第353話―カナの疾走―

普段なら決して足を向けない本屋へ飛び込む。私を歓迎をするのは店員と入口の正面に置かれている流行らしき本。

目立つ所に置いて購入しようとしているのが分かる。鬼滅の刃とかあるし。


(うーん、東洋お兄ちゃんって何をあげたら喜ぶのかな)


とりあえず流行しているのは避けよう。プレゼントに選ぶには賭けになる。もし「あ、ありがとう…」もうそれを買っていて愛想笑いに近い笑みで送られても誰も得はしない。


(まずはマンガコーナかな)


人に何かをあげようと真剣になって考えるのは久しぶりだった。

身内もカウントすれば、お母さんになる。本の下に付けているオビを見るのは好きだった。

売り上げを狙った文字を見ると、つい手を伸ばして見てしまう。

現に私はやっている。絵は良かった、けどセリフが長くなりそうなので閉じて元の場所に戻す。


(このマンガは東洋お兄ちゃん好きそうかも。可愛い女の子がキャッキャしている話だし)


読んでは戻していく。いくらか気になる本を見つかったが問題があった。


(1巻だけというのは中途半端だよね。出ている分を購入をするほど経済的に余裕はないし。

なら巻数が少ない本は…はずれだったら、どうしよう)


「うーん……」


腕を組んで本棚に並べているマンガを凝視しても決断が出来ない。

なら小説を売っている所ならどうか。

文学作品には詳しくないが何冊か買わないと完結しないよりもマシなはずだ。

財布にも優しいし、きっと見つかる!

しかし実際はそうはいかなかった。


(な、何を買えばいいの…)


迷った、何をしようかと悩んで迷った結果がマニアックそうな作者を探す事だった。けど読者好きでも読まなそうなものが分からない。一周回って有名な作家ならどうか。

夏目漱石の[吾輩は猫である]、村上春樹の[風の歌を聴け]、太宰治の[人間失格]などなど。


(思ったよりも読みやすい内容で良かったけど絶対に持っているに決まっているじゃん!!)


持っていない本を選んでも内容が面白くなかったら失敗だし、本棚にある本なら気まずい空気になる。

これ袋小路じゃん!もう、どうすればいいの。元気になってほしいのに。


(んっ?この本…)


面白そうな題名タイトルを見つけた。変身という本。作者はフランツ・カフカ…まったく知らない。外国の人なら分かる。


「ちょっと調べて見よう」


アマゾンレビューを参考にして購入を検討しようとスマホをスクールカバンから取り出して検索。

かなり好評だった。よし、買おう。

レジに向かおうと文学作品が売っているコーナーから参考書コーナーに進むと栗色の髪を後ろに束ねた知り合いの女の子がいた。


「おーい、真奈さん!?こんな所で会うなんて奇遇だね」


「えっ…カナちゃんだ。こんばんは、本当に奇遇だね」


挨拶をされた。私も返した方がいいのかな迷っていると真奈さんの手に持つのは難しそうな参考書。


「あー、そう言えば真奈さん受験生でしたね」


「うん。腕試しにと参考書をいくつかねぇ…そんな事よりもカナちゃん、お兄さんは?」


「いつもいるとは限らない。

そんな事を言われるなら逆に真奈さんの方が、お兄さんといつもいるイメージだよ」


「そ、そうかな?フフッ、ありがとう」


「なんでお礼!?」


幸せそうな笑顔をみせる真奈さん。

なんだろう心の底にモヤモヤ感が…認めたくないけど、これ嫉妬だ。

真奈さんは好きなのに醜い感情が抑え込むのが必死に抗う。その一方に二人は、お似合いだから応援をしたい気持ちもある。

このモヤモヤ感は、どうにも払える気がしない。

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