第二部第二話Part10『歌姫のMU―DAI』

東矢:品川シーサイド 海の見える公園 夜


東矢だ。今、森羅さんと一緒に夜の海を眺めている。


「東矢君、今日も聴きに来てくれてありがとね」

「いえいえ、森羅さんのためならどこへでも行きますよ」

「そうだ。今日は特別に私のオリジナルソングを聴かせてあげるよ」

「オリジナルソング? なんです?」

「まだAメロしか出来てないんだけどね。ま、聴いてみて。感想よろしく。」


そう言うと、森羅さんは唇をブルルと震わせて、「行きます」小声で言った。

そして彼女は歌い始めた。



 なんて歌だ。アカペラなのにこの圧倒的な歌唱力。

 森羅さんには歌姫という言葉が相応しいだろう。


 でも。。。


「どう? エモかった?」

「凄くいい曲でした。森羅さん、今の歌のタイトルは・・・?」

「MU―DAI」

「無題? まだ決まってないんですか」

「ううん。アルファベットでMU―DAIって言うの。

自殺志願者の苦悩を歌った歌なんよ」


 自殺・・・。



「森羅さん、まさか、死にたいって思ったこと、・・・あるんですか?」


 俺の問いかけに、森羅さんは少し溜めてから静かにこう言った。


「あるよ。人生で二回だけ、本気でね」

「そんな、森羅さん。駄目ですよ」

「駄目って、何が?」

「命って奴は、尊いんですよ。自殺なんて、絶対に考えちゃ駄目です。森羅さんが自殺したら、俺は、俺は・・・・」

「ぎゃははは、東矢君、何泣いてるの~? 子供じゃないんだからさ~」

「だって、森羅さんが」

「昔の話だよ~。あたしはもう絶対に死んだりしないから、安心して~ちょんまげっうふふ」

「森羅さん・・・森羅さん、俺、森羅さんのことが好きです」

「何いきなり、マジになってんの、ウケル~」

「冷やかさないで下さい、俺は本気です。心の底から、あなたを守りたい、そう思ってます」

「東矢君・・・」

「森羅さん」

「何?」

「キス、しても、いいですか?」

「う~~~ん・・・・駄目~~~~~~」


森羅さんは彼女の肩に伸ばした俺の腕を凄い力で振りほどいた。


「森羅さん・・・・力、強いっすね」

「空手やってたんでね。そんなことより、ウチ達、そういう関係じゃないでしょ?」

「じゃあ一体どういう関係なんですか?」

「う~~ん。マ、ブ、ダ、チ、かな、あはははははっ」

「森羅さん・・・」



森羅さんはその笑顔の裏に沢山の悲しみを抱えている。

俺には彼女を救うことなんて出来ないのだろうか。

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