神格の性格

「これからか?」


 ディオーネは深く考え込む。


「少なくとも、元居た世界へ帰るつもりは無い」

「元居た世界?」

「ああ。あそこは⋯⋯あまりに危険な場所になってしまった」


 この世界に降臨する前は、恐らく他のギリシャ神も住まう場所にいたのだろう。しかし、詳しい事情まではわからないが、危ないという。


「そうだな。アンダンサは私の加護がある限り安泰であろうし、無理に留まることもないな」


 この女神、空気が読める!?

 さすが、天空の女神。


「じゃあ、引っ張っていってもいいのね?」

「おい言い方」

「構わんよ。我々はここでは元素でもある。何も理解していない訳では無い」

「そうか」

「よし、話は決まりだ。ネプテューヌス、力を貸してくれ。脱出するぞ!」

「任せろー!」


 パリンという音がすると同時に、空へと向かって飛び立つ。


「わあ!」


 水や魚が、まるで自分たちを避けるかのように道を開ける。


「むふふ、海王の威厳だぞー」


 こんな子でも海王の名は伊達じゃないらしい。


 上へ出ると、本当に近くだったようで、そこからでもアンダンサが見えた。


「ところでディオーネ、ニオベちゃんはどうしたの?」


 スィエルが聞くと、笑いながら答える。


「あの子なら、とっくにアンダンサにいると思うぞ」


 時代が変わっても、小さな女神がアンダンサへの深い感謝を忘れることはない。


「そうなんですね」


 二人が伝承に残された女神だとはつゆ知らず。


 ⋯⋯いや、チエ以外が忘れているだけで。

 7人は海の上を飛び、アンダンサへ向かう。



 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼

 目的、珊瑚海に現れた海底洞窟の調査。

 海底洞窟には二人の女神が眠っていただけである。害は何もないし、宝も何もない。トラップはあるが。

 アンダンサ付近で魔術の跡が確認されており、その儀式が原因で二人の女神を呼び起こしたと思われる。なお、儀式についての詳細は不明。

 現在洞窟内は海水が入り込んでいると推測される。もはや用もなく行くような場所ではないだろう。


 文之月 九日

 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼



「ふう。最低限のことは書いてあるからこれでいいでしょうかね」


 一人、報告書と向き合っているのはホウコ。

 他の七人は挨拶に行っている。


 書き終えて筆記具を置いた時、連絡機が震え出した。

 何だろうと思いながら、応答ボタンを押して耳に当てる。


「ホウコです、どうかしました?」

『女王陛下がお亡くなりになりました』


 聞こえてきたのは、フェルニーの声だった。


「ああ、とうとう⋯⋯、そうなんですね」


 前から陛下は病気をしており、周りの懸命な看病によりなんとか生き長らえていた、という状況だったのだ。


『ええ。非常に残念ですが』

「陛下は、私たちにも優しくしてくださって⋯⋯それで、大変⋯⋯、よくしてくださって⋯⋯」

『ええ』


 王族のなかでも、元素たちの扱いは議論となっている。

 その中でも特に、陛下⋯⋯シェーリの態度はとても寛容だった。

 排他的な大臣たちを説き伏せ、今回のように依頼をしてくれることすらあった。


『ですから、しっかりと報告をしましょう。陛下の最後のご依頼でございますから』


 通信は切れた。


 ホウコは、もう一度ペンを握りしめる。




「大人しく帰れば見逃してあげてもいいよ」


 どこかの森。空は灰色に曇り、今にも雷雨が降り出しそうだ。

 そんな森の道で、一人の少女がある男を見下ろしていた。


「わ、わかった。わかった、わかったから、どうかこのことは⋯⋯!」


 腰を抜かしたその男は、体格がよく、軽鎧を纏っている。

 対する少女は、華奢な体の上に、Tシャツ短パンパーカーといった軽装である。


「べっつに言う相手いないし。早く帰りなよ」


 少女の眼は男を捉えてなどいない。


 見据えていたのは、その先に立つ少女の姿だった。

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