第350話―暗闇の小雪6―

勉強机に向かって励んでいた頃の記憶をよみがる。


(流れに呑まれず進んでいく…遮るものが無くて、リズムが乗っている!)


ワタシは勉強机の上に広げていた参考書を読みながら白紙のノートをペンで文字と数式で埋めていく。

内容をスラスラと目で追いかけ、膨大な情報を次々と分析していき、要点が見えるかのように捉えて書くスピードは止まらない。

ワタシが広げているのは、定番の参考書の一つに数えられる東京大学受験指導専門塾の鉄緑会てつりょくかいが作成している過去問題集だ。

超優秀な生徒のみだけが所属とされている。この参考書は基礎をどれほど固めてないといけないか分からないが理解が難しいとされている。

止まることなく真っ直ぐ進んでいけるほど学習していくのは異世界チート主人公になったような気分だった。どこまでも問題を倒していく。

そして熱中していて指が悲鳴を上げる。


「無我夢中になっていた」


そう他人事のみたいに呟くほどワタシは、没頭していた事に改めて実感する。

本当に没頭をしたワタシは時間が忘れて近くに置いている目覚し時計を確認して驚く事しばしば。


(そろそろ、お兄さんに会いたい)


今すぐに会いたい。部屋を出て階段を降りてリビングに入る。

勉強専念してママに預けたスマホを返してもらい部屋に戻ってベッドに座って向いますと旨を送ろうとして手が止まる。


(ここは伝えないでサプライズで行こうかな。フフッ、きっと驚くだろうなぁ)


後ろから両手で目を塞いで耳元で「だ〜れだ?」囁やいてドキッとさせたい。


(いや、その前にお兄さんがどこにいるのか、よく分からないのに難しくないかな…家にいるとか)


葛藤した。そして決めた!成否が怪しいサプライズよりも確実に会える約束の方へ。でないと、サプライズで留守だと分かって、かなり手間になって居られる時間が減る。

電話でお兄さんと話をした。やはりスマホだと本物の声よりも違和感があったけど喋り方や気遣いは大好きな人のまま。通話が終わり熱くなっていた心は平常になっていく。


(わあー!?ワタシなんて恥ずかしい言葉を言ってるのぉぉぉ!!)


後悔先に立たず。けど反省しようが距離を縮めたいと想いが強くて、そのまま勇気を振り絞って妄信だけに留めるつもりだった言葉をいつの間にか言っていて…恥ずかしい。

これは治る気配がない、自分の事なのに。きっと見送ってからもワタシは心を火傷するのだろう。

本当の後悔先に立たずは、これからだ…絶望と希望が交差する。


(恥ずかしさで火傷を追うなら、お兄さんに意識もっとさせてから後悔するのもいいかも)


それからオシャレが苦手意識があるワタシはママに相談して手伝ってもらった。かわいいと褒めてくれるかな?頭をなでなで今日こそはしてほしい!

そんな願望が溢れるワタシは家を出て遅めのデートに向かうのだった。

そんな夢を見ていた。回顧は終わり現在、ワタシはお兄さんに大好きと言ってしまった………。

手袋のおかげで汗がにじんでいるたのを分からないはず。


「へ、へぇー真奈さんって東洋お兄ちゃんにそう思っていたんだ。

ふーん、意外だなぁ私は。それで近くないかな?公共の目というものがあるじゃん。ほどほど感じで、私は別にいいんだけどサファイアや猫塚だっているんだから刺激が強いのは我慢をしないといけませんよ」


カナちゃんは笑顔を浮かべていたけど明らかに作り笑顔。それに眉根が寄せて感情を読まないためか通常に戻したりと繰り返す。

ど、どうしよう…怒っている間違いなく。


「き、気をつけるねぇカナちゃん」


たぶんワタシ自身が進む速度を緩める事はないと思う。カナちゃんは納得していないままワタシをしばらく睨まれた。

女の子にこう嫉妬を向けられるのは初めてなのかもしれない。きっとこのような嫉妬は長く続いていくかもしれない。


「お兄様この方は正室なのですか?」


震える手でワタシを人差し指を向けるのは金髪碧眼のキレイな女の子だった。貴族令嬢な雰囲気がある。……えっ正室って本命の妻ことになるの。


「……い、いつかは」


「違う!違うから、先までキスの件を聞いたのに結婚をするのは無理があるでしょう」


お兄さんは否定するけどキスとか何か?聞くのが恐くて頭がざわつく。それにお兄様って呼んでいたことを問い詰めたい。


「そうでござったか」


数百年前に使われていた言葉を聞こえたが、きっと幻聴だろう。


「お、女の子が多くてモテモテなんだね兄は。だらしないかな、そういうのは」


サングラスを掛けたモデルのように整った女の子が不機嫌そうだった。次は兄と呼ぶ女の子まで。


「否定したいけど否定は出来ないなぁ。それには肝に銘じるとして、説明するのが難しいけど邪な心はないと宣言させてもらうよ」


信念のあるお兄さんの言葉にワタシは愛おしい気持ちになる。お兄さんは目立つことしないで優しくしてくれるのだ。料理の栄養を考えてくれたり、困っていたら用意してくれたりもと稚拙だと感じたものもあったけど、そこがかわいくてドキッと揺さぶれてときめく。

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