第199話―柘榴坂公立高校Ⅱ―

日差しが差し込む教室に、同級生が次々と集まっていく。


「おはよう冬雅。久しぶり」


真奈と遅れてきた茜と久方ぶりに話をしていたら、この教室では

成績優秀で運動抜群、真面目で教諭の信頼も高い上に同級生でも

嫌いな人はいないであろう眉目秀麗の岡山牛鬼おかやまぎゅうき


「おはよう岡山くん。今日もさわやかだね」


わざわざ挨拶する岡山くんに、わたしは笑顔を作って挨拶を返す。


「・・・あ、ありがとう冬雅・・・もし、良かったら放課後いいかな?」


彼は前に、わたしを告白をしていた。羞恥心を押し殺すように

口を引き結び、身をすくむのが感情に出ている。

言葉の意味も含めて、その意味が分からないほど伊達にモテていない。


「ごめんね。気持ちは嬉しいけど放課後は早く帰らないといけないんだ」


「そ、そうなんだ・・・また別の日に誘わせてもらうよ」


岡山くんは肩を落とし、去っていく。

勇気を振り絞った言葉を首を縦に振ることは出来ない。

きっと彼は告白は早いと時期早々と判断して、ずはカラオケや時間やお互いの事を知ってから計画を立てていたのだろう。

わたしも、お兄ちゃんにドキドキさせるため用意周到に猪突猛進。

ドキドキさせて惚れてもらう

努力や考える事も現在進行形のわたしは痛い程に理解できる。


「すごいモテモテだよね冬雅。

それでお兄さんに何をやらかすの?」


わたしの机に半身で座って興味津々と訊ねた。


「や、やらかすって。言葉わるくない?」


「そんなこと無いと思うけど。

茜もそう思うよねぇ」


「はい。顔を隠したくなる過激なセリフをしますし」


「えぇーー!?あ、茜まで。うーん十分に常識的な範囲だと客観的に見てもそうはずだって思うけど」


親友二人からの散々さんざんな言われように、わたしは戸惑いを覚える。そんなこと無い。

例えば毎日と告白をするでしょ 。

飽きないように色んな恰好やコスプレだってする。


不可抗力と装って近づくのも。

・・・思い返すと奇行だって分かりました。比翼が言ったことが今になって理解した。それはそれで

変えるつもりも反省は刹那のみです!

帰ったら、告白するし今日こそは頭をなでてもらうんだから。


「冬雅、絶対ロクでない事を考えていたよね」


「そ、そんなことないよ・・・」


真奈は鋭いです。決意に燃えるわたしの心を読み取り疑いのある人に監視されるような眼差しを向けられる。


「平野さん・・・その」


真奈の名字を呼び、なかなか言葉を発せずに緊張してガチガチとなっている飯富冷陽おぶれいよう。よく見るとメガネのフレームが少しオシャレになっている。

去年の文化祭では総指揮を執る

ような活躍していた。


知的な雰囲気を裏切らず成績は頂点に真奈と拮抗している。

ちなみに真奈、自身は自分との戦いと意識が高いと思っている

ようでライバル視しているか怪しい。


「おはようレイヨ。元気にしていた?メガネを変えたんだね、カッコイイよ!勉強もオシャレ頑張っているんだね」


「そ、それはどうも・・・あ、あの平野さんおはようござい・・・ます!」


きれいなフォームで挨拶をしたレイヨこと飯富さん。わたしは懸念材料が一つ。その懸念材料である一人が獲物を見るような猛禽類ごとく鋭い目つき。


「その平野さん、もしよければ放課後に一緒に勉強をしませんか?

どんな勉強法をしているのか

気になります!」


ビキッ。岡山くんと友達グループの間に闇が溢れ出してうごめいている危機感。


「うーん、そうだね。帰っても一緒だから構わないよ」


「ま、まさか一緒に勉強を出来るなんて・・・」


真奈の言葉に信じられないと言わんばかりに震えだす飯富。

まさか快諾されるとは思っていなかったようで硬直しました!


