神格の性格
「これからか?」
ディオーネは深く考え込む。
「少なくとも、元居た世界へ帰るつもりは無い」
「元居た世界?」
「ああ。あそこは⋯⋯あまりに危険な場所になってしまった」
この世界に降臨する前は、恐らく他のギリシャ神も住まう場所にいたのだろう。しかし、詳しい事情まではわからないが、危ないという。
「そうだな。アンダンサは私の加護がある限り安泰であろうし、無理に留まることもないな」
この女神、空気が読める!?
さすが、天空の女神。
「じゃあ、引っ張っていってもいいのね?」
「おい言い方」
「構わんよ。我々はここでは元素でもある。何も理解していない訳では無い」
「そうか」
「よし、話は決まりだ。ネプテューヌス、力を貸してくれ。脱出するぞ!」
「任せろー!」
パリンという音がすると同時に、空へと向かって飛び立つ。
「わあ!」
水や魚が、まるで自分たちを避けるかのように道を開ける。
「むふふ、海王の威厳だぞー」
こんな子でも海王の名は伊達じゃないらしい。
上へ出ると、本当に近くだったようで、そこからでもアンダンサが見えた。
「ところでディオーネ、ニオベちゃんはどうしたの?」
スィエルが聞くと、笑いながら答える。
「あの子なら、とっくにアンダンサにいると思うぞ」
時代が変わっても、小さな女神がアンダンサへの深い感謝を忘れることはない。
「そうなんですね」
二人が伝承に残された女神だとはつゆ知らず。
⋯⋯いや、チエ以外が忘れているだけで。
7人は海の上を飛び、アンダンサへ向かう。
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目的、珊瑚海に現れた海底洞窟の調査。
海底洞窟には二人の女神が眠っていただけである。害は何もないし、宝も何もない。トラップはあるが。
アンダンサ付近で魔術の跡が確認されており、その儀式が原因で二人の女神を呼び起こしたと思われる。なお、儀式についての詳細は不明。
現在洞窟内は海水が入り込んでいると推測される。もはや用もなく行くような場所ではないだろう。
文之月 九日
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「ふう。最低限のことは書いてあるからこれでいいでしょうかね」
一人、報告書と向き合っているのはホウコ。
他の七人は挨拶に行っている。
書き終えて筆記具を置いた時、連絡機が震え出した。
何だろうと思いながら、応答ボタンを押して耳に当てる。
「ホウコです、どうかしました?」
『女王陛下がお亡くなりになりました』
聞こえてきたのは、フェルニーの声だった。
「ああ、とうとう⋯⋯、そうなんですね」
前から陛下は病気をしており、周りの懸命な看病によりなんとか生き長らえていた、という状況だったのだ。
『ええ。非常に残念ですが』
「陛下は、私たちにも優しくしてくださって⋯⋯それで、大変⋯⋯、よくしてくださって⋯⋯」
『ええ』
王族のなかでも、元素たちの扱いは議論となっている。
その中でも特に、陛下⋯⋯シェーリの態度はとても寛容だった。
排他的な大臣たちを説き伏せ、今回のように依頼をしてくれることすらあった。
『ですから、しっかりと報告をしましょう。陛下の最後のご依頼でございますから』
通信は切れた。
ホウコは、もう一度ペンを握りしめる。
「大人しく帰れば見逃してあげてもいいよ」
どこかの森。空は灰色に曇り、今にも雷雨が降り出しそうだ。
そんな森の道で、一人の少女がある男を見下ろしていた。
「わ、わかった。わかった、わかったから、どうかこのことは⋯⋯!」
腰を抜かしたその男は、体格がよく、軽鎧を纏っている。
対する少女は、華奢な体の上に、Tシャツ短パンパーカーといった軽装である。
「べっつに言う相手いないし。早く帰りなよ」
少女の眼は男を捉えてなどいない。
見据えていたのは、その先に立つ少女の姿だった。
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