第151話―初詣メモリアル―

昨夜は比翼と元日を過ごして翌日1月2日には俺は深夜0時に目覚めた。


「すぅー、すぅー・・・」


比翼は俺の胸の前で、すやすやと気持ちよさそうに安眠していた。

起こさないよう細心の注意を持ってベッドから脱出する。その際に「うぅ〜ん」っと不満げな唸り声した。起きていないと確認して

PCを持って部屋を出ようとデスクに足音を極力、立てずに進む。


(んっ?あ、あれって!?)


「・・・・・」


こんな夜分やぶん遅くベランダに立つ冬雅を視界に入った。

冬雅の部屋を見るつもりはなかったのだけど闇夜で照らす存在感と

単純にデスクを移動中に視界の端に口を塞いだ冬雅が目にした。

すると足は本来の目的とは異なる方へ進む。ベランダにサンダルを履くと冬雅が振袖ふりそでしていたことに気づいた。


「・・・お、お兄ちゃん・・・・・」


「はっ・・・ご、ごめん。つい意識が」


遅い時間なので大きな声や笑い声を控えないといけない。それは冬雅もそう。そして意識を停止させるほど景色とマッチして美しいかった。だいだい色の着物に優雅な花が従来の物より際立たせた着物は素人目でも一目瞭然の高い裁縫さいほう技術による芸術。光沢感の長い黒髪には鮮やかなピンク色ガーベラの花をした髪飾り右につけている。


「意識?・・・お兄ちゃん、もしかしてお酒とか飲んで酔ってフラフラなんですか?」


「違うよ。冬雅が眩しい過ぎたんだ」


「まぶしい?」


首を傾げる冬雅は、いつもより神々しく幻想的で美しかった。


「眩しいほど似合っている。

文字通りに息を忘れるほどに」


「・・・・・お、お兄ちゃんそれって」


冬雅は、何度も瞬きしていた。言ったことを反芻はんすうして理解すると冬雅は一歩と後ろに。みるみると白皙はくせきな頬をもう過ぎた紅葉のように染まる。


「か、かわいいってお兄ちゃんはそう思うかな?」


「可愛いに決まっている!

現実で眩しいなんて直喩ちょくゆな似ているじゃなくて暗喩メタファーな完璧なレベルにいるよ」


「えへへ、言い過ぎですよお兄ちゃん。もっとかわいいって言ってほしいかな」


「可愛い冬雅。可愛い、可愛い!」


「えっへへへ。はっ!?

静かにです」


人差し指を立て冬雅は自分の口に当てる。静かにと伝えようとした。まさか俺が歓喜で声を大きく出すとは。


「お兄ちゃん。大好きです」


決め台詞と決め殺し。全幅の信頼と愛情に五臓六腑ごぞうろっぷと染み渡っていく。もし、大人としての立場や冬雅に惑わせてしまうだろうという思いもなかったら大好きと答えたか俺は。


「冬雅ありがとう。嬉しいよ」


「そ、それじゃあ。お兄ちゃんわたし朝が早いので最後に・・・その手を合わせよう」


冬雅は手すりに身を乗り出して

右手で手のひらを広げる。

ハイタッチみたいなものだろうと思う首を縦にして頷く。


「その前に落ちるかもしれないから下がろうか」


「あっ、うん。ちょっと舞い上がってて・・・」


華奢きゃしゃな冬雅が二階の高さで落ちたら大惨事なると脳内によぎり気づけば発した。

もし恋人ならいい雰囲気を壊した無粋な発言だろう。


「・・・・・」


冬雅は、まったく違った。緊張の面持ちで俺が手を合わせるのを待っている。そんな期待と応えてくれると顔をされるなんて・・・

俺はてのひらにつく汗をズボンで拭って、冬雅の掌を合わせる。


「「・・・・・」」


会話はお互い見つめ合いこの掌と掌で伝わってくる温度のみ。

時間を忘れて、ずっと永遠に続いて過ぎ去っていく。あるのは目の前の冬雅。 どれほど経ったか冬雅は深呼吸の後に触れていた掌を離していく。


「お兄ちゃん、ありがとうございます。わたしの我儘わがままを応えていただいて」


俺も伸ばした手を戻す。手のぬくもりはまだ残っている。


「いや私もリラックスできたし」


「お兄ちゃん・・・わたしをドキドキするの好きですよね」


「女子高生にたぶらかすような事はしていないけどなぁ」


「本音を言えば、わたしだけにして欲しいけど」


「いや、こんな無茶要求をするのは冬雅だけだから」


本当は、冬雅だけと言いたかったが思春期にある冬雅の慣れていない思いを恋愛として間違った捉えかたしていると推測している。

または初恋ゆえのものか。

この推論に揺るぎないと思ったけど揺らいでいる。


「・・・お兄ちゃんは、優しくって面白い人ですよね」


「そうか?るいを見ないつまらない人間だって自負しているけど」


「あはは、そんなの無いよ。

こうして静かなドキドキできるのも、お兄ちゃんだけですし」


「また独創的な表現だね」


「お兄ちゃんを想っているからね。・・・お兄ちゃん、お休み」


「ああ、お休み冬雅」


静かな会話は終わり、俺は一階に降りて真っ暗なリビングをシーリングライトをリモコンで明るく部屋を照らす。暗い廊下とこの場所で急に訪れた明るさに目を一瞬だけ閉じる。次第に慣れていき

リビングテープルに座り執筆する。


(冬雅は今頃なにをしているかな?)


お休みと言っていたから就寝だ。

今日の気持ちは順調でスラスラと不思議に書いていける。


「このぐらいにしよう」


充足感。展開やキャラが動いてその状況を俯瞰ふかんして解説するようながら高揚感で楽しく書いたのはいつほどか。そして小説から冬雅の方へ考察する。


(冬雅の振袖・・・女神だったなぁ。

でも、あの時の俺達はロミオとジュリエットみたいに思ってきた。

いやいや、貴族ではないし俺はカッコよくないし)


一度、冷静になろうと冷蔵庫にある牛乳でも飲もうと足を動かす。

渇いた喉に潤っていく優しいく含有の自然な味。冬雅はデートしたいってストレートに行っていたし

場所を考えないとなぁ。

それに、最後の見つめ合いと掌は

鮮明に残っていて、れはまるで―


逢瀬おうせ


誰も聞いていないと分かっていながらも呟いた言葉にどうしようもない羞恥が襲ってきた。

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