第349話―暗闇の小雪5―

夜の気配が近づいて西空は茜色あかねいろに染まり広がる。

真奈とした合流の場所へ先に着いて待っていると花恋が話題を振った。


「気になったけどさ東洋お兄ちゃんって色んな女の子と知り合いじゃん。それで付き合っている人とかいるの?」


今まで談笑していたペネと猫塚さんは耳に入ったのであろう。

興味津々と表情を表れないようにチラッと横目を向いているが話を中断して視線をさり気なく向ければ隠せていない。

言葉から変換するなら交際しているのか訊かれている。


「交際している人は、いないよ」


「ふーん。そう、なんだ…真奈さんとは……やっぱりキスとかしたの」


「!?」


流石に問われる内容がストレートで新雪のような頬を赤くみるみる濃くなっていく。もし去年の俺なら虚構でよく登場人物が分かりやすい反応を示したと思うが、

激しい動揺は3人の前では見せていないはず。それで体裁を保った成長を誇らしく思うより耐性がついて成長したのか判断が出来ない。


「しないよ。付き合っていないのに、そんな不誠実な事はまず無いから」


「うん、うん!そうか…なるほどね。

ちなみに私もまだだよ」


「そうだろうね。高校生でキスしている人なんて少数と聞くし」


一体どうしてこんな話をしているのだろうか。花恋は無自覚だろうが頬が蕩けるような笑顔を浮かんでいるのを。恋は妄信もうしんして体裁なんて保つのを失念させるものがある。真奈にどんな発言を受けてもポーカーフェイスを貫こう。

静かになった二人を気にして花恋は後ろへ振り向くと放心状態の二人を見る。


「ど、どうしたの!?達磨ダルマさんが転んだみたいになって」


ペネと猫塚さんは俺がキスをしたのかと尋ねられたのを衝撃でフリーズ。掛けられた声にようやく立ち直る。


「せ、接吻せっぷんをお聞きするのは踏み込みすぎだと存じますが」


「花恋ちゃん振る舞いが、なんだか年上の人に誘惑しているみたいに見えたよ!!」


傍観していた金髪碧眼ペネとサングラス猫塚さんは花恋を軽率であると指摘する。

俺からは花恋は後ろ姿しか見えないが耳元がリンゴのように熱くなっている。


「ち、違うよ。二人とも落ち着いて」


これは止めた方がいいのだろうか。責め立てているようにも見える一方で忠告しているようでもあった。

しどろもどろ、花恋は上手く言葉が紡げずおもむろに振り返る。涙目をして助け舟を要請してきた。

そろそろ勘弁してもらおうと前へ足を一歩、出ようとして手袋した右手をギュッと記憶に深く刻まれている力で握られる。


「奇襲だよ!フフッお待たせ、お兄さん。この時間だから…こんばんは。なんだか新鮮味を感じる」


「…真奈。こんばんは、まさか大胆に来られるとは思わなかったよ」


背後から気づかないよう忍び寄ったのか、真奈も手袋して手を握られるとは思わなかった。

そのまま真奈は隣に移動して愛おしい人にだけ向けるべき微笑みをして見上げる。


「フッフフ、お兄さんの慌てる顔を見るの……えーと、大好き」


「猪突猛進か!?」


多幸感に満ちていただろうか。整った言葉をじゃなくストレートで高威力の発言にドキッと心の奥深くに高鳴る。落ち着こう、俺は大人で隣に微笑むのはJKさん。


「それで…お兄さんまた新しいJKと知り合ったのですねぇ。正直ワタシ呆れているかな」


真奈はペネと猫塚さんと知り合った事に何を言っても止まらないと諦めの悟りをした笑みで言った。

今度は花恋、ペネ、猫塚さ三人が呆然となる番だった。

典型的な修羅場していないだけ助かったと感謝するべきだろうかと益体のない考えをするのだった。

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