第188話―挑むホワイトデー―

長かった桃の節句が終わり、感染の恐れがあるため真奈、三好さん、羽柴さんとはなかなか会えずラインでメッセージや通話をしていた。羽柴さんの罵倒を訊いていると元気だなと確認できた。

冬雅と比翼は一緒にいる時間は増えていた。冬雅は「まるで同棲ですね」と言った反動に悶絶していた。


夜が遅くそろそろ寝ようと部屋に入りスマホが鳴る。相手は弟の移山いざんだった。コロナウイルスが広まってから連絡がつかずにいたので心配していたが 一息・・・否、安心するにはまだ早いか。


「はい、もしもし?」


『よぉ、元気にしていたか兄者』


愛も変わらず磊々落々らいらいらくらくな態度を感じさせる移山に安堵のため息。


「ハァー、今まで連絡が無かったけど何があったんだよ。けっこう心配していたんだぞ」


『わるい、わるい。問題が発生して奔走していたんだよ。交渉が専売特許なのに慣れない仕事をやらされて疲れて倒れるように寝ていたんで、連絡がつかなかったわけよ』


二つ下の弟は高いテンションで快活に事情を言った。まぁ、そういう性根しょうねだから注意しても駄目だろうなぁと思い苦笑する。


「元気で事でいいのか?」


『ああ、元気。から元気とか違うから安心しろよ』


「それはなによりと安心させてもらうよ。冬雅や比翼に少し話でもするか?」


冬雅も比翼だって心配はしていたと思う。そう思ったら強い口調で言えばよかったなぁと思ったが俺の性分なので治すのは難しいだろう。


『いや、いいよ。それよりも重要な要件があって連絡したんだよ』


声のトーンを落とし重たい話をするようだ。余程の事だろうと俺は深呼吸して乱れるだろうが絶望しないように覚悟を決めた。


「・・・言ってくれ」


『わかった・・・兄者どうせ忘れているだろうから言うぜ』


「ああ・・・」


忘れている?大事な日に忘れること無いと思うけど現に忘れていて思い出そうと出来ない。それがなんなのかを聞かないと。


『明日はホワイトデーがあるんた』


「・・・・・・・・はい?」


『明日はホワイトデーがあるんだ』


「いや、聞こえているよ!そういうことじゃなく、ほら、重要な話をだよ」


『いや、だからよ。それが重要な話』


「えぇーーー!!どういうこと!?」


あの重たい声調は一体なんだたんだと頭痛を覚えて右手で頭を抑える。うーん、ホワイトデーに死活問題になりそうな事はあったかな?と考え始めて・・・二つ気づく。生まれてから無縁であることと冬雅達にバレンタインデーに貰ったことを。


「・・・あっ!」


『どうやら思い出したようだな』


「あ、ああ。冬雅達に恩返しをしないといけないことを」


義理チョコを貰った人生だったので今年のバレンタインデーが人生最後の本命チョコを多く貰った。

三好さんや羽柴さんは違うけど・・・・。貰った相手が女子高生と女子中学生だから喜びそうなチョコを考えないといけない。いや、そもそもJKとか枠を決めることが良くない。ちゃんと個人として

見ないと。


『どうせ兄者のことだから冬雅や真奈や比翼の三人は間違いなく本命チョコを貰ったと記憶にあるが、一人だけホワイトデーをあげるのか?』


「それは別の問題。今は返すこと想いを伝えることが重要!」


『あの兄者が、ここまで感情的になるとはなぁ・・・応援しているぜ。何か分からない事があれば相談してくれよ』


要件はホワイトデー。もし移山が伝えてくれなかったら忘れたまま迎えて過ぎていたことだろう。

羽柴さんが、ホワイトデーの話を振って俺が気づく流れが容易に想像がつく。しかし問題がある。


「さっそく相談したいんだけど移山!ホワイトデーって作ればいいのか市販されている高級感のあるチョコをプレゼントするべきか悩んでいるんだ。あとは・・・やっぱり渡すときも場面とか言葉も軽視は出来ない・・・何がベストなのか知らないんだ。教えてほしい!」


いざホワイトデーとなると何をすればいいのか分からずパニック状態に陥っている。まったくの未知な領分に勝手が分からない。あぁぁー!どうしよう!?


『・・・いきなりかよ。そんじゃあ、最初にするのは落ち着けだ』


クールダウンしてから、移山から知りうる限りの情報を教えてもらった。実体験と失敗談、それに社内で女性が理想のシーンなど。まぁ、その女性は成人しているので参考には出来そうにないが。

相談すれば適切なアドバイスなど現実的に考えて、そうそうあるわけがなく明朝。


「あっ、お兄ちゃんおはようございます!わたしが作ったおにぎりです。はい、あーん」


目覚めてリビングに入ると冬雅が太陽に燦々さんさんと照らされる笑みで前に軽く走ってやって来た。皿の上にあるおにぎりを口に入れようとする。


半覚醒にある俺は冬雅の笑顔に眠気は霧散した。具はなにか?それよりも好意をまったく隠していないのもなんとかしてほしい。と朝いつものツッコミしたい衝動を抑えて指示に従うことにする。口を開き拳ほどのおにぎりを5分の一ほど口のエリアに入れる。そのまま下に落ちないよう気をつけて食べる。


「うん、美味しい」


「っへへ、良かった。お兄ちゃんの好物のさけが多めに入っているんですよ。あ、あとは愛情とかも・・・えっへへ」


冬雅が朝食を作ってくれるのが日常的になって違和感が無くなってから、どれくらい経過したか。

今のやり取りをしていると新婚生活みたいとか同棲したばかりのカップル、長年のカップルなど

幾度とそんなシチュエーションだと思った。


「おはよう、おにいちゃん!」


椅子に座り俺のでもあり比翼でもあるスマホを見ながら食事をする比翼は顔を上げて明るい笑顔で

挨拶をした。


「ああ、おはよう比翼。

ユーチューブでも見ていたのかな?」


俺は比翼の向かいに座り訊ねてみた。


「ううん。アニメを観ているの」


どうやらdアニメストアなどで観賞していたようだ。俺が子供のときはガラケーで食事すると怒られると聞いたが、今は当たり前に

なっているし、その内に家族がいても無言でスマホを使って食事するのだろうか。


「そうなのか。もしかして比翼は・・・アニメを見たくて朝寝早起きをするようになったのか?」


「それもあるけど・・・冬雅おねえちゃんの影響かな?とにかく思うんだけど!おにいちゃん、このおにぎりに使われている海苔のりって普通すぎない?」


「普通すぎない?・・・もしかして関東や関西で海苔が違う。あれか?」


関西では江戸(東京)が作られた海苔を関西などで運ぼうとすると時間の経過で味が悪くなる。そのため補おうとしたのが、味付け。

そのため関西では味付けを使われ関東では味付けのような甘いのは使われていないのだ。


「うん。関西にいたから海苔が味付けが当たり前だったからね。

東京だと違うんだね」


俺は比翼と海苔の話をしていると冬雅が比翼の隣に座り頭を撫でた。気持ちよさそう目を細めて比翼は、おにぎりを食べる。


「お兄ちゃん今日は何をします?」


冬雅は今日がなんの日か知らないようだ。3月14日ホワイトデーを。

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