第134話―トリック・パニック―

玄関で告白した、わたしはお兄ちゃんの反応を一瞬だけ見た顔は

目を見開いて驚いていたこと。

それはどういう驚きだったか憶測しか出来ないけど・・・喜んでいないよね。


「ハァー、」


軽くダンスをできる気持ちは、すっかり薄れて・・・いないけど恒例の返事を恐くなっている。前にした告白を断れたことが今でも奥に深く傷として苦痛は残っている。

それが、後ろ向きにさせていく。


「でも、前進はしている。きっと」


すべてが後退しているわけではない。お兄ちゃんと話ししてわたしが学んだ新しい哲学てつがく。基本的に登校中は一人、下駄箱の扉を開けると今日はラブレターが3つも入っていました。


(さすがに毎日は参るかな)


断らないといけない事に申し訳なく、落ち込む顔を毎日と日常とある中でこれだけは避けたいけど

スルーすることも雑に扱うことなんて出来ない。朝から、また暗い気持ちになると恋文の中から知っている名前が書かれていた。


「えっ・・・」(ま、マジですか)


前に昇降口で告白して断った自称、複数の女性と付き合っている熊谷くまがいくんの名前があった。ブレないにも程がある。

それ以前に彼女をいるのに・・・。


「あはは」


つい声に出して笑ってしまった。

熊谷くんは、気軽に断れそう。教室に向かう廊下で多くは、わたしの存在に気づくと、見惚れる視線を感じる。そう言えば、最近のお兄ちゃんも似たような視線をしていたような・・・。


「あれ、冬雅さん。顔が赤くないか?」


「ヤバイなぁ、すげぇー可愛い過ぎる。嬉しそうな顔も可愛い過ぎ!」


「あの頃の氷の冬雅さんが、今では太陽の女神だしなぁ」


二つ名が変更されていたことは、既に知っているけど、頬が緩めてしまっているのは、お兄ちゃんの事でばかり。勉強の事でも考えよう。歴代足利あしかが将軍を言っていこう。初代は尊氏たかうじ。議論される最盛期の

義教よしのりあたりで教室に入る。窓際のわたしの席に真奈と茜が談笑していて、わたしの姿に気づくと手を振る。


「おはよう、冬雅」


「おはよう冬雅さん」


「うん、おはよう真奈、茜」


今日も平和な光景です。陰険な雰囲気が無い教室って珍しいと思う。スクールカーストはあってもいじめとか差別的な事がありませんし。一概とは言いませんが平穏を保っているのはあの人でしょう。


「おはよう冬雅」


噂をすれば影。岡山牛鬼おかやまぎゅうきがさり気なく違和感なく挨拶する。


「おはよう岡山くん。それと4人にも、おはよう!」


岡山くんの後ろにいる4人にも挨拶すると、意外だったのか一瞬だけ硬直していた。


「え?俺達まで挨拶するなんて・・・冬雅マジ天使。おはよー!」


「それなっ!おはよー!」


松山くんと片倉くんが、はにかんで挨拶を返す。


「ふーん、おはよう」


「お、おはようございます」


羽柴さんと・・・いつもいる黒髪ショートのリア充よりもインドア派なイメージがある女の子が挨拶。

羽柴さん、わたしと茜に対する敵視を肌で感じるけど気のせいかな?


「なんだよ。なんだか、ぎこちないぞ」


岡山くんは背後の友人に親しそうな笑みを浮かべてからかう。


「いやぁー、あんな笑顔で挨拶されるとやべぇーから」


「マジ、秒の秒!かわFで俺らまじまんじだから」


これ、お兄ちゃんが聞いたら何を言っているんだろう反応するよね。それは、見てみたい。


「まぁ、分からなくもないけどなぁ。真奈と茜もおはよう!」


「おはよう」


「おはようございます岡山さん」


気軽に接する優しい真奈と誰にも礼節を持って接する茜。

さすがの岡山くんは二人の美少女に挨拶に慣れていないのか頬が少し緩めて嬉しそうであった。


「はっ―――!?」


岡山くんは殺気を感じて背後に鬼気迫る振り返った方をする。

・・・羽柴さんが岡山くんを笑顔で圧力を放っていた。


「ねぇ、牛鬼。さっき真奈様に鼻の下を伸ばしていましたよね。

何を考えているのかしら?」


「え?いや・・・なにもだけど?

えっ、香音だよね」


「下の名前を気軽に呼んで・・・

それが、どれだけ価値があるのか分かってないようですね」


「「っ――!?」」


松山くんと片倉くんは冷や汗を流して距離を取り、もう一人の女の子はあまりにも恐ろしさに足が震えていた。さすが羽柴さん、なにが理由で逆鱗げきりんを触れたか検討もつかないけど

この空間は阿鼻叫喚あびきょうかんと化しました。


「ま、真奈カムヒアー!」


「ま、真奈さんに願いを――」


「冬雅、茜・・・元ネタたぶん知らないと思うけど、ワタシ達が生まれる前の作品だけど、どうして

知っているのよ!?」


これ元ネタがあるのは、なんとなく分かっているけどアニメでありましたので、なんとなく使っただけで・・・わあぁ、それよりも!