「畏れ多くも真奈様に勉強を・・・その遅い高校デビューのメガネ」


「メ、メガネ・・・失礼にもほどがある。なんだお前は」


「舐めるような視線に義憤に燃やす名も無き美少女だよ!」


「ま、待ってくれ。そんな大きな声で舐めるようなはやめてくれ」


舞い上がっていた彼は羽柴さんの

声で戦々恐々となっていた。

それでも弱音を見せないと訊ねるとセクハラ扱いされて混乱。

ただ、挨拶してこれだから優しくないにもほどがある羽柴さん。


「な、舐めるような目」


愚直な真奈は友の言葉に信じてしまい両手で身体を覆い隠すよう

にして縮む。


「誤解です平野さん。一体なにが目的なんだ」


「ふふっ、聖域を侵す俗物をほうむるのが自分に課せた使命。それ以上も以下もない」


羽柴さんに暗く冷たいわらいをこぼして、エアナイフ(実際にあるように見える)で獲物を冷酷に狙う。


「ど、どういうことなんだい!?」


彼は唯我独尊な答えをする羽柴さんに、挙措きょそを失う。

慌てて何がなんなのか理解できず

狼狽。

わたしは、呆れて苦笑してしまうほど自由で独創的な理屈に

思考をするのは放棄しました。

不穏な空気になり、頭を抱えたくなる中で真奈は立ち上がる。


「ストップ!色々とツッコミたいところ満載だけどストップ。

よく分からないけど、ワタシは怒っても迷惑なんて思ってもいないから仲良くしないと」


ルサンチマン化とした羽柴さんは戦意を収めた。仲裁した真奈の

言葉に、もう少しで三年生なのに

最後の甘い言葉なら言わなかっただろう。恥ずかしくて、

そんな反射的になったのは成長して、お兄ちゃんの影響を受け、加えて薫陶くんとうも。


「悪かったよ・・・平野さんが言うなら少しは少しは考えてみる」


「その態度には不満をありますが真奈様の御言葉に従います」


「そう、よかった。無闇にケンカをすると悪い結果へになるよ。

気をつけてねぇ」


「「はい」」


返事がハモったが羽柴さんだけ語調が強い。わたし、冗談で信者なんて心で軽い気持ちで思っていたけど、本当にここまでいくと狂信者。

教諭が入ってきて授業を受けること数時間が経ち時刻は正午。


「冬雅さん、真奈さん。香音と一緒に屋上で食事をしませんか?」


茜はニコッとした笑顔で提案をする。


「うん。いいよ」


「オーケー。行こうか」


わたしと真奈は弁当を持って廊下を歩き先導する形で前に歩く茜と羽柴さん。

二人は、なにやら親しげに笑って話をしていた。わたしは頭脳明晰の真奈に勉強の分からない所を

教えてもらい、屋上のドアを開けてくぐる。


「フィクションみたいに人がいませんですね」


視線を右、左と動かして茜は静寂な屋上にため息をこぼして呟いた。


「びっくりするほど少ないし」


羽柴さんは空を眺めて言いました。わたし達はベンチに腰を下ろして昼食を取ろうとします。

やっと・・・食べれます。


「えっへへ、愛夫あいふ弁当。あいふ弁当」


お兄ちゃんが、わたしのために作ってくれた愛を込めて・・・ど、どうしよう想っただけで目眩めまいがします。幸せすぎて。


「幸せなところ申し訳ないんだけだ冬雅、声に出ているからね」


困ったように微笑ましい表情で真奈は優しく言いました。


「言葉に出ていた・・・わたし?」


「歌いながらね」


「そ、そうなんだ。気をつけねば」


私の恋は世間的に認められるものじゃない。10歳も離れて大人と高校生の恋愛だから。それは憂慮ゆうりょするべき点ではありません。問題は、お兄ちゃん

がわたしと付き合ってくれるかを。恋愛対象に見てくれているか。悶々となりながらウインナーを箸でつかみ口に運びます。


(お兄ちゃんは、前に寝言で愛している言った。わたしの名前

を寂しく何か強く求めての愛している・・・・・あれは、威力が高すぎる)


何度も、何度もわたしの頭では音楽の繰り返しリピートしては戻すの繰り返し続ける。


「お兄さんの弁当か」


「良かったら一品と交換する?」


「えっ?いいの、冬雅からすれば大事なものでしょう」


「そうだけど、真奈がどうしても食べたそうに見ると、

同じ悩みを持つ者としてねぇ」


一品と一品を交換した。真奈は目嬉しそうにしていた。


「その、私も交換って出来ないか?」


嬉しそうにする真奈の隣に羽柴さんが赤面していた。


「あれ?欲しいんだねぇ。いいよ、お兄ちゃんの料理を食べてみて!」


口実を色々と口にして羽柴は受け取り幸せそうに破顔したのだった。

放課後に迎えて、わたしは一人お兄ちゃんがいる家に向かって歩く。夕闇に日が傾き始めていき、

お兄ちゃんは料理を作っているかなと考える。それは的中した。


「おかえり冬雅」


「おかえりなさいです冬雅おねえちゃん!寂しかったよ」


「うひわぁ!?ただいま。比翼そんなに、ほっぺをナデナデしないで。あはは、かゆいよ」


比翼に何度も頬をすりすりされるままされて解放されると、アルコール除菌と洗面所で手を洗う。

ちなみにうがい対策にも、ほとんど効果が薄いと。リビングに入ると、そこにはお兄ちゃんが料理を作る後ろ姿。


(わたしが、もし働くとしたら今みたいに出迎えてくれて料理を

作ってくれるのかな)


それも悪くないと、わたし無性に嬉しくなりました。

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