼ですけどはっきり良い機会なので言いますと、お兄ちゃん不器用なんですから身の振る舞いとか

気をつけてください」


なんとか心配や不安をさせまいと余裕綽々とした態度で答えてみたものの

失敗してしまう。

それで人差し指を向けられて可愛く

上下にシェイクするように振るう。


「わ、分かった。善処するよ」


「戻しますけど、お兄ちゃんをバカにするのやめてください。

大好きな人が卑下するの見ていて気持ちのいいものじゃないですからねぇ」


「そ、そうだね。善処させてもらう」


珍しい。ここまでマイナスな感情的になる冬雅をみるのは…大好きとか叫んで、だらしなくデレデレとした顔を

する。よく見れば涙目になっており

本当に反省しないといけないかもしれない。

改善するまでは時間はかかるがプラス過ぎる彼女のために頑張るとしよう。

ともあれ最初に怒っていたのは理由は俺が卑屈になっていたことか。

確かに自分でも、それには自覚はしているし真奈にも何度も指摘をされている。あまり気に留めなかったけど

問題が多かったのだろう。


「あー、痴話喧嘩が終わったみてぇらしいし。もう発言してもいいか?」


感情の吐露をする冬雅の注意が終わるのを待っていたのだろう。

読み終えたのだろう移山が手を挙げて

話を読書会に戻す。


「あっ、はい…ど、どうぞ」


冬雅しどろもどろ。まるで苦手意識な対応をしているが驚いるだけと照れているからた。

強めな忠告をどうやら痴話喧嘩と見られていたかもしれん。

今になってやり取りをを振り返ってみればイチャついてたと冷静な分析でそう結論づけられる。

客観的になれば気づくけど、主観的に感情的になっていた。

滅多に見せない冬雅の言動に驚いていたし、どうにか落ち着かせようと必死になっていて気付けなかった。


(これって普通に相手のためにと想っているのは分かるし…恥ずかしくなってきた!?)


「………」


冬雅と目が合い、すぐに逸らす。

なんだろうか遅れた青春が今になって訪れた。少しは憧れてはいるけど

本当に遅いよ。この甘酸っぱい恋愛は

大学生とかまでだからねと精神の安定をさせようと心の中で叫ぶのだったを


「よし。いいか兄者。この小説だけど忌憚きたんの無い意見を言わせてもらうぜ」


「ああ。変に配慮されて気を使われるよりも、そっちの方が望んでいる

からね」


ほとんど修正もないようなもの。修正はしているが丁寧にしていないので

内容はひどいと思う。なので最悪な予想を覚悟をしている。

つまらないとか駄作、気持ち悪いなど真摯的に受け入れるつもりだ。


「普通に面白かった」


「普通に……」


嬉しかった。けど普通に単語が含まれており素直に喜べない自分がいる。


「あと最高に、つまんなかった」


「えぇ!?それって、どっちなの」


忌憚の無いコメントは面白かったしつまんないもの……矛盾していませんかね。おそらく不足しているのを解釈して、それを踏まえると内容の前後どっちかが面白く、つまらなかった。


「それじゃあ冬雅は?」


最初に読み終えたはずの冬雅に感想を訊く。真っ先に読み終えたはずの冬雅が最後に答えるのも、何かおかしな

話だが気にしないことにしておこう。


「すごく面白かったですねぇ。

やっぱりメインヒロインが兄に甘えたりするの良かったですし、お兄ちゃんの嗜好とか分かりましたし」


「はは、そうか……んっ?しこう…ああ!思考か。冬雅らしいねぇ」


主人公をほとんどモデルが俺なので思考も苦労しなかった。そのため好きな物とか理想なものとか書かれている

ため冬雅は、その思考を参考にして

デートに活かすのだろう。

俺は大きくため息を吐いて先のことを憂うように、どこか期待を膨らませるのであった。

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