第二部第二話Part8『手がかり』

牧野:壇ノ浦 玄武の間  昼


牧野です。今日のお昼休みは犬伏さんと東矢さんの二人と三人でランチ。

一通り食事が進んだ頃、東矢さんが話題を振って来ました。


「それで、話ってのはなんだい?」

「はい、実は、私、人を探しているんです」

「人探し? 誰それ? 友達か何か?」

「いいえ、私に音楽の何たるかを教えてくれた、とても大切な人です」

「一体何て名前なの?」

「森羅聡里って言いますけど、本名じゃないみたいで・・・・」

「しんら・・・さとり・・・か」


 話を聞いた犬伏さんは何か思案している様子でした。


「あっさっちゃん」

「(ギクッとした表情を浮かべる東矢)」


東矢:壇ノ浦 玄武の間 昼


 

 東矢だ。正直不味いことになった。

 真希ちゃんの馬鹿がさっちゃんの名前を出したからだ。

 森羅さんと牧野さんの関係を俺が知ってることを秘密にしておかなくては。


「さっちゃん? 何ですか、それ?」

 

 牧野さんが犬伏真希を問い詰める。


「あのね、今日の朝、蘭ちゃんが・・・あっ」

「ん?」

「御免、なんでもない、今のは忘れて」


 このことをほじくると自分が家にいられなくなるかも知れないと悟ったのか、

 真希ちゃんはそれ以上話そうとしなかった。


「一体さっちゃんって誰なんですか」


 不味い。牧野さんが俺の方を向いて問いただしてくる。

 どうする?

 森羅さんの苗字だけでも打ち明けるべきか?

 そうだな、どうせ知ったところで彼女だと分かるわけないしな。


「おっ俺の友達のジャズシンガーに光定さんっていう人がいるんだよ。

 俺も下の名前はさっちゃんとしか知らないんだけどさ」

「光定・・・さっちゃん? ですか?」

「そう、さっちゃん。」

「さっちゃん・・・光定・・・」


 牧野さんがスマホを取り出し、無心でLINEを始めた。一体誰に連絡してるんだ?


蘭 :私立晴嵐学園高等学校 教室内 昼


 蘭です。お昼休みはいつもの面子、ブレザーにスラックス姿の久原流、

 ミニスカートの崎山徳子、中2の笠鷺夢乃の四人で食べていました。

 そこで話題は先日聞いた和歌山剥きの話題になりました。


「和歌山剥きの件なんですけど」

「何かご存知なのですか? とくっぺ」

「私の友達に和歌山で地方アイドルやってる子がいるんですけど、

 彼女が言うには和歌山県民は多くの人が出来るみたいです」

「ふーん、なるほど。」

 

 和歌山か・・・。森羅聡里の手がかりになるんでしょうかね?


 私が考え事をしながらお弁当を頬張っていると、牧野さんからLINEが飛んできました。

 やれやれですよ、まったく・・・。


『おい、屑野郎』

『なんですか? クソ女』

『光定って苗字はどこの地方に多い?』

『突然何ですか?』

『いいから調べてくれ、お願い』

『はいはい、解りましたよ』


「一体誰からだ、蘭」


 久原が興味ぶかげに私に話しかけてきました。


「仕事の依頼人からですよ。何でも光定とかいう苗字の多い地域を探ってほしいって」

「あ、光定?」

 笠鷺がすっとんきょうな声をあげました。

「どうしました、夢乃」

「私の親戚にいますよ、光定っていう苗字の人。確か和歌山県の出身です」

「和歌山?!」

「和歌山とか関西圏に多い苗字みたいです」


 和歌山剥きを得意とする森羅聡里、和歌山に多い苗字、光定。そして、いらちという方言。

 この三つのかすかな手がかりが意味するものは・・・一体なんなのでしょう。

 どうやら星の手がかりは和歌山にありそうですね。

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