第106話フィールド・トリップ其の伍

冬雅が前触れもなく突然と泣き始めたので、ワタシは理解できないながらも安心させようと余計な言葉を掛けず優しく肩を置く。

ワタシがいると、込めて。

想いが伝わったのか冬雅は、

少し落ち着き始めた。


「どう、落ち着いた」


ワタシの胸から離れ、親友の

冬雅は幽霊のように力が抜けていた。見ていて悲痛になる。


「・・・うん。ありがとう真奈」


「どうしたの?よかったら

相談してみて。東洋お兄さんと

違って頼りないけど」


冬雅は、言うべきか躊躇ためらっていた。ワタシは根気よく待ち、そして決断した。


「お兄ちゃんのことで――――」


説明によると、今日の送ったメッセージに既読がない。

それで不安が募って膨らんで最悪な結末になったと思ったようだ。

それを聞いワタシが親友に掛ける言葉は―――


「冬雅、バカなの?」


「そう、わたしはバカ・・・・・

えっ?バカ!?」


「うん。だって東洋お兄さんが

冬雅の事をあそこまで面倒をみたり自然な笑いができるのって

冬雅だけだから。

・・・ワタシには見ていない

表情もしているから」


「真奈・・・」


それだけじゃない。

冬雅のために、料理など思い付くことはたくさんとある。

・・・おかしいなぁ、涙が勝手に流れてくる。分かっていたのに、それを考えないように避けていたのに今までもそのつもりで――


「真奈だって、バカだよ」


まさしく、ワタシはバカだ。


「そうだね・・・えっ、バ、

バカ!?」


驚愕だ。冬雅がそんな言葉を使ったのが信じられない。

バカは自覚しているけど、少し

意趣返しされた様な気持ち。


「だってだよ。お兄ちゃんが

真奈に無邪気な笑みを向けるのっていつも真奈なんだよ。

うらやましすぎるのに

自覚していない真奈は、バカです。愚かです。馬と鹿です」


そ、そうだったのか。なるほど、

冬雅の視点では、ワタシけっこうお兄さんに無邪気な笑みをさせているのか。もしかしたら、ワタシ

お兄さんを惚れさせること

できるのかな?ドキドキも。


「おーい、二人とも・・・あれ?

ど、どうしたの二人とも泣いて」


ワタシと冬雅は、右の声のした

方へ向くとあかね香音かのんだ。


「真奈様が、泣かれている・・・

えーと、峰島冬雅でしたけ?

真奈様を傷つけた代償は大きい

ですけど、覚悟はよろしいですか?」


ゴゴゴゴっと擬音が出てもおかしくない怒りの雰囲気を醸し出す

笑顔の香音に冬雅は、後ずさる。


「あ、あひひぃ!?」


「違うから香音。心配は嬉しいけど怖がらせたらよくないよ」


香音は何故かワタシに対して、好意的というのか、懐かれている。

もっとも崇拝にも似たような視線も向けられたりしている。


香音の美点は、友のために怒れること。まぁ、冬雅では

なくワタシのためが多いのは

ワタシの自意識過剰だろう。この場面だってワタシが弱く見えただけかもしれないし。


「・・・真奈様がそう仰るのでしたら」


「心配かけてごめん香音」


「いえ、当然のことをしただけです」


玉にきずが、敬礼して返事をされること。遊び半分とかの冗談を込めてもいないので、すぐに冗談ではないと理解できる。

まぁそう考えも思いこみはず。


茜と香音の二人には、いい話になって泣いたと誤魔化した。

われながらもう少し上手に誤魔化せたかったけど。

ワタシは、トイレに行くと伝え

お兄さんにメッセージを送る。


(冬雅が心配しているからっと。

・・・そうだ!銀閣寺も見たって、送らないとね)


5時に迫るころにワタシ達は

泊まる宿に向かうため進む。

黄昏の光に古風な建物を美しく照らされる。東京では、なかなか見れない落ち着いた歴史的な日常。


(あの、軒前にあるのって

葦簀よしずだよね。うわぁー、リアルで初めて見た!)


「あれ?真奈。あのすだれのようなものって何か・・・?」


「葦簀だよ。冬雅は見るのもしかして初めて」


「うん。初めて」


冬雅が、明るい声と表情にワタシは胸をなでおろす。

お兄さんがいないから、眩しいほど笑みじゃないけど、それでも

明るさは3割減ところ。

そんな調子で学校側が選んだ宿は

大きかった。荷物は既に教諭など

運んでくれている。

ワタシ達4人は、エントランスホール隅に行く。すでに生徒や教諭が勢揃いでワタシ達が遅れたのだと気づく。


「いやぁ、散々だったねぇ」


茜の言葉に首を縦に振る。

そのまま四人で同じ部屋となった。


「ワタシジュース買ってくるね」


ワタシは、廊下に出てエントランスホールに向かう。

ジュースは、口実でお兄さんが既読になったかチェックのため。


「・・・既読なし!?」


にわかに信じられないことだったけどお兄さんが見ていなかった。


(まったく、お兄さんは何を

やっているのですか!)


催促のメッセージを送り部屋に戻る。


「ふふ、真奈様たらスゴイんですね」


しばらく四人で話をしていたのだけどワタシのゲーム武勇伝に話題へと変わった。


「うん。真奈また、将棋部の人と対局で勝ったんだよ。

たしか、角落かくおちとかで少し勝ったとか。ハンデなのは分かるけど」


冬雅は、キラキラした目でワタシの勝利を嬉しそうに言う。


「真奈さん。あらゆるゲーム

強いからね。ゲーセンでも対戦者を50連勝というのもやっているし。本当はヒマじゃないかな?」


茜はあきれ半分と諦め半分の嘆息をする。やっ、だって連勝ってすごく気持ちいいし対戦相手には誠実に戦うのがワタシの信条なわけで。


「コホン。それはワタシがいないときにしてくれないかな?」


「えへへ、ごめんねぇ」


冬雅が、楽しそうに笑いながら謝る。・・・それにしても、お兄さんの返しが無いなぁ。既読しているのかも。


「ごめん。少し出るねぇ」


「ま、待ってください真奈様ぁぁーー」


スマホを持って、廊下を出ると香音が追ってきた。


「香音ごめんすぐに戻るから」


「そ、その・・・・・はい」


付いてこようと、したけどごめんねぇ。お兄さんのことは、親友の茜にも事実を伝えていないから。

内心そう免罪符めんざいふにもなっていないけど謝る。

少し歩いてエントランスホールに着いてソファーに座りスマホを見る。


「えぇーー!!まだなの」


何をしているのかお兄さんは。冬雅が過呼吸になって、嗚咽するほど苦しんでいるというのに!

少し乱暴なセリフでメッセージを

ワタシは送信して踵を返して部屋にまた戻りに歩く。

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