ミステリアスレディ

「現女王陛下は、長女クリス。そしてミリス様との間の、次女ティリス様。彼女についてのことです。例の噂はご存じですか?」


 そういえばスィエルが何か言っていたような。確か⋯⋯


「行方不明だとか」


 フララが言った。そう、それだ。


「その通り。残念なことに、それは事実です」

「なっ」


 唖然とするチエ。フララは、驚いた様子はなく、冷静だ。


「私の第六感的には嘘じゃないみたいだね」

「第六感。確かに馬鹿にならないものです」


 僅かに微笑むメア。


 先程から思っていたが、このメアという少女は不思議なオーラを纏っている感じがする。身の上についても話すと長いと言うし、一体何者なのだろうか。ミステリアスの擬人化か。いや、無いな。と、心の中でも突っ込みを欠かさないプロフェッショナル、チエ。


「それで、調査をしてほしいのは、もう想像が着くと思います」


 もちろん、ここまでの情報だけでも容易だった。


「ティリス様を探す、ということだね」

「ええ。ミリス様は⋯⋯無事であることが確認できればそれで良い、と仰っております」


 連れて帰るわけではなさそうだ。


 もし無事だったとしても、行方をくらますぐらいの事情があったことに違いない。そこを無理矢理連れ帰るのもよろしくないだろうということか。


「うん、わかった。確かに承ったよ」

「くれぐれもお気を付けて。継承時の事件なんて、ロクなことじゃないでしょうから」

「エルスメノス王国憲法第一章第二条。それに触れるようなことがないことを切に願うばかりだねぇ」

「??」

「王位は、継承法典に基づき受け継がれる。この厳粛な継承が汚された場合、国の定める法により厳しく罰せられる」

「ああ⋯⋯なるほど」


 よく覚えているものだ。それにしても、自分たちは暮らしている土地のルールを知らないのによく生活出来ているな、と思う。世間で言う真っ当な人間として生きてゆけば、触れることは無いのだろうが。

 とは言っても。


「憲法⋯⋯軍隊を持たないなんてのもあったっけ。でも、元素が集まれば軍隊みたいなものだな」

「だからこそ、非武装を宣言できたようなものだがね。敗戦国だけが軍を奪われることに異を唱えた唯一の大国。まさか自分も軍を捨てちゃうとはね」

「その代わり、国境警備とかが強化されたけど」


 海は海上警備隊がパトロールし、孤島には積極的に人を住まわせ、陸の国境は陸上警備隊が目を光らせている。

 そしてそこに、元素が集まっていることでの圧力のようなものが加わる。


「国境警備隊は立派な軍隊だから無くせーと言う奴もいるが、要は国土を危険に晒せと言っているようなものだな。軍隊と捉えること自体には反対しない。しかし、現実を、周りにある国を考えてみろという話だ。それに国境警備隊にかけられているお金なんて、他国の軍隊と比べて圧倒的に少ないのに」

「そうだね、お金をかけているならまだしも」


 周りにある国で特に危ないのは、戦の国とも呼ばれるセイントセント。未だに大きく強力な軍隊を保有している。確かに、貿易での結び付きが強いが、攻撃されない保証はない。

 北の国ヴィザーパンも、あまり友好的な関係を築けているわけではない。


「憲法で定められているからね、自衛のための戦力の保有のみを許すって。まあ、そこに穴があるんだけど。⋯⋯と、無駄話が過ぎたね、失礼」

「構いません」


 メアはくすりと笑う。


「⋯⋯ビアンカは、良い所でしょう?」

「そうだな」

「元素が集まる地としては最高さ。あそこを見捨てて他の国に行くことなんて、私にはできないね」


 それを聞くと、メアはとても嬉しそうな顔をした。

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