第209話―彼女達は夢を見て、俺は夢をつかめず9―

平野家に泊まることに決まり真奈の父親さん以外は、声のトーンを上げて

喜んでいた。

喜ぶをたとえるならサッカーや野球で応援しているチームの選手が得点を取ったような喜びだった。真奈の父親さんは、苦虫を噛み潰したような表現は、

応援していたチームがボロ負けしたようであった。しかし俺は、野球やサッカーのように熱中するほど知識や時間も使っていないので、そんな反応だろうと固定概念で思った。


(・・・ここ、どこだろう?

うーん・・・・・ああ!そういえば真奈の家に泊まる事になったんだ!)


起きたばかりの半醒半睡はんせいはんすい

換言するなら、起きているのか眠っているのか分からない。

トイレに行こうと真奈の父親さんと同じ部屋に寝ていた俺は出る。

絶対に俺が起きるまで部屋を出るなぁ!と言われたが、さすがにトイレぐらいはと思い部屋を出た。

すぐに戻り、ベッドで眠っている人を起こさないように客用の布団を敷き床で寝ていた場所から慎重に音を立てず歩く。部屋を出て一階で用を足す。


「あれ?お兄さんここで何をしているの。あっ、もしかして迷子だったり」


「真奈。えーと、おはよう」


リビングルームの場所からドアを開けて、ばったりと合ってしまった。高級感のある純白のワンピース型の寝間着。上品にった作りに品位のイメージが強い白のカラーは、真奈という存在を

高めさせると思った。


「えっ、おはよう・・・お兄さん廊下で右往左往しているけど困っている?」


「真奈の中では俺は迷子になっていると見えているのか」


「うん、見えるよ。お兄さんを助けたくなったから。あれ?・・・これって保護欲や庇護欲をき立てる貴重なリアルカテゴリー!」


「真奈よりも十年は生きているのにそんな風に思っていたのか・・・。

比翼は?」


最後の大幅に省いてしまった質問をしてしまい説明不足だと自省。

クスクスと微笑んでいた真奈は

振り返り窓越しからの照明器具の明かりを見る。


「あぁ、それならワタシの部屋で熟睡中ですよ。強く抱きつかれて

出るのに一苦労だった」


どうやら真奈も比翼の掴み技には脱出は難儀のようだ。もし、格ゲーの掴み技であったら受けたら

技が終わるまで抵抗せず待たないといけないあの悲しい時間がある。比翼の密着度によっては

ゲームのような抵抗を諦め、おとなしく見る事になっていただろう。


「そうなのか。じゃあ今は一人だけ勉強とかを?」


「う、うん・・・・・」


気になってした質問が、頬を赤らめさせる結果になった。

こんな質問に少なからず好きな相手に掛けられたら、そうなるのが必然か。どんな解釈したか知らぬが、おそらくイケメン等がよく

使いそうな女の子が喜ぶ意味に都合つごう自動修整したのだろう。


「それじゃあ真奈。俺は二度寝をするよ」


真奈の両親に二人でいる所を見られたら大変だろうと脳によぎって

手を振り去ろうとした。

服のすそを軽く掴まれた。本当に軽く掴んだ程度で進めば振り払える。真奈は、引き留める咄嗟に手が伸ばしたのだと振り返って本人が信じられないと

驚いている。そうなれば、真奈は声を掛ける余裕はないのは赤くなった顔で語っていた。

俺は階段に登り振り払うか、どうした?なんて質問するかの2択に

躊躇ためらわず第3を選ぶ。


「真奈、少しだけ手をにぎってもいいか?」


「・・・・・うん」


質問に答えれる余力がないと勝手に俺は判断して頷くだけで返事が

出来るお願いをした。

もし断れたら、なんて頭に入れていなかったのを頷く動作をする真奈を見て気づいた。


「もし嫌だったら――」


「ありえないよ、お兄さん!」


「・・・ああ」


断わってもと言葉は途中で強く遮られる。予想外な反応で俺は少しだけ狼狽というものをした。


「それじゃあ握るよ」


「う、うん」


宣言すれば少しは甘いのか重たいのか分からない空気を緩和すると考えたが、効果は不明。余計に

緊張したか、少しだけ和らいださえも。

ゆっくりと右手で向かいに立つ真奈の左手を握ろうとかめのような歩みで近づく。

そして、真奈の左手を当たる。


「んっ!」


変な声はやめようね。そうならないよう気をつけたし誰かに見られたら誤魔化す自信は俺には無いです。そんな非難めいた言葉を

心でしないと手に汗がつく。

なかなか繋がず起きる緊張は、真奈の温かい手や柔らかさに

安堵と安らぎを再び味わう。


「真奈の手・・・気持ちいいよ」


「お兄さん・・・ワ、ワタシも気持ちいいよ!」


手を決して離さないと強く握る真奈。それが羞恥によるか懐かしさによるか真奈のみぞ知る。

恋人でも家族でもないのに手を繋ぐことに俺は頭をでるよりもハードルが低いと思っている。それから廊下で数十分ほど過ぎて俺と真奈は居間に入る。

入る際も手を繋いでいたが、

ダイニングテーブルに近寄ると手を離して向かう合うよう真奈が

俺の前の席に座る。


「お兄さん聞いて。ワタシ勉強で分からないところがあるので

横に回って隣で教えてくれない?」


「ん、分かった」


大学受験を遠くない真奈の力になれるか分からないが俺は首を縦に振ると満面な笑みで返した。

それだけで威力は凄まじく鼓動が早まるのを感じた。俺は真奈の

左に回って座る。


(最近、会っていないからか?