「真奈、ヘルプ!ヘルプだから早く羽柴さんを止めて」


「どうしてこうなるのよ。

香音、よしよし」


真奈は、暴走する香音を頭をでていく。すると戦争がないのに肌を刺さる感じるの殺気が霧散していく・・・これ、わたしにもできるかな。


「くへへ、真奈様から頭をなでていただき至極恐悦に存じます」


まるで凶悪な魔物をいとも容易く手綱を握るようなものだった。

また、真奈は新たなる伝説を作ってしまったその瞬間だった。


「「おぉぉーー!!」」


周りの喝采も起きて、英雄だぁ!とか救世主などで、もてはやす。異世界にいるのかな?わたしは。それはともかく尻餅しりもちをつく岡山くんといる黒髪ショートの女の子。


「ごめんねぇ、ちょっと羽柴さん悪ふざけなんかして」


わたしは笑顔を作り手を伸ばす。

すると、彼女は頬を赤らめていた。恥ずかしいかったのかな?


「あ、ありがとうございます

峰島さん」


手を握り返し引っ張り立ち上がらせる。折角せっかくだから名前を訊いてみよう。


「そのお名前は何ていうの?」


「は、はい!私は田中邦絵たなかくにえと言います・・・また忘れるだけど」


ズーンと頭を下げて落ち込む田中さん。


「だ、大丈夫だよ田中さん。

既視感はあった名前だったから。いい名前だよ」


今の発言はまずかったと後悔が溢れていく。また傷つくと。


「い、いい名前・・・えへへ」


「た、田中さん?」


「その、ありがとう峰島さん。

嬉しかったです」


「そう。なら良かったよ・・・

そうだ!はい」


「あの、これは?」


手を差し向けて困惑と疑問を浮かべる田中さん。


「友情の握手あくしゅだよ」


わたしの言葉に田中さんは反芻はんすうでもしていたのか、呆然となっていたが、立ち直るとすぐに手を握って応えてくれた。


「う、うん。友達・・・でいいのかな」


「そうだよ」


「えへへ、嬉しいです」


第一印象どおりの内気な子だった。どうして岡山くんのようなグループにいるのか疑問を抱くとすぐに解決する。そうだった岡山くんは誰隔てもなく振る舞うことに。そして、昼食時刻となりわたし達はたまに屋上へ行こうとお兄ちゃんが作ったあいふ弁当を大事に落ちないように抱いて移動すると田中さんが横から声を掛けてきた。


「い、一緒に食事してもいいですか?」


「うん、いいよ」


「や、やっぱり駄目ですよね。

それじゃあ」


「ま、待って!OKしたよ田中さん」


立ち去ろうとする田中さんを引き止める。なんだろう、この流れって普通は、やっぱり駄目ですよね・・・えっ!いいんですか?

が然るべきな気がする。

ともかく屋上にあるベンチを横の列になって座る。

右からは田中さん、わたしと、真奈と羽柴さんと茜の順で。


「峰島さん!その・・・交換とかしませんか?」


お弁当を広げた田中さんがそう言った。お兄ちゃんが作ったお弁当を一品でも交換したくないけど・・・わたし意外にも食べて美味しいと思ってほしい願望がまさった。


「それって、おかずの交換?」


「は、はい」


一応と確認して、やはりそうだった。


「いいよ。はい、卵焼きどうぞ」


「そ、それでは私はからあげを」


交換するなんて、高校生らしい事をしているなぁと少し感動的。


「冬雅のお兄さんが知ったら嫉妬しっとしそうですね」


「コホン、コホッ!」


「み、峰島さん大丈夫ですか!」


背中をさする田中さん。

茜が唐突に変な事を言うから咳き込んでしまいましたよ。

さ、流石にお兄ちゃんは嫉妬しない。しないけど、もしそんなことがあれば・・・・・。


「峰島さん?顔が赤いですけど

熱ですか?」


「ううん、大丈夫だよ」


「そう、ですか。それは何よりです。それで峰島さんにはお兄さんがいるのですね」


「う、うん。すごく優しいお兄ちゃんだよ」


実際はお兄ちゃんではなく、わたしが勝手に呼称して喜んでほしいと思ってのこと。もし、お兄ちゃんが同い年で学校でも一緒だったらここで食事していたのかな。


「お兄ちゃんと同い年だったら

いいなぁって思うぐらいブラコンかな、わたしは」


「こほっ、こほっ!」


「真奈様!!お身体は平気ですか!?」


「う、うん。平気」


田中さんに返した言葉に真奈が咳き込んでいた。早食いでも

していたのかな?

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