第六話Part6『巣鴨で会いましょう(後編)』

長畑:長畑の家、321号室 長畑の部屋 昼


長畑だ。今日の日曜日は牧野さんと会う日だ。

隣に住んでるので一緒に巣鴨まで行こうかと思ったが、彼女は既に家にいなかった。

もう現地へ向かってるんだろうか。行動が早いな。

 

俺もお財布に余裕を持たせて出かけることにした。

家のリビングでは、日下さんと東矢がゲームで遊んでいる。犬伏は朝から教習所に通っている。


「ちょっと出かけてくるわ」

「ほい、行ってらっしゃい」

「お土産買ってきて頂戴ね」

「はいはい」


さて、行くか。


網浜:巣鴨 カラオケBINGO巣鴨店内 昼


網浜です。今日は非番です。

今は牧野さんに呼ばれて待ち合わせ場所のカラオケ店に既に入店し、自慢の喉を披露しています。

凜がノリノリで歌っていると、牧野さんが入ってきました。背中にはギターケースを背負っています。

「タマちゃ~ん」

「アミリン、来てくれたんだね、ありがとう」

「で、用事って何」

「まって、もう一人来るから」

「もう一人?」


一体誰だろう。


長畑:巣鴨 昼


長畑だ。巣鴨までやって来た。

詳しい待ち合わせなどは約束していなかった。

到着したら連絡して欲しいとだけ言われている。

俺はさっそく牧野さんのLINEに到着の連絡をした。


『巣鴨に来ました』


牧野:巣鴨 カラオケBINGO巣鴨店内 昼


牧野です。長畑さんから連絡が来ました。どうやら到着したようです。

さっそくお出迎えに行かなくては。


「アミリン、ちょっと歌ってて」

「はーい」


私はカラオケ店を後にしました。


長畑:巣鴨 昼


長畑だ。木々の葉っぱが落ち始めている。もう秋だな。11月だし、これから寒くなるぞ。

俺が考え事をしていると、ギターケースを背中にしょった牧野さんがやってきた。

前髪長いショートカットの髪を編み込みしている。ちょっと指野さんに似ている髪形だ。

「牧野さん」

「お待たせしました、長畑さん。さあ行きましょう」

「どこへ行くの」

「それは行けば分かります」


俺は言われるがまま、牧野さんの後ろをついて行った。


網浜:巣鴨 カラオケBINGO巣鴨店内 昼


アミリンです。引き続き、自慢の喉をエアーな空間で披露しています。

凜がノリノリで歌っていると、牧野さんが帰ってきました。

そしてその直ぐ後に男前の男性が、と思ったら長畑さんが入ってきました。


「ありゃ、長畑さん」

「網浜」

「もう、凜のことは尊敬と敬愛と慈愛の念を込めてアミリンって呼んでくださいよ」

「わかったよ、網浜」

「・・・・」


長畑さんのイケズ。


「それで牧野さん、話って何?」


長畑さんがいきなり牧野さんに確信をぶっこんで来ました。


「それはあとで、それよりこのみかんを食べませんか? 甘くて美味しいですよ」


 どれどれ、本当だ、皮に艶があって美味しそう。

 長畑さんが一口食べた。


「うん、これは美味い。どこで買ったの」

「買ってません。」

「え?」

「え?」

「近所の家になってる物を美味しそうなんでむしってきました。」

「」

「」

「とってもティステイーでしょ?」

「タマちゃん、それ普通に窃盗だからーーーーー!」

 凜の大声に驚いた長畑さんがむせている。

「えーーそうなの。地元では普通だよ」

「ここは東京だよ」

「じゃあ、今度家の人に謝っておくよ」

「そういう問題じゃなーーーい」


牧野さんって、抜けてるのかぶっ飛んでるのか分かりませんね。


「それで、話しって何」


長畑さんが何事も無かったかのように牧野さんに質問してきました。


「長畑さんは知ってると思うけど、アミリンはまだだよね」


知ってるよ、音楽やってるんでしょ、とはいえません。ギターケースで丸分かりだなんて言えない。

「うん、何?」

「実は、私、音楽やってるんだ」

「え~~~~~~~~~」

「驚きすぎでしょ」

「だってびっくりしたんだもん。じゃあそれで上京して来たんだ」

「うん。あと、どうしても会いたい人がいて」

「会いたい人?」

「それは俺も知らないな、一体誰だい?」

「森羅聡里っていう歌手の人です」


森羅聡里・・・・知らないな。


それから牧野さんは自分の音楽遍歴をひとしきり話してくれました。

森羅さんとも出会いと別れのことも。もう一度会いたいという想いも。


「要するにタマちゃんは森羅さんに会いたいんだね」

「うん、凄く会いたい」

「一体どこにいるんだろうな」

「多分森羅さんは東京に来ていると思う」

「根拠は」

「ない」

「森羅聡里って本名?」

「うん、そうだよ」

「珍しい名前だね、森羅って」

「うん、だからきっと目立つだろうなと思ってライブハウスを回ってるんだけど、中々情報を得られなくて。

もう一人では限界なんだ」

「そういうことなら、このアミリンに任せなさい。」

「ホント」

「凜はあまり動けないけど、腕のいい探偵を紹介してあげるよ」

「探偵! そうか、その手があったか」


それから凜たち三人はひとしきり歌を歌った後、

牧野さんから、今度3Uというクラブのオープニングアクトを行うことを教えてくれました。

ぜひ二人に来てほしいと頼まれました。

「勿論行くよ、タマちゃんの上京初ライブだもん」

「俺も必ず行くよ」

「二人とも、ありがとうございます」


牧野さんは立ち上がると、深々とお辞儀をしてきました。


そしてその後は牧野さんの歌をひたすら聴く会になりました。

牧野さん、歌、上手いですね。


長畑:巣鴨 神社 (夕刻)


長畑だ。

牧野さんのワンマンライブを聴いた後、俺達は