第二部第三話part4『名こそ惜しけれ童貞賛歌』

牧野:音楽スタジオ内 夜


 牧野です。今日は本格的に演奏レッスンをするため、豚さんこと桝井さん、とくっぺ、上杉君を集めて音楽スタジオ内で発表曲を演奏していました。


 そしてその休憩中、上杉君は私に悩みを打ち明けてきたんです。



「童貞賛歌、中々ユニークな曲だね。当日は盛り上がると思うよ」

「そうだね。僕は実際童貞だから、リアリティがあるよね」

「上杉君、童貞なの?」

「う、うん。この年で、恥ずかしながら・・・」

「私も昔は悩んでたし、焦ってたよ。自分が処女だってことに。でも森羅さんに言われたんだ。そういうことは時間と時期が解決してくれる問題だから気長に待ってろってね。そういわれてから、私は気にしないことにしたの」

「時間と時期が解決してくれる、か・・・。そうだね。僕はまだ18歳だし、これからきっと犬伏さんと時間をかけて・・・」

「犬伏さん?」

「僕、彼女のことが好きなんだ」

「え~~~~犬伏さんのどこがいいの?」

「どこって、あんな天使みたいな笑顔をする女性はいないよ。一目見てハートを打ち抜かれちゃった」

「ふ~ん・・・」


 犬伏さんを好きになるなんて、上杉君って、不思議。あの人、顔はいいけど、性格はちょっと・・・あれですよね。

 この前も何を血迷ったのか、私に便秘薬を渡してきたし・・・。


「ところで、このサビのほにゃらほにゃららってどういうことなの?」

「実は、良い歌詞が思いつかなくて、ぼかしているんだ」

「そうだったんだ・・・何かいい歌詞は無いかな~~~」


 私は一生懸命頭の中にあるフレーズをひねくり出しました。

 そして、美咲ちゃんから聞いたある言葉を思い出した。


「そうだ」

「何!?」

「名こそ惜しけれっ名こそ惜しけれ童貞賛歌にしようよ」

「名こそ惜しけれって・・・それはいい。そうだ、それにしよう。やった、これで曲が完全に完成したぞ!」


 私と上杉君はハイタッチして喜びを分かち合いました。


 するとスタジオ内に美咲ちゃんがやって来ました。ライブの人集めに協力してくれるという事で、その打ち合わせで呼んだのです。


「玉藻、もう来てたのね」

「遅いよ、美咲ちゃん」

「ごめんなさい。ちょっとGAMの仕事でね。それより楽曲製作は順調なの?」

「うん、順調だよ」

「こっちも順調よ。この指野ネットワークを駆使して、条件を飲んで当日来てくれる人を見つけているわ」

「指野ネットワーク?」

「美咲ちの人脈のことだよ~」


 狩川さんが手袋を取りながら遅れてスタジオに入ってきました。


「狩川さんっ」

「美咲ちは凄いんだよ~まあお子ちゃまの玉藻っちにはその偉大さは判らないだろうけどね」

「そっそんな」

「誰、この人?」

「ああ、紹介するね。彼女は私の従姉妹の指野美咲さん。隣の金髪の人はその親友の狩川亜美奈さん」


 私は上杉君に二人を紹介しました。


「上杉純夜君ね。当日はよろしくね」

「よろしく~」

「よっよろしくお願いします」


 上杉君が顔を真っ赤にして二人にお辞儀しました。


「そうだ、上杉君。さっそく完成したあの歌を美咲ちゃん達に聴かせてあげようよ」

「そうだね、ぜひ聴いてもらおう」

「あら、素敵。どんな歌なの?」


私と上杉君はさっそく演奏準備をしました。


「それでは、聴いて下さい。童貞賛歌」

指野・狩川「」



上杉:音楽スタジオ内 夜


 上杉です。牧野さんの従姉妹の指野さんとそのお友達の狩川さんに完成ほやほやの童貞賛歌を聴かせました。 

 狩川さんは腹を抱えて笑ってくれたのですが、指野さんが・・・・。

  


「なっ・・・なんて猥褻な歌なの!? こんな曲、世に出したらあなた達は終生の笑い者になるわよっ」

「そんなこと無いよ、ユニークで良い曲だよ」

「そうです、名曲ですよ」

「そんなことないっとにかく私の大切な座右の銘をこんな猥褻な歌に使わないで頂戴っ」

「なんでなんで、いいじゃんいいじゃん、ぷっぷくぷ~」

「ぷっぷくぷ~」

「ぷっぷくぷ~じゃなくて、全国のその、ど・・・・ど、どどどどどとどどどっど~」

「(二人揃って)ドラえもん?」

「童貞っ童貞の人たちが可愛そうでしょうっ」

「やだー美咲ち、童貞って言った~」

「わ~い、童貞、童貞っ」

「童貞、童貞」


 指野さんの顔がみるみる真っ赤になっていきました。 


「もうやめて、恥ずかしい。こんなこと、この私に言わせないで頂戴っ」

「この曲は童貞を貶めるために作った歌じゃないですよ。全国の童貞に向けたエールです」

「理由なんかどうでもいいのっ」

「美咲ちは本当に頭が固いなあ。少しは柔軟になりなよ~」

「だってこんな酷い歌聴いたことないんだもの。こんな歌当日に披露したら客が逃げるわよっ」

「そんなことないよ、大爆笑の大盛り上がりだってっ」


 牧野さんが僕の作った歌を必死に擁護してくれてる。


「いいえ逃げるわ」

「いいや、受ける! 箸休めには丁度いいよ」

「もういいわ、勝手になさい。あなた達のエリアに行かなくて助かったわよ」

「へへ~ん。よ~し、純夜君、童貞賛歌、全部完成させるぞ~」

「おーーーうっ」

「全くもう、この色餓鬼共はっ」


 指野さんはふくれっ面で腕組みをしていました。そんな彼女を金髪ボブカットの狩川さんがなだめています。

 童貞賛歌・・・そんなに猥褻な曲かなあ? コミックソングのつもりで作ったんだけどな・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る