第363話―執事になりました3―

今いるのは談話室。

歴史的な価値のあるのが審美眼のない俺にも分かる高価なアンティークの家具。

おぉー、これが高級なソファーの座り心地かと感動しているとテーブルを挟んで優雅に足を組んで座る美女が嫣然えんぜんと笑う。

今この部屋にいるのは二人だけ。


「まず貴方を使用人としての信用に値するかをいくつか質問しますが、支障はありませんか?」


「はい、支障はありません」


改めて美貌の微笑みを前にしても動じなくなっているようだ。

まるで他人事みたいに自分の好きなタイプが変化して固定化している事に苦笑しそうになる。


「ペネロペ・サファイア様に不純な動機をお持ちですか?」


「いえ。彼女とは神社巡りや将棋など長年と日本の伝統的な遊戯で競い合っているライバルみたいな存在です」


どうやって簡略化して伝わるかを考えたが思いのほかよく表れた表現だと我ながら思った。


「では結婚はしていますか?または恋人は」


「いません…それも言わないといけないのですか」


「ええ。規則なので」


そうなのか。規則でしたら仕方ないですよね。規則なら、でも結婚や恋人の質問って必要があったのだろうかと考えていると次の質問が飛ぶ。


「次に…パパ活や淫行など倫理を無視して付き合った人はいませんか?それとストーカー行為などは」


どうしてそんな俗語をそんなに口にするのでしょうかメイドさん。

静かな顔をしているが疑いを持っている。


「し、していません」


「おや、目を逸らしでありますが?何か思い当たることが?」


とくに淫行には強く否定が出来ないのがある。そして致命的なほど俺は、嘘がつくのが下手なようだ。

けど、それには後ろめたさはあっても大切な気持ちもある。

ここ一年ちょっとで紆余曲折がありすぎて想いや恋慕を重ねていた。


「…完全な私情に任せて無視した一方的な行為はしてはいません」


沈黙は肯定と言うので偽りのない言葉にして気づく。これって

言葉を飾っているが肯定いるのと変わらないのでは…うわぁー

行き当たりばったりにもほどがヒドイ。


「よく、分かりました。監視は付かせていただきますが貴方を雇う事を認めましょう」


粛々した落ち着いた大人の返事をしたメイドさん。いやいや、これで決定的な判断をするのは

どうかと思うのですが。


「あの、よく考慮した方がいいと思うのですが」


「いえ覆される事はないと思いますよ。こればかりは」


なんだか疑問符が浮かぶ発言を。覆されない、こればかり、まるで既に決定事項みたいな……。


「つ、つまり本心は違うと?」


すると柔和な表情がスッと消えていく。すると一変する侮蔑と憤りを混ぜた感情があらわになる。


「当然です。何が悲しくて嬉しいのか、身元が怪しい男を雇わないといけないのですか。

私のパラダイスが…!!」


「パ、パラダイス?」


これでもかというほど目を大きく開いて不満を爆発する。

今にも呪いを唱えそうなほど常軌を逸した言動に戦々恐々となる。

こ、怖いです。誰か二人きりにさせないでくださいぃぃぃ!!


「コホン。それでは早速ですが仕事をしてもらいます」


「差し支えありませんと応えますが…俺は何をすれば?」


ため息をこぼすメイドさん。これだからと蔑視もされる。詳細な説明もなく…理不尽にもある。

よし転職を要求する!…けど、人間は生まれながら不公平に作られていると鋭い言葉を残しているからな。


「はぁー…お忘れですか?お嬢様は貴方の見回りのお世話をするのです」


まるで出来ない部下に不承不承と説明をする。こんな扱いをされたのは中途半端な社畜だった以来。


「見回りはどうかと思うのですが。

危険がないでしょうか?執事じゃなくメイドさんの方が…」


「思ったよりも真面目ですね。

いいですか見回りと言っても理想的な遊び相手になってくださいと意味です」


「なるほど…それなら出来ますけど。他は何をすれば」


こんな豪邸なのだ。廊下の掃除だけでもかなりの時間と人員がいる。

調理師免許は持っていないが雑務など担当されるのだろう。かなり大変だろうが満足できるレベルでこなすつもりだ。給料を与えられるから手は抜かない。


「いえ、それは結構です」


しかし、それは必要がないと言わんはかりに手を突き出して広げる。


「えっ?えぇーと…」


「素人が掃除されても困ります。

貴方はお嬢様と遊んでください。命令はそれだけです」


「…冗談では、なく、ですか…」


「多くは求めません。それだけです」


な、なんだろう。子供みたいな仕事ワークなのですが…戦力外通告されて執事になりました。

…おそらく、ここに来ることは2度とないだろう。

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