第94話ぼんやりな読書の秋

「・・・・・」


部屋は静謐と化した。ソファーで

仲良く座る秋の七草さえも恥じらう美少女の三人は読者していた。

左から冬雅、真奈、三好さん。

読書の秋をしないわけがないと

満場一致(三好さんはよく分からず首を傾げ)で俺の部屋から本を

拝借した三人。


(今日はなんて静かなのだろう。

ページをめくる音、

本好きには堪らない臭い・・・

最高のひと時だ)


俺は一人テーブルで司馬遼太郎しばりょうたろうの作品の

とうげを読んでいた。


(河井継之助かわいつぎのすけ・・・30代に色々な塾を

学び職はついていない人。

幕末時代の偉人では、地元の人に

愛されているのが多い中で

唯一この河井継之助だけは

嫌われている。

唯我独尊で神算鬼謀の

ラストサムライ)


長岡ながおか藩に役目を任されるようになると、関所の廃止して経済を発展など成功プロセスしてきた。

俺の勝手な憶測だけど、ドラクエにある遊び人から賢者にジョブ

チェンジができるのは、

この河井継之助を参考にしているのではないかと思っている。


(美術館から明日は、もっと

騒ぐかと不安だったけど

ゆっくり読者は助かる。

三好さんが、いるから冬雅も

大胆な行動ができないのも

大きい)


短く揃えたつややか黒髪、

静けさの印象を与える三好さん。

慣れてきたのか家に上がっても

右往左往な反応はなく自宅のように寛いでいた。


三人が読むのは――――

冬雅は、キングダム

真奈は、項羽と劉邦

三好さんは、SAO

ソファー前にはキングダムの

マンガで積まれている。

時代は、春秋戦国時代。

膨大な歴史というストーリー、

血が沸き肉踊る壮絶で悠久なる

戦い。主人公のモデルは李信りしんと呼ばれる将軍。

を20万の兵で滅亡させたことで有名だ。


『お兄ちゃん時間だよ!』


ヘッドホンをつけたスマホから

妹の目覚ましアプリが時間を

報せる。最近は目覚まし以外にも

多目的で使用できる。


(午後七時か。三人とも、かなり

夢中で読んでいるんだな)


俺は、本を閉じスマホをテーブル置いて夕食の支度をする。


「よし!三人とも夕食が

出来たから食事にしないか?」


「はーい!」


先に声を上げたのは冬雅。

54巻をテーブルに置きリビングテーブルに向かう。


「もう、こんな時間ですか?

んぅー。この臭いからして

カレーかな」


両手を上げ伸びする真奈。


「時間が経つのが早いですねぇ」


三好さんは、スマホの時間を見て

軽く驚く。分かる。時間を気にせずに没頭していると時間が飛んだ!?って感じる。


「わぁー!美味しそう」


「ふーん、別に一人で作らなくても言ってくれたら作ったのに」


冬雅は、顔を輝かせていたが

真奈の言葉に「そうですよお兄ちゃん!」と頬を膨らませ非難の

眼差し。いや、声を掛けるの

わるいと思ったのだけど。


「あっ、これ痴話喧嘩って

ことですよね!真奈さんも恋人じゃないって否定していながら」


「ち、ちがぁ・・・どうして

そう解釈するのよ!!

冬雅も何か言ってよ。茜たら、

いくら違うって言っているのに

誤解のままだから」


「うーん、あながち間違いでも

ないよ。ちなみに、わたしは

いつもお兄ちゃんとは仲がいい」


「ちがーーーう!!

