第二部第三話part1『秘密の取引』
網浜:警視庁小野木佳代自殺事件捜査本部内 昼
アミリンです。ただ今、警察のネットワークに不正アクセスして更なる情報を色々探っています。
「おい、網浜。今日はレインバスに行かなくていいのか?」
凜に話しかけてきたのは上司で警部補の成田鉄平さん32歳です。
凜の過去を知っていて、能力を高く買ってくれています。盟友です。
「これが終わったら行く予定です」
「そうか、名探偵のお前が他殺派のおかげで他殺の線を追う刑事達も少しづつ増えている。
お前には期待しているんだ。頼んだぞ、網浜。証拠だ。証拠を押えてくれ」
「わかってます」
「ところでお前、一体何やってるんだ?」
成田さんが凜のノートPCを覗き込んできました。
「あっちょっと」
「おい、お前、なんてことをしているんだ。こんなことがバレたら、お前は懲戒免職だぞっ直に辞めろ」
「分かってます、お願いします、捜査に必要なんです。もう少しだけやらせて下さいっ」
「しかし・・・」
「お願いします、成田警部補。凜を信じて、この事は秘密にして下さいっ」
「むう・・・・全くお前は探偵時代から暴走ぶりは変わらないな。いいだろう。他に誰かに見られたか?」
「いいえ、警部補だけです」
「そうか。事件の解決に繋がる線なんだろうな?」
「確信しています」
「よしわかった。秘密にしておこう。だが俺が今、黙ってても、ばれるのは時間の問題だ。
そうなったら、網浜、流石の俺も庇いきれない。お前は刑事を首になってしまうんだぞ?! それでもいいのか?」
「覚悟の上ですっ」
「ふう・・・わかった。お前には期待している。頼んだぞ、網浜」
「はい」
昔から物分りのいい人で助かりました。
その後も凜は情報をあさり、そして、思わぬ真相に辿り着きました。
「なっ・・・なんだって・・・そんな、何かの間違いじゃ」
これは、今は詳しくは話せませんが、大変なことを知ってしまいました・・・・。
網浜:こじゃれたカフェ 昼
アミリンです。そろそろ皆さんには今凜が捜査をしている事件について真剣に語っておく必要がありますね。
凜が捜査している事件は大企業レインバス社員、小野木佳代の自殺事件です。
ですが彼女は司法解剖の結果、首を吊る前に腹部をアイスピックで刺していたことがわかったんです。
しかも部屋にあった金庫が開けられていました。
その事実から捜索本部を立てた警察は他殺の線もあるとみて捜査を進めてきたのですが、
しかしアイスピックにも金庫にも小野木佳代の指紋しか付いておらず、
他殺を示す証拠も目撃者も見つからない状況で、捜査本部は来年初旬にも、
自殺として処理しようという動きが出てきたんです。
だけど凜は確信的に感じています。これは自殺じゃない。
自殺に見せかけた殺人事件だと。
それから凜は小野木佳代のいたレインバスに通いつめ、地道に聞き込みを続けてきました。
ですが彼女の人柄は分かっても、事件に繋がる証言は得られず、
話を聞いていない人はあと一人というところまで来てしまいました。
その一人の名前は矢島実理さん。レインバスの総務課に勤めている受付嬢です。
最初に話を聞こうとしたらケンモホロロに断れてしまいました。
ですが流石にそろそろ彼女の口からも話を聞きたいと思った凜は、
矢島さんと時間をかけて仲良くなることから始め、
二人だけでカフェでランチしながら事情を聞く約束を取り付けられる仲になりました。
いよいよ話を聞くときが来たんです。
矢島さんとはこの日もこじゃれたカフェで、お互い他愛もない会話から始めました。
そして凜は慎重に会話を小野木さんの方に寄せていったんです。
「小野木さんの死は、とても残念でしたね」
「そうですね。私も悲しいです」
「矢島さんは小野木さんと親しかったんですか?」
「それはもう、同じGAMの会長さんでしたから。良くして頂きました」
「そうですか。正直凜には信じられないんです。何故順風満帆な生活を送っていた彼女が自殺をしたのか」
「それは・・・」
矢島さんの顔色が曇り始めました。
いつもそうです。ここから先はだんまりです。
ですが今日こそは必ず聞きだしてみせる。
「矢島さん。凜と矢島さんの仲です。何か知っていることがあったら話してもらえませんか? 他言はしません」
「でも、それだけは・・・」
「お願いします。矢島さん」
