最終章part3『失恋』
牧野:芸能音楽事務所スケール社内 社長室
牧野です。
沢木さんに連れられて社長の相楽勇次さんとお話ししています。
「ほお・・・とても可愛いじゃないか。しかもまだ18歳。それであのベースの腕前を持っているとは、大したもんだ」
「どう致しまして」
森羅さんとの再会は、諦めました。森羅さんが自分の道を進むように、私も自分の道を進むことに決めたんです。
「でもキミはソロ志望なんだろ。ならもっとギターの腕を磨かないと駄目だな。歌も猛レッスンが必要だ」
「そのことなんですが、私、バンドを組もうと思ってるんです。」
「バンド? それはいい。ぜひメンバーはウチでオーディションをして集めよう」
「いえ、メンバーには心当たりがあるので、自分で探します」
「そうか? まあ頑張れ。で、ウチの事務所に所属してくれるのかい」
「はい、ぜひお願いします。と言いたいんですけど、私今、就職してるんです」
「知ってるよ。会社は暫く辞めない方がいい。積極的に売り出すつもりだが、どうせ当分ウチから給料は払えない。レッスン費用はこちらもちだが、まずは生活の基盤を作らないといけないしな。」
「そうですね。ありがとうございます。相楽社長」
「社長、やりましたね。ついに見つけましたよ、原石をっ」
「ああ、お手柄だ、沢木。犬伏君にもお礼を言っておいてくれ」
こうして、私はスケールという大手の音楽芸能プロダクションに所属する事になりました。
私が契約書にサインしていると、背後から年配と思われる女性の笑い声が近づいてきました。
振り返ると、そこにはゴージャスな服を身にまとった美魔女っぽい女性がこっちに向かってきていました。
「やあ、長畑さん。事務所に来てくれたのかい」
「ええ、ちょっと近くまで来たものだから」
長畑・・・って、長畑さんと同じ苗字だ。
「ああ、牧野さん。彼女はウチの稼ぎ頭。女優兼歌手の長畑峰子さんだよ」
「あ、どうも、初めまして、牧野玉藻と申します」
「牧野玉藻? あなたが、ウチの息子の意中の人?」
「え?」
「どういうことです」
「あなたのこと、息子から聞いたのよ。とってもロックでカッコいい女の子が入社してきたって弾んだ調子で話していたわ」
「長畑さんが、私のことを・・・」
「まあ、なんて可愛い娘なんでしょう。ウチの煉次朗にピッタリだわ。牧野さん、ウチの子をよろしくね。あの子、恋愛には奥手だから、自分から積極的にアタック! アターック!! アターーック!!!よ、オホホホホ」
言うだけいって、長畑さんのお母さんは去っていってしまいました。
なんか凄い、嵐みたいな人だったな・・・。
「牧野さん、長畑さんはキミの会社にいる長畑煉次朗君のお母さんなんだよ」
沢木さんが眼鏡を直しながら言いました。
「そうなんですか?」
「牧野君は、今、彼氏とかいるか?」
相楽社長が尋ねてきます。
「いいえ、居ませんけど」
「そうか。キミはミュージシャンだし、恋愛は縛らないが、あまり奔放にやりすぎるなよ」
「はっはぁ・・・」
どうしよう。なんか、凄い誤解をされている気がする・・・。
犬伏:長畑の家 リビング 夜
犬伏です。上機嫌です。ついにあたしの望むような展開がやってきたから。
煉次朗はあたしのことを好きになってくれたんだ。だから酒の勢いで、あんなことを・・・。
今、リビングには煉次朗と二人っきりです。
ちょっとドキドキしています。この間は最後までいかなかったけど、今日こそは・・・。
「ねえ、煉次朗」
「ごめん、犬伏」
「え? 何が?」
「酒の勢いで、あんなことしちゃって、本当にごめん」
「え? ああ、いいんだよ。あたし、別に気にしてないから」
それにあたしも久方ぶりの快感をえたし・・・・ポッ。
「犬伏。実はお前に話さないといけない事がある」
「話しって、何?」
「実は、俺、牧野さんのことが、すごく、気になるんだ」
「・・・何?」
「もしかしたら、好きかも、しれない・・・」
どういうこと・・・?
「なっ何それ。じゃあこの間のあれは何? あたしはただ上手くやられちゃっただけなわけ?!」
「だから謝ってるんだ、お前に」
「そんな・・・酷い・・・酷いよ・・・煉次朗。あたしの気持ち、本当は知ってるんでしょう? 知ってて、抵抗しないってわかってたからしたんでしょう? そうでしょ? ねえ! そうなんでしょう? 答えてよ、煉次朗!!」
「・・・ごめん、としか、言えない・・・」
なんてこと・・・。
「何それ・・・ふざけないでよ。あたしの気持ち、知ってるくせに。あんなことして。許せない。」
「犬伏・・・」
「恋のライバルに力貸しちゃうなんて・・・あたしって、馬鹿だね、グズだね、ドジだね、本当に、大うつけだね。」
「犬伏、本当に、本当にごめん」
「許さないから・・・そんな簡単な言葉で、あたしは許したりなんて、しないんだから!!!」
あたしは煉次朗から逃げるように自分の部屋へと駆け込んでいった。
そして部屋のベッドにうつぶせになって、ひたすらに泣いた。
あたしの恋は・・・あたしの恋は・・・終わってしまったの・・・?
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