もう突っ込みするところ色々あるけど違う!!」


仰ぎ叫ぶ真奈。ツッコミ担当で

大変そうだなぁ。

学校や塾でも、そうなのだろうか

と考えてしまう。

椅子に座り、いただきますと

合掌して食事をする。

俺はリモコンでテレビをつける。ニュースのチャンネルに変える。


「お兄ちゃん!キングダム

面白かったです。熱いです!」


「そうだね。やっぱり歴史は

熱くなる作品は多いからねぇ。

冬雅は、どの巻がよかった?」


「そうですねぇ・・・わたしは

1巻でしょうか?でも、50巻も

うぅーん・・・・・決められませんねぇ。えへへ」


冬雅は、幸せそうに笑う。

そんな、姿に頬を緩めてしまい

俺も微笑む。


「二人ともすごく仲がいい

兄妹で微笑ましいですねぇ」


「ありがとう三好さん」


兄妹として三好さんが見られても

個人的には違和感がなく、冬雅を

本当に妹のように親しく思っている。もちろん恋愛的な危ない情ではなく。


「はい、お兄ちゃんとは

一生ずっと永遠に隣にいるって

心に深く誓っていますので」


隣の冬雅は、頬を赤らめ照れ笑いを浮かべる。向かいに座る

三好さんは、えっ!?と今に

口にしそうな表情を浮かべる。


「ま、真奈さん。もしかしなくても二人って付き合っているのかな?冬雅さん兄を見る顔が

赤いですし笑顔がいつもよりも

かわいいですし」


「ち、違うよ。ほら、いくら

仲が良くても好きすぎる発言

なんかして赤くなっているわけ。

笑顔も・・・・・目の錯覚」


最後は思い浮かばなかったようだね真奈。援護してくれて

助かりました。俺だったら

語るに落ちるルート確実だった。


「それよりも東洋お兄さん。

項羽こうう劉邦りゅうほうを読みましたので

話をしませんか?」


「ああ、いいよ。内容は少し

難しいと思うけど気になる

所があったら訊いてくれ」


項羽と劉邦の作者は司馬遼太郎。

時代は、春秋戦国時代が終わり

秦国が中国統一してから始皇帝しこうていが亡くなってから

秦国は急激に弱体化した。

宦官かんがん超高ちょうこうが原因だ。


「その、訊きたいのは胡亥こがいなのですけど・・・

末っ子とは言っても、どうして

超高ちょうこうなんて信じたのか?ワタシには、遺言書を

勝手に改竄かいざんなんかを許せたのか理解ができません」


熱弁する真奈に冬雅と三好さんは

微苦笑を浮かべる。あっ、これ

よくあるのですか。

でも俺も学生ときは、歴史に

思いを馳せることはよくあった。


「正直、同じ意見だよ。

もしかしたら超高は切実な態度で

進言したから胡亥は信じたのもあるし、末っ子だから後継者なんて継げないと諦めていたけど

可能性があると甘い言葉に

揺れ動いたのだろうと思う」


「なるほど、東洋お兄さん!

次は、劉邦と項羽の英雄の二人ですけどどちらが好きですか?」


「項羽。やっぱり最強の武将は

普通にカッコイイと思う」


「ワタシも好きです項羽」


西楚せいその覇王である

項羽の武勇伝は枚挙にいとまがないほど。中国の大河ドラマでは

バケモノのような戦い方する。


「お兄ちゃん。わたしは

この時代なら章邯しょうかんが好きですよ」


冬雅も楚漢戦争の話に参加する。

章邯は、有能な武将が越高に処刑を次々と消えてから覚醒した

武将であり最後の名将。

秦国が滅亡の一途に進む中、

兵が足りなくなり罪人を赦免して

徴兵した。項羽その叔父である

項粱こうりょうを連戦連勝させてあげ油断させたところで

夜襲で倒した。


「冬雅の好きな武将がしょうかん・・・渋いね」


「あ、あれ?おかしかった

ですかお兄ちゃん」


不安させてしまった!

訂正しないと。


「違うよ。詳しいんだなぁと

少し感心したんだ。

よく知っていたね冬雅」


「はい。わたしも項羽と劉邦は

中学生ときに

上巻から下巻を読みましたので」


えーと、俺は大人になってから

読んだけど中学生には内容は

難しいと思うのに。


「わ、私まだ読んでいないので

ついてこれません」


三好さんは、困った顔で呟いていた。この話はこれぐらいにして

共通の話をしないと。俺が大人だしそれぐらい斟酌しなければ。


何を話そうかと悩んでいると

ソファー前にあるローテーブルに

置かれているラノベを見て

話題はすぐに見つけた。


「唐突だけど、SAOのゲームって色々あるけど、私はメモデフや

フェイタル・バレットしか

やっていないけど三人は?」


なに、この質問?と我ながら

そう思う。コミュ障はまだ完治

していないようだ。


「SAOゲームですか?