「・・・絶対に、会社には言わないでくれますか?」
「約束します」
矢島さんは大きく息をつき、そして凜に語り始めました。
「実は、小野木さん。マルチ商法をやって、社員達を勧誘していたんです」
「マルチ商法?!」
「話を聞くだけで加入する人はいなかったんですが、私は断りきれなくて、つい、加入してしまったんです」
「そうだったんですか・・・」
「でも私は誰も誘わずに、商品を使うだけでした。」
「何のマルチ商法なんですか?」
「ブルーベリーの健康食品です。何でも眼にいい成分がふんだんに入っているらしくて」
「なるほど・・・そのことは指野さん達はご存知なんですか?」
「知りません。私と小野木さんだけの秘密でした。会社にばれると、私達職務規定違反で首になってしまうかもしれませんから」
「そうですか・・・それで今まで黙っていたんですね」
「お願いします。このことは会社には絶対に言わないで下さい。私、会社を辞めたくないんです」
「事件の真相が明らかになれば、この事は自ずと明らかになるでしょう。
ですが矢島さんが関わっていたことは極力秘密にするように努めます」
「ありがとう、網浜刑事さん」
「ところで小野木さんはそのマルチ商法で稼いでいたんですか?」
「はい。何でも巨万の富を得たとか言って、喜んでいました」
小野木佳代・・・マルチ商法・・・。
「他に小野木佳代のグループにいた人間に心当たりはありませんか?」
「私が知っているのは一人だけです」
「誰です?」
「確か・・・朝稲小弦という若い女の子でした」
「朝稲小弦!?」
「ご存知なんですか?」
「いや、その・・・」
信じられない。まさかこんなところで朝稲小弦の名前が出てくるなんて。。。
ただの半グレダンサーだと思っていたのに、あの女、何かを隠しているのかもしれませんね。
念のため、凜は矢島さんに朝稲小弦の写真を見せました。
「ええ、髪を染めて雰囲気は変わってますけど、確かに彼女です」
「間違いないですか?」
「間違いないです」
「そうですか。ありがとうございます」
「網浜さん」
「なんです」
「私、あなたのこと、信じていますからね」
「任せてください。凜は約束は守る女です」
なにやら激動の予感がしてきましたね。
朝稲小弦・・・彼女と深く接点のあるあの人に話を聞かないといけませんね。
網浜:3U店内、店長室。夜。
アミリンです。六本木のクラブの店長、今井大志の下へ向かいました。
店長室では今井大志が席に座り、ノートPCを捜査していました。
「網浜凜。何の用だ。ライブの件ならキミの妹に任せてあるはずだろ?」
「今井大志。いえ、今井警部。あなたのことは全て調べさせてもらいました。
あなたの仕事に首を突っ込むつもりはありません。」
「その台詞、この前も聞いたな。で、何だ? 俺は既に警察を辞めた身の上だ。一体何の話だ? 事情が飲み込めないな」
「とぼけても無駄です。あんまり凜を舐めないで下さいっ全部台無しにしてやりますよっ」
凜が語気を強めてテーブルを掌で叩きつけると、今井警部は観念したように話し始めました。
「やれやら・・・流石に名探偵と呼ばれた女まで欺くことはできないか。それで、何の用だ?」
「警部に助言をいただきたいのです」
「助言?」
「捜査本部では、小野木佳代の事件を自殺として処理しようという動きが大きくなってきていて
、正直凜達他殺派は、今追い込まれているんです。」
「キミは他殺だと思ってるのか?」
「腹部を刺した後に首を吊る人間なんて、不自然すぎます。解剖の結果、首を吊るよりも早く小野木佳代は腹部を刺していたことがわかっています。家の金庫も開けられていました」
「その事件なら俺のところにも情報が来ている。腹部を刺したと思われるアイスピックにも、金庫にも、小野木佳代の指紋しかなかったそうだな。金庫に何が入っていたのかは知らないが、大方現金か証券の類だろう」
「そうなんです。ですがあまりにも不自然で、なんというか、違和感を感じるんです」
「その違和感の正体が自殺に見せかけた他殺という事か?」
「はい、そうです」
「ふむ・・・俺もキミの意見に同調するよ。確かに不自然だ。だが他殺の根拠となる証拠も目撃者も一切存在しないんだぞ。
どうやってひっくり返すつもりなんだ? 流石の名探偵も絶体絶命なんじゃないのか?」
「それを今必死に考えているところなんですっ」