それとも真奈が前よりも魅力みりょく的になったから)


「この問題なんだけど・・・」


「げぇ!?数学か・・・しかも難しくて教えれることはなさそうだ」


「フフ、そうなんですね。

じゃあ隣で見守ってください」


微笑む横顔をノートと参考書に見落としたままで言った。

まるで花が咲き乱れる場所で浅瀬あさせの流れる優しく心地よい声で。


「それだけでいいのか?」


「うん。お兄さんが近くにいると元気になれますから」


嬉しいけど、サラッとそんな恥ずかしい言葉を言われると嬉しいのだけど胸に痛みが起きる。

これは、罪悪感だ。俺はいずれ関係を真奈を離れないと言わないと

いけないことに関することによる

苦痛だ。


「ふわぁー、」


「眠たいのか真奈?」


三十分が経ってから真奈の欠伸あくびする回数が増えていた。


「うん。お兄さんが来るのかなってドキドキして待っていたら。

一時間ほどで諦めて就寝したゆだけど・・・って!違う。お兄さんを揶揄からかうためなんだからねぇ!」


途中から恥ずかしいセリフと気づき顔を向いて俺にそう言った。

襤褸ぼろが出ていたが、そこを指摘なんてせず俺は「騙された」なんて下手な演技のトーンで返事した。真奈は少し落ち着いたのか視線をノートに戻して止まったペンを走らせる。

書くのが早い。


「お兄さん、香音とは上手く行きました?」


そういえば、真奈に報告はしていなかった。もし、この場に羽柴香音さんがいれば俺を罵っていたのだろうか。とにかく真奈の

懸念を詳細に説明しないと。


「ああ。真奈そのことで伝えようと思っていたんだ。香音とは――」


香音に下の名前とある程度の距離を許させるほど進捗があったことを・・・これだと俺が家臣みたいだ。そうなると傍若無人ぶりの香音は織田信長で俺は明智光秀だろう。いや、明智光秀と似ているところなんて無かったのだ自画自賛。

話を静かに相槌を打ち聞いていた真奈は、ゆっくりと口を開く。


「良かった・・・でいいのかな?

距離や罵声が優しいって、言葉がおかしいような気がするけど」


「説明した俺も思ったよ。そのうち一緒に真奈の家に行こうって約束はしたんだ」


「へぇー、そうなんだ。

お兄さんありがとう、ワタシの頼みをしっかり果たしてくれて」


真奈は、手を止めて俺に向くと

真っ直ぐな瞳と表情で感謝の言葉と笑顔を向けた。


「いや、全部が真奈のためじゃないよ。個人的な感情でしただけだよ」


もし頼まなくても俺は、自力で、なんとかしようと決断して行動に移していたはずだ。だから信頼を寄せるほど俺の価値はないと

思っている。


「お兄さん照れていてかわいい!

それじゃあ、気になった点がどうしてもあったのだけど」


「気になった点?」


真奈の言葉になんたな背筋ご凍るような感覚になったのは寒さが原因だろうか。


「香音って、どうして下の名前で呼んでいるのですか?」


「えっ?あ・・・いや」


どうやら寒さが原因ではなかったようだ。これは、もしかして嫉妬という感情なのだろうか。

香音は椅子から立ち上がり指を俺の頭の前で向けた。


「お兄さんが女の子には下の名前をそんなに言わない。ううん、

自然な流れでも言わないはずだから、香音を惚れるように計算していたと思います。そうじゃないと香音が惚れるのなんて難しい。

お兄さんもうやってしまったから責任を取ってください」


涙目で可愛いキツネに睨まれたらこうだろうかなと叱責する真奈の姿を見て浮かんだのだ。

それから真奈の説教は続く。理不尽に思いながらも俺は反論すれば理路整然としたセリフでも水に油と化すだろうと思った。


「お兄さん・・・温かい」


それから勉強を再開する真奈に、俺は静かにスマホで読書していた。読んでいる本は、SAOオルタナティブガンゲイルオンライン。

ピンクの悪魔がデザートピンクカラーのP90からフルオートするシーンで肩が当たっていた。

視線を横に向くと真奈が近づき肩と肩が触れる距離にあると。


「えーと、休憩かい?」


なんとか離れてほしい。こういうのは慣れていないので。


「うん。今は充電中で、こうしているとすぐに元気になれるので」


「なるほど。うーん、頑張って」


特にツッコミや否定するような

ことはないので俺は読書に集中する。充電が終わったのか真奈が

離れて参考書を読み始めた。

またも肩と肩を触れる距離。離れたのは取るためか。

俺はある光景を思い出した。比翼や香音が夢を語るのを。


「真奈。その、夢ってあるか?」


「夢を?」


参考書を閉じて俺に横目で見て訊ねる。


「ああ、なんでもいいよ」


「プロゲーマーや弁護士とかカードゲームプロもいいですね。あとは社長など」


「な、なるほど」


流石さすがは真奈。スケールが大きくそれが叶えないと欠片かけらほども思わせない実力と自信がある。

俺は苦笑して、こう返すことにした。


「流石は真奈。略し、さすマナ」


「むぅ!何よ、それは。

JKにデレデレするお兄さん。略してジェにい」


その変な呼び名は最初で最後になるだろう。頬を膨らませて

機嫌をわるくする真奈は、可愛いと俺は言葉にせず心の中で言う。

真奈の夢は、あまりにも多い。


「あ、後はお兄さんのお嫁さんになること」


沸騰しそうになるのなら言わなくてもいいのにと俺は、思いながら苦笑して明確的な返事をせずに曖昧な返事を示した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る