えーと、インテグラル・

ファクターぐらいですねぇ」


冬雅は、にこやかな笑顔を向けて

遊んでいるゲームを答える。


「限定的ですねぇ・・・まあいいけど。ワタシは、インフィニティ・モーメントからフェイタル・バレットとソシャゲは

コード・レジスタから全部ですねぇ。もちろん全部クリアと

最高レベルです」


真奈は、普通に答えた。それ

全部クリアするのも最高レベルの

到達でプレイ時間が相当だと

思うのだが・・・真奈は、もしかして俺よりも暇なのか。

時間停止でもしない限り、絶対に

出来ないと思う。

その上に、容姿端麗で温和怜悧。


「さすが真奈だね。もう神じゃないかな、あはは」


「?東洋お兄さんの乾いた笑み

させるようなこと言いました?」


「うーん、引いたんだと思うよ

真奈さん」


三好さんは、苦笑してそう言った。冬雅というと――――


「スゴイねぇ真奈。

でもゲームのやりすぎじゃない」


うん、最初にゲームが出た2013年なら三人は小学生5年になる。

・・・少し冷静になって真奈の

言うことは、オーバーに言ったのかもしれない。うん、さすがに

全シリーズ遊び尽くし最高レベル

なんて世界にいないだろう。


「ぐっ!・・・まぁ、うん。

ママに何度も怒られている」


胸を抑え、もがき苦しむ真奈。

こんな一面もあるのかと

知らない発見したことに

微笑ましい気持ちになる。


「最後の私が、まだでしたね。

読書や本の手伝いもあって

残念だけどゲームはソシャゲの

メモデフぐらいですけど

レベルが低いままですねぇ」


指を顎に触れ、視線は上に

思い出しながら答えていく

三好さん。このしぐさからして

余程やっていないだろう。

数ヵ月とかレベルじゃなく。


「それなら、メモデフで協力

プレイしようよ」


真奈は明るい笑みでそう言った。ゲーム愛がすごい!?3人までならできるけど冬雅は、確か

やっていない。


「でも、冬雅はダウンロードしていないし、そこまで行くには

時間がかかるじゃないかな」


「そう・・・だよね。

うーん、ヴァイスにするか」


「ううん、わたしの事は

気にしなくていいよ」


冬雅なら、そう答えるであろう。

そして、俺も真奈は遠慮する

冬雅の言葉に、

はいそうですか。と答えない。


「気を遣わなくてもいいんだよ

冬雅。真奈が言ったヴァイスが

いいかな」


「ですねぇ。冬雅と茜の分デッキはカバンに入っていますので

いつでも、遊べます」


用意周到。しかし女子高校生なのにカバンをデッキそんなに

入れているのか。


「わたしお兄ちゃんの隣で

見てますので本当に気しないで

ください。たまには、好きな人を見る側になりたいので!」


冬雅は、闘志を燃やすような

使命感を背負うような

力強く言う。


「うーん、でもなぁ」


「いえ、想い人を支えるのが

お嫁さん候補として当然です!」


意思は固そうだ。真奈は呆れ 混じりため息する。


「うーん、好きにさせましょう

東洋お兄さん。

一回ぐらいで飽きるだろうし」


「そうだな。見てるゲームは

つまんないからね」


皿洗いを速く終わらせ、俺と冬雅

はリビングテーブルのイスを

隣で座り協力プレイする。

見事クリアすると冬雅は俺に顔を向ける。近いと思ったが顔には

出さないように。


「お兄ちゃん操作スゴかったよ」


「ありがとう。次のゲームでも

しようか真奈、三好さん」


「ううん、そのまま続けて」


慌てて制止する冬雅。

少し疑問に思いながらも俺達は

上げた腰をすぐ下ろす。

ソファーに座る真奈と三好さんも

もう少し遊びたかったので冬雅の

言葉に否定はなく従う。


「お、お兄ちゃん・・・

えーと、えい!」


肩を肩に軽く体重を乗せ

カップルのように密着してきた。


「ふ、冬雅。えーと近くない?」


「そ、そんなことありませんよ。

電車でよく見るじゃないですか。

だ、だから普通だよ」


「カップルだよ!そのよく見るのは・・・うーん、貸すけど

やる?」


ゲームのコントローラーなら

ともかくソシャゲでスマホを試しにやってみたら?と気軽に貸すのは普通はないだろう。

冬雅の答えは。


「・・・うぅーん、いいです。

わたし、こうして肩の温もりを

ゆっくり感じたいので」


「そうか、ならゆっくり

してくれ」


前よりも過剰なスキンシップではなかったけど肩が肩って、

どこか居心地がいいと思った。

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