「流石のキミも、この事件には苦戦しているようだな」
「そうなんです。もう頭の中がぐちゃぐちゃで、さっぱりわかりません。本当に困ってます」
「だがそれでもキミは他殺であることは確信しているんだろ?」
「勿論です」
「なら証拠と具体的な方法を探すことに心血を注ぐべきだな」
「そうですね。それと気になることがあるんです」
「気になること?」
「小野木佳代は朝稲小弦と接点がありました。それにジュリエッタに金を振り込んでいる人間の存在。どうやら小野木佳代と朝稲小弦はマルチ商法に手を染めていたそうなんです」
「何だと? それは本当か?」
「つい先ほど、やっと口を開いてくれた証言者から聞いた情報です。」
「マルチ商法か・・・あれはスタートダッシュが肝心だからな。立ち上げ当初に加入するほど自らがピラミッドの頂点に立てる可能性が高くなる。ある程度組織が完成した状態から入った後に稼ぐのは圧倒的に不利なビジネスモデルをしている。それで、小野木佳代は成功したのか?」
「巨万の富を掴んだと言っていたそうです」
「恐らくは立ち上げ直後に参加したんだろう。それで、何故小野木佳代と小弦に接点が?」
「小野木佳代が彼女をマルチに勧誘したんです」
「何だと? ふむ・・・そうか。ジュリエッタに金を振り込んでいる人間の正体は俺も気になる。一体何者なのか調べる必要があるだろう。網浜君。ここから先は、取引としないか」
「どうぞ」
「今俺がやっている事を他の警察関係者や第三者、美咲達に話さないと約束してくれるなら、
朝稲小弦に関して俺が知っている情報を全て提供しよう。金を振り込んでいる人間は俺が当たろう」
「わかりました。その条件を飲みます」
「とはいっても、俺が知っている彼女のことは現在の住所と過去の経歴ぐらいだがな」
「全て凜に教えてください」
「ああ、いいだろう」
「朝稲小弦はどういう経歴でダンサーになったんですか?」
「幼い頃からダンスをやり、Dリーグと呼ばれるダンスのプロ大会で優勝したこともあるらしい」
「そうなんですか」
「将来はダンスで飯を食えるようになりたいと言っていた。だが、そんな彼女を不幸が襲った」
「不幸?」
「彼女の父親が深夜に交通事故を起こして人をひき殺してしまったんだ。飲酒運転だったらしい」
「なんですって」
「父親は交通刑務所に現在も服役中。被害者の遺族からは多額の慰謝料を請求され、小弦はお金に困っている様子だった」
「そこで小野木佳代と知り合い、マルチ商法に手を染めた・・・」
「どれだけ稼いだのかは知らない。今もやっているのかもわからない。だが、かすかな糸が繋がり出したな」
「そうですね。情報ありがとうございます、今井警部。ところでどうやって聞き出したんですか」
「・・・何回か、関係を持って親密になった」
「あら・・・、仕事とはいえ、大変でしたね」
「気にするな。それより、例の件、頼んだぞ。君は口の堅い女だと信用して話したんだ。」
「わかってます」
「牧野さん達の前では、俺は表向き悪役を演じなければならない。キミは臨機応変に上手く立ち回ってくれよ、クックックッ」
「あの、もう悪役の笑い方になってますけど?」
「おっと、この笑い方は学生時代の頃からの癖でね。忘れてくれたまえよ、クックックッ」
「はぁ・・・」
「いいか、網浜君。この件は、美咲は勿論、特にキミの妹には絶対に勘ぐられないようにしてくれ。彼女は究極の馬鹿だが、キミ以上に知恵者で、ずるがしこく、洞察力もきわめて鋭い。僅かな隙も見せるなよ。念のため、小弦ともこれ以上接点を持たせるな。キミ以上に突拍子もない発想をする、何をしでかすか読めない娘だからな」
「心得ています」
「それと網浜君、あまり功を焦りすぎるなよ。残された時間をじっくり使って、少しづつ証拠を揃えていくんだ。それまでは今までどおりの捜査を平行して行いたまえ。朝稲小弦ともこれまで通り無難に接しろ」
「わかってます。でもいざとなったら凜は直に動きますからね」
「ああ。そのときは、俺も微力ながら協力しよう」
「お願いします、警部」
こうして、凜と今井警部との間で秘密の取引が行われました。
今井警部が3Uで今何を捜査しているのか、それは秘密です。
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