最終章part18『サヨナラの代わりに』

犬伏:長畑の家 犬伏の部屋内 昼


 犬伏です。

 社宅を出て、一人暮らしをする事に決めました。

 今日は土曜日。会社は休みです。今は東矢君とルリに引越し準備を手伝ってもらっています。


「あんた、ホントに家を出る気なの?」

「うん。もう決めたから、今すぐ出て行くよ」

「どうしてそんな急に?」

「ちょっと、色々あってさ・・・」

「色々って何よ? 教えなさいよ・・・」

「実は・・・煉次朗に振られちゃったんだ・・・他に好きな人がいるんだって」

「・・・」

「だから、家に居づらくて・・・」

「そう、あんたみたいなお喋りでも、いなくなると思うと、少し寂しいわね」

「お喋りは余計だよ、ルリ」

「もうすぐ赤帽が来るんだろ。荷造りは出来たし、外に運び込もうぜ」

「とりあえず最低限の物だけで。後は後日また取りに来るから」

「オッケー真希ちゃん」


長畑:社宅マンション 外 昼


 長畑だ。

 犬伏が社宅を出て、一人暮らしを始めると聞いた。

 俺は彼女になんて顔して会えばいいのかわからなかったけど、とりあえず見送ることにした。


 東矢と日下さんが、赤帽のトラック内に犬伏の荷物が入ったダンボールを運んでいる。


「みんな、短い間だったけど、楽しかったよ。本当にありがとう」

「犬伏・・・」

「煉次朗、気にしないで。これはもう決めたことだから。これからも、会社では宜しくね」

「ああ・・・」

「東矢君」

「なんだ、真希ちゃん?」

「こんなあたしと友達付き合いしてくれて、本当にありがとう」

「真希ちゃん・・・寂しいよ。行かないでくれよ・・・」

「ごめんね、もう決めたことだから」

「真希・・・」

「ルリ・・・ルリもありがとね」

「・・・ふっふん。別にお礼をされるようなことは何もしてないわよっ」

「うふふ」


 犬伏は、俺たち全員と握手をして、赤帽の助手席に乗り込んだ。

 そしてトラックは走り出し、すぐ隣のマンションで止まった。

 犬伏がトラックを降りてきた。 


「近い・・・」

「俺たちがそのまま運んだ方が早かったんじゃねーの・・・・」

「全く、心底馬鹿な女ね・・・」


日下:社宅マンション 外 昼


 日下よ。

 東矢君は真希のマンションの方の引越しの手伝いに行った。

 あたしと長畑君は二人で立ち尽くしていたわ。

 長畑君、いや、長畑煉次朗に言わなくちゃいけないことがある。


「ねえ、長畑君」

「なんだい、日下さん」

「好きな人が出来たって、ホントなの?」

「・・・ああ、本当だ」

「誰? 実里」

「・・・それは・・・」

「長畑君って、見かけによらず、酷い男ね。あなた、真希が自分のこと好きだって、ずっと前から判ってたんでしょ? なんで気持ちを受け入れてあげないの? あの子のどこが不満なの?」

「それは・・・」

「一体、誰なの? 好きな人って・・・」

「それは・・」

「言いなさいよ」

「・・・その、牧野さんのことが、気になってる・・・・」


 あたしは閉口した。もう呆れて言葉も出ないって感じ。


「正直、長畑君には失望したわ。真希がどれだけあなたのことを長く想ってたか、判る?  ずっと気持ち知ってたくせに、あいつとマトモに向き合わずに逃げて、他の女に走るわけ? 長畑君、あなたって、最低よ、男として最低だわ。そんな人だとは思わなかった」


 言うだけ言って、あたしはさっさと家に戻っていった。

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