第186話―桃の節句イブニング3―

冬雅の家に上がらせてもらい、早速ひな壇が眠っていると、

いわれる押入れを二人で探して発見した。ひな壇と人形も含めて一つも欠けることなく揃っていた。

それに、キレイな状態なうえにっていて冬雅のご両親

が気合を感じる。もし、付き合うとなれば交際を認めてくれるだろうか・・・。


「小さい頃にずっと置いていて良かったです。これなら比翼きっと喜んでくれますよね、お兄ちゃん」


「・・・あ、ああ!そうだね。

保存状態はいいし、助かるよ」


ひな壇を取り出して、とりあえずリビングに運び終えて冬雅は

ひな壇を見て懐かしそうに目を細めて言った。危なかった、交際

なんて考えるのは、ずっと先の話で冬雅が変わらずに好きでいてくれる保証など無い。


恋愛は3年で冷め4年目で終わりのだと

海外の学者も言っていた。現実的に考えたら冬雅が二十歳に

なれば終わるはず。


「お兄ちゃん・・・顔色が悪いけど大丈夫?」


「・・・えっ?」


いつの間にか、冬雅は憂慮な瞳で俺を見上げて右手で左の頬を

優しく触れる。突然の事だった。

かなり離れた年下に、情けない気持ちもあったけど動揺や取り繕うのを避けて思った事を言う。

そうすることが、冬雅には信用を返せるのと安心感もできると思って。


「また心配させてごめん。

いずれ終わるのかな思っていただけだから気にしなくていいよ。

俺もいつまでも、悩むのはやめるから」


「・・・そうだよ。お兄ちゃんのその悩むなんて完全に杞憂きゆうだよ」


「確信するセリフを言われたか。ありがとう」


これも告白の一種だろう。冬雅の気持ちは嬉しいけど考えないと

いけないだろう。現実は虚構のように永遠の愛や運命の人なんて

無いのだから。俺が現実主義リアリストだけかもしれないが。


「お兄ちゃんは・・・」


触れる頬を右手を離れた。すると冬雅が抱きついてきた。腕を背中に回し、離れないようしっかりと押さえる。


「冬雅!?これは、落ち着いてくれ」


「お兄ちゃんはわたしが好きで、わたしはお兄ちゃんが大好き・・・

相思相愛。出逢いや両想いも奇跡で・・・理屈的にデータなんてくつがえせるはずだから!」


声には迷いや震えなど無かった。

ネガティブな発言はなく、相思相愛だと言う。揺るぎない恋慕だと美しい瞳は潤って様々な感情を見て取れる。

苦慮、優しさ、信頼、慈悲、羨望、愛情などだった。


「冬雅・・・俺はまだ答えれない。こんな状況だというのに。

それでも勢いで決めるわけにはいかないんだ」


「・・・うん。告白の返事を勢いのままで決めるような人じゃない人だからね、お兄ちゃんは。

わたしのお兄ちゃんに対する愛は永遠だよ!」


冬雅は感情を抑えきれず頬を伝って流れる涙を拭わず、薄いながら鮮明な赤色を頬に変化していた。

至近距離で見上げてくる冬雅の目から離れず吐息を聞こえる。

この流れだとキスでもするのだろうけど懸命にそれを逆らう。


「2年後に気持ちは変わっていなかったら冬雅・・・正式に恋人になろう」


「・・・・・うん。お兄ちゃん大好き・・・だぁぁぁい大好き!!」


冬雅の強い想いに対して俺は一部の感情を堪える。だけど、いつまでも避けるような事ばかりだと無礼だと思い俺は心のままに答えた。


(・・・だからって俺は冬雅にあんな約束するなんて。俺、自身はまだ好きかなんて分からないのに)


クールダウンして冬雅の自宅でした告白?をしてしまった俺は

後になってから思い出しては消えそうになるほど羞恥心が起きた。

こんな気持ちになるのを毎日とこなしている冬雅は強靭きょうじんな精神だとリスペクトする。


「・・・・・お、お兄ちゃんいい天気ですね」


桃のケーキを作ることやちらし寿司など食材を買いに二人で外出した。まだまだマスクしていないと

いけない状況である。

珍しく冬雅は微笑で隣に立って歩く。


「あ、ああ。いい天気だね」


「そうですよね。・・・・・えーと比翼が怒り爆発する前に早く帰らないとですね」


「あ、ああ。そうだな」


「「・・・・・」」


き、気まずい。俺の口から冬雅を好きだと迂回であるけど言った。

そのせいもあって冬雅は、借りてきた猫のようにおとなしかった。

目的の食材を購入して冬雅の自宅に戻るべきかと考えたが留守番

する比翼にドアをくぐり入る。


「ただいま比翼」


「帰ってきたよ比翼」


「おにいちゃん!冬雅おねえちゃん!おかえりなさい」


スーパーの袋を比翼は見て分かりやすくテンションが上がっている。そんな反応に冬雅と視線を合わせて同じ動作で苦笑をする。


「あれ?おにいちゃん冬雅おねえちゃん仲良く袋を一緒に持つって・・・さり気なくイチャイチャしてない?」


比翼に指摘されて俺と冬雅は激しく動揺に笑顔だった比翼は仏頂面になった。


「ひな祭り?やるの」


冷蔵庫に入れ終えると比翼に、なぜ買い物したのか質問され素直に答えることにした。順調に進み中止になる懸念は無くなったのが大きな理由。


「えへへ、そうだよ比翼。

お姉ちゃんがすごいの用意するから楽しみにしていてねぇ」


「それ期待を膨らませると、逆効果になるようなぁ・・・まぁ期待しておきます」


俺とは拙い会話だったけど、いつもの向日葵ひまわりの如く冬雅は笑って言う。

次にやるのはひな壇と飾る人形の移動となり俺と冬雅はゆっくり慎重にと運んでいく。荷物はさほど多くは無くすぐに終わり、比翼にひな祭りの格好をしようと冬雅が張り切って比翼の手を引いていく。


(その間に執筆は・・・やめておくとして料理でも作っておこう)


料理して数分が過ぎてドアを開く音に俺は振り返り言葉を失う。

比翼は純白のややフリル多めのドレスで身を包んでいた。ウェーブがかった黒髪の右に白の

ガーベラ髪飾りしていた。確か白は希望という花言葉だったはず。

隣の恥ずかしそうしながらも笑顔を向ける冬雅はオレンジのフリルがやはり多めのドレス。

右髪にはオレンジのガーベラという橙色の装飾に俺は一瞬だけ眩しく錯覚した。


あまりにも可愛く長く見続けるとずっと目から離れない可憐さが冬雅にはある。さて、そろそろ称賛の言葉を送るとしよう。


「二人とも似合っていて可愛いよ」


二人には辟易するほど聞き慣れた称賛の言葉だろう。しかし、二人は照れ笑いして返事をした。

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