最終章part24『復活の歌』

牧野:道玄坂 ライブハウス・マーキュリーFM コンサートホール 楽屋内 夜


 牧野です。

 あれから半年の月日が流れました。森羅さんのことはすっぱり諦めて、手紙に書かれていた通り、音楽活動と仕事に専念しています。

 今日は私達ラーバス・サスペンションズのお披露目ライブの日です。

 すでに沢山の人が集まっています。


 楽屋には、マネージャーの日下さんを始め、社長と沢木さん、美咲ちゃん、狩川さん、犬伏さん、東矢さん、蘭とアミリン、そして長畑さんも駆けつけてくれています。

 でも正直、今、あの3Uのトラウマが、再び蘇ってきてしまって、手が少し震えているんです。こんな大事な時なのに、どうしよう・・・。

 

「玉藻、ここが勝負よ。結果よ! 結果を出しなさい!!」

 日下さんが私に激を飛ばしてきます。

「牧野さんなら大丈夫でしょう。私はまともに観ませんけどね、ふん」

 蘭が小憎らしく言ってきました。

「おう、牧野って奴、頑張れよな!」

 記憶を失くしたアミリンも、私を勇気付けてくれます。

「玉藻、あなたなら出来るわ。自分を信じて」

 美咲ちゃんが私の肩に手を置いて熱心に語りかけてきます。嬉しいけれど、それがまたプレッシャーになってしまって・・・・。


「あっああう・・・」

「どうしたの、玉藻」

 

 上杉君が私の異変に気が付いたのか、声をかけてきます。


「何でもない。ちょっと外の空気を吸ってくる・・・」


 私が外へ出ようとしたときでした。長畑さんが私に声をかけてきました。


「牧野さん。俺も甲子園に立ったときは本当に緊張したんだ。でも、今は後悔しているよ。真剣になりすぎて、失敗しちゃったからね。だから、牧野さん、今日のライブ。客を楽しませるよりも、自分を楽しませる事を一番に考えて。」

「長畑さん・・・」

「楽しんで、牧野さん。牧野さんが楽しいと、きっと皆も楽しくなると思うから、ね?」


 どうしてこの人は、いつも、今、私が一番欲しい言葉をくれるんだろう・・・。

 駄目、忘れなきゃ。この気持ちは・・・。

 犬伏さんが、可哀想。


「煉次朗・・・」


牧野:道玄坂 ライブハウス・マーキュリーFM コンサートホール 夜


 牧野です。

 私達四人が出てくると、観客達が大声援を送ってくれました。

 とても感動しましたが、同時に緊張もしました。


 そして演奏が始まったのですが、私の腕は徐々に鈍っていってしまいました・・・。


「玉藻! 楽しもうよ~~!!」


 ギターの上杉君が声をかけてくれます。


「うん。ありがとう。」


蘭:道玄坂 ライブハウス・マーキュリーFM コンサートホール 夜


 蘭です。 

 今、牧野さんのライブの様子をお姉ちゃんと観ています。

 でも牧野さんの様子が、少しおかしいのです。

 いつものカッコ良さはどこへやら。コールドプレイです。

 

 そして、何と、牧野さんがうっすらと涙を流し始めてしまいました。


「牧野さん?」


 そのときでした。隣にいたお姉ちゃんが、牧野さんを食い入るように見て、そして、こう声を発したんです。

「・・・まちゃん。タマちゃん!! 泣いちゃ駄目!!!」

「お、お姉ちゃん??」


牧野:道玄坂 ライブハウス・マーキュリーFM コンサートホール 夜


 牧野です。

 今、アミリンの声が聴こえました。

 私のことを、タマちゃんって・・・・。

 まさか、記憶が戻った??

 私の音楽の力で???


 よくわかりませんが、私は流れていた涙を拭き、そして本気を出してベースソロパートを披露しました。


 会場は割れんばかりの大歓声に包まれます。


 ああ、快感だ。やっぱり、ライブは気持ちいい・・・。


蘭:道玄坂 ライブハウス・マーキュリーFM コンサートホール 夜


 蘭です。

 お姉ちゃんが私の方を向き、声をかけてきました。

「どう、蘭? 凜の親友のタマちゃんのベースは?」

「・・・いいんじゃない、凄く」

「でしょ!! タマちゃーーーん! 頑張ってーーーーー!!」


 お姉ちゃん、記憶が・・・もしかして、戻ったの・・・?


網浜:道玄坂 ライブハウス・マーキュリーFM 外 夜


 アミリンです。

 記憶が戻りました。全ての記憶を取り戻しました。

 蘭から事件は全て解決した事を聞かされました。

 

 そして、タマちゃん・・・牧野さんが凜たちの方に向かってきました。

 すごくふくれっ面をしています。何だか不機嫌みたい。

 無理もないよね、仕事とはいえ、あんなこと、しちゃったんですから。

 またビンタされるかな。

 タマちゃんのビンタはすっごい痛いんだよね・・・・。


「タマちゃん・・・」

「何がタマちゃんだ! ふざけるな!! 勝手に記憶喪失になりやがって!! こっちは色々大変だったんだぞ!」

「ごめんね、タマちゃん。凜のこと、許して。」

「許さない!!」


 タマちゃん・・・。


「許さない、許さない、許さないから・・・」


 タマちゃんが私に近づいてきて、抱きしめてきました。


「ずっと私の傍にいて、アミリン」

「タマちゃん・・・」


 凜は・・・あたしは嘘をついて生きていました。今も、自分を偽って生きています。

 でも、タマちゃんの傍にいたいです。これからも、ずっと。。。。


「お姉ちゃん・・・」

「蘭」


 凜は蘭を抱きしめました。


「よかったな、蘭。アミリンの記憶が戻って」

「はい、牧野さん。その、・・・ありがとう、ございますっ」

「礼なんて要らないよ。私達、もう友達だろ?」

「・・・なっ何を言ってるんですか、あなたっあなたとお姉ちゃんがお友達なのであって、私とあなたは友達では」

「うるさいな、可愛い奴めっ」


 牧野さんは蘭を抱き寄せました。

 蘭は少し恥ずかしそうにしながらも、牧野さんを受け入れていました。

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