決まり事など知らない

「どう?開きそう?」

「ええ、ただちょっと面倒ねえ……、私はこういうの専門じゃないから時間がかかりそう」


 エヌーゼとチエは、いかにも厳重ロックされていそうなゴテゴテした扉の前にいた。


 恐らく何かしらのキーがあるのだろうが、もちろんそんなもの持っているわけがないので解体まがいに開かなければならない。


「うーん、ケイでもいてくれたらねぇ」

「ああ、あいつはこういうのに強そうだからな」



「ふええっくしょおん!」

「大丈夫か?」

「あい……かじぇしいだがもでふ」

「すごく鼻が詰まっているぞ」


 Elements。何とも特徴的なくしゃみをしたケイを気遣う、ローレライ。

 あれ、何か微妙にデジャヴ?



「あ」

「何か間違えたという意味ではないよな」

「開いたわ♪」


 ほっとため息をつくチエ。

 しかし、こんなに厳重にロックして、一体何がこの中にあるというのか。


 そっと扉を開けてみる。

 そこにあったのは……、


「なんだ……紙や本が山積みに?」

「ふーむ、これは研究室かしら♪」


 資料には、グラフや表がちらほら見える。

 中には、原子力発電所の安全運転についての資料や、どこかから盗んできたような核兵器の構造に関するものまであった。


「原子力発電所の資料はどうでもいいけど、この図面が気になるわね♥︎︎」


 よく見てみると、ある部分に印がしてある。爆弾部分のようだ。


「何だこれは?解体方法が書いてあるが」

「それはね、私らが放射性物質を拝借するための計画図みたいなものさ」

「ふーん」


 あれ?

 後ろに誰かいる。なんと解説してくれた。

 ゆっくり振り返ると、白衣の少女がいた。

 二つお団子が目立つ、眼鏡の少女。


「あの厳重引き篭もりロックを解除するとは、恐れ入ったよ」


 気だるそうな顔で言いながら、少女は眼鏡をクイッと押し上げる。


「む?そもそもここへの入口は認証式で現れたはず……」


 首を傾げてぶつぶつと何かを呟いている様子だが、やがて何かを思い出したように両手をパンと合わせる。


「それより、こういう時は」


 チエは身構える。


「逃げよう」


 少女はダッシュで部屋から出ていった。


「今の絶対戦闘開始のノリだっただろ!」


 そのツッコミが彼女の元へ届いたか、それは定かではない。


「じゃあこの部屋漁ってから追いかけましょ?」

「……好きにして」



「さっきの子、放射性物質を拝借するって言ってたけど、どう拝借するのかしら」


 資料に目を通しながらエヌーゼが呟く。


「兵器ごと持ち出す……だなんてことは流石にないだろうけど」


 そんなことができては国家転覆どころじゃない大危機である。


「ま、この図面から見て、本当に放射性物質だけを……っていうかほぼウランとプルトニウムだけど。それらだけを抜き取っているのかもしれないわねえ」


 さっきの少女の言うことが本当なら、わざわざ放射性物質と限定したのは、そういうことなのだろう。

 一体何故国際問題に発展しかねない盗みを働くのか。ウランやプルトニウムを集めてどうするつもりなのか。そもそも、どのように遠くから運んでくるのか。不思議なことが山積みだ。


 しかし、あまりよろしい話ではなさそうなのは明白だ。


 ウラン、プルトニウム。まだ会ったことは無いが、同胞たちが虐殺にでも使われたりしたら、それは二人にとっても黙っていられないことである。


「とにかく。もう読み終わったろう。後を追って問い詰めればいい」


 少々乱暴だが、効率的ではある。相手がすぐに話してくれれば、だが。



 少女はすぐに見つかった。


「な、なんだ……わわわわ私悪いことしてないぞ」

「他国に盗みを働いているヤツの言うことじゃない」


 敵にもツッコミを忘れない、さすがプロである。


 資料に記されていたのは、隣国セイントセントの核開発研究所の情報。


「放射性物質を集めて、何をするつもりかしら?兵器でも作るの?」

「そんな!そ、そんなことはするわけないだろ」


 一瞬声を荒らげたが、すぐに淡々と喋り出す。


「あらあら、でも放射性物質を集めて出来ることなんて限られてるわよねぇ♪」

「……はあ、なるほどな」


 チエはエヌーゼの意図を察したようだ。本当にいい性格をしているな、と心の中で毒づく。


「放射能というのは、人間の害となる能力だ。放射能に限った話ではないな。兵器を作らなくても、そこにあるだけで周りを毒し命を破壊する」

「チエちゃん待ってあなたさり気なくえげつないわよあとそれエルシーの前で言ってみなさいズタズタにされるわよ」

「まさか本気で思ってるわけないしそんな被虐に悦びを感じたりしないし問題はない」


 かっくんかっくんと揺さぶられながら、心の温度0ケルビン疑惑が浮かびつつあるチエさんが申しております。


 煽って煽って情報を引き出そうとしたが、なんか駄目だった。ほんわり失敗した。


「ふむ」


 放っておかれている少女は、何かに気づく。二人からはそこまで敵意が感じられない。むしろ友好的に接することが出来るのではないか。


 潜ませておいた攻撃用の機械の電源は切らずに、こちらから歩み寄ってみる。


「こちらとしては戦闘は嫌でね、疲れるし苦手だし痛いし。とりあえず君たちの目的を聞かせてもらえるかい。場合によっては、こちらのことも話そう」


 癖なのか、眼鏡をクイッとして、そう言った。

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