第297話―夏休み終了しても夏は続く―

「お兄ちゃん行ってきます」


冬雅の見慣れていたはずの制服は夏休み期間で心拍数が上がった気がしたのを上手く隠して比翼と見送る。

なかなかドアを閉めようとせず冬雅は満面な笑みで手を振り続ける。


「悠長にしていたら遅れちゃうよ冬雅おねえちゃん。毎日イチャついているんだから少し離れるぐらいじゃん。早く、早く!」


「心配は無用だよ。ピンチになったら走っていけば間に合う!」


「その走らないと遅れる時間帯だから急いでよ冬雅おねえちゃん!!」


冬雅は通常なら遅れる時間まで俺と他愛のない話をしていた。それで遅れるのは危機感を覚えた俺は促してみたが「走れば間に合うので、お構いなく。ねぇ、お兄ちゃん頭をなでなでしてほしいかな?」っと焦りをみせず寛いでいた。


「まだ顔を見たかったけど、休み時間に連絡します!」


「ああ。ほどほどに頼むよ」


随時ずいじなにかと知らせてくるだろう。注意をしてもきっと効果はないと思いながらも俺は

冬雅と離れてラインすることに

楽しみでしかたなかった。

冬雅画学校に行き比翼は自己研鑽を怠ることなく続けて移山は、いつもの愚痴を零して仕事する。

俺は昼過ぎに、ある人に会いに行った。日本に在住するイギリス人のエミリーの部屋は酒臭くビール酒が所々に落ちてテーブルに豪快に飲む金髪(ボサボサ)美女(いわゆるダサいジャージ姿)さんが。


「ぷはぁー、夏のお酒は最高!

昼に飲むお酒は美味しい!」


「・・・エミリーさん。平日の昼ですよ、まだ。久しぶりに会いにきたらこれって・・・・・ハァー」


あまりにも怠惰な生活に呆れてしまって大きなため息が自然と吐く。


「いや、だってバイトも難しいのよ。ならマンガで一発逆転の一攫千金を狙うしかないじゃいのよ〜。でも上手くいかないのよ」


なるほど。だから安いビール酒で八方塞がり状態で羽目を外すそうとして焼け飲みをしているのか。これは、何というか・・・感情が部屋に反映されたみたいに乱れている。

足元を気をつけても軋む音、カーペットの上に捨てられている空き缶。おそらく誰も来ないから自暴自棄になって自堕落な生活になったんだろうなぁと漠然とそう思った。


「片付けておきますので、その間にシャワーとか顔を洗いに行ってください」


「ほぇー?めぇしかして、やってくれるの。やっりいぃたぢかる」


「・・・先ずは水を飲んでください。呂律ろれつが回っていませんよエミリーさん」


「だぁーい」


痛飲したエミリーはタコのように顔は赤いまま挙手だらんとした笑みで向かっていく。アルコール分解には水が定番だけど、

ついでに家にあるインスタントの緑茶を淹れて軽く遅めの昼食にシジミ味噌汁など作っておくとしよう。緑茶に含まれるカフェインとカリウムには利尿作用りにょうさようでアルコール濃度を下げる効果、シジミ味噌汁は確かタウリンがいいと何かの本で記されていた・・・うろ覚えだけど。

キッチンも酷いものだったが居間よりも惨状ほどなく片付けて取り掛かる。インスタントになるがごはんをレンジで加熱しシジミ味噌汁と卵焼きを作る簡単な料理。

皿に移してローテーブル置く前に缶ビールをなんとかしないと置けない。

途中から気持ち良さそうに戻ってきたシャワーした後のエミリーさんに手伝ってもらう。お客さんがいるからかオシャレな普段着をしている。


「ガァー、片付けた。これ一人だったら心が折れていたね。絶対的な絶望をして」


「そうならないように日頃からゴミを捨てることからですよ。

まずは昼食を食べてください。ちなみにお酒は一切ありませんので」


「ぐっ、なんだか言葉にトゲを感じるのだけど・・・真奈ちゃんとケンカとかした?」


この人の中では俺と真奈は恋人と思っている。そのうち便宜上で隠そうとしていたと告げる必要はあるけど、非常に言いにくい。

過去の俺はどうしてあんな嘘をついたのか。


「うめぇー!!お弁当やカップ麺じゃない手作り料理はやっぱり最高だぜ」


歓喜の叫びをして勢いよく箸を立てながら食べる姿にお酒の肴を食べていないのかなと細かい事を考えた。

食べ終えるまでスマホで冬雅の休み時間に送ったメッセージを返事でもしておこうと実行しようとするタイミングでインターホンが鳴る。


「出ましょうか?」


「んっ、頼むわ。たぶん知り合いだから」


エミリーさんの知り合いは確か俺が知っている範囲でなら三好さんか男性が二人。玄関に向かい開けるとその男性の内でクレイジーな人。


「まさか君がここにいるとは東洋くん」


前髪を上げてカッコよく決める。

典型的なナルシストな行動に俺は苦笑して挨拶を済ませると居間に

連れて戻るとエミリーさんが明るく手を振る。


「久しぶり元気だった?」


「まぁ、そこそこは。女子高生に取材してきたばかりだからね」


容姿と態度だけなら好青年の木戸孝允きどこういんは喜々とした笑みでそう言った。

よし通報しよう!


「ふーん、あんな怪しい本の取材をね・・・それより久しぶりにアニメ鑑賞しない?新しいの買ったんだけどね――」


俺と木戸さんを呼び出したのは、どうやら寂しくて盛り上がる人が欲しかったようだ。本人の口では言っていないが言動から察した。

日が傾くと俺はエミリーさんを別れを告げて外に出る。

先に出ていたはずの木戸さんがマンションの駐車場で降りてきた俺に軽く手を振ると次には招くように縦に振る。


(なんだろう。今から街中に行って女子高生をナンパしないとか誘いだったら迷わず通報しよう)


そう決意して近寄ると封筒を渡された・・・・・なんだろう?

厚さを感じないけど何か入っているのだけは分かる。


「これは俺が調べて書いた本。

もしよければ感想をお聞かせ願いたいんだが」


「ああ。そういうことでしたら」


封筒の中は本か、少し読むのが楽しみな俺は帰宅して二階の俺の部屋ベッド上に置くと夕食を作る。


(夕食が出来たよと2階にいる冬雅の返事はなしか。見に行くか)


夕食が出来上がってから外は真っ暗の闇色。疲れて寝てしまったのかなと思い部屋を開けると本を読んでいた。表紙からしてグラビアアイドルだろう?


「冬雅ごはんが出来たけど?」


「お、おぉお兄ちゃん!?」


パニック状態になる冬雅。本を落としそうになるのを必死に広い

顔は真っ赤に染まって目は揺れている。


「お兄ちゃんその胸は小さいけど、かわいい服ならたくさんあるから飽きない工夫はしますし。

それにわたし初めてですけど」


スロー再生ようにゆっくりと手をリボンに触れると解いていく・・・

そしてボタンを一つずつ離していく。


「お兄ちゃんが知らない女の子を見てそうなるのも仕方ないけど、したいなら、わたし頑張ります」


冬雅はこれ以上ないぐらいに白い頬を鮮明な赤に染まり、スカートをめくったりと誘惑が強すぎないかと思う。俺はそこで視線を下に下げると大人向けの本が置かれていた。内容は妹とデート以上を!

こんな本は俺の本棚には無い。

もしかして木戸さんが渡した本ってこれでは。まだ開けていなかったのが失敗した。


「冬雅その落ちついて」


「でもキスはまだでお願いします。キレイな風景でしたいので」


冬雅の誤解を解くまで時間はなかなか掛かってしまった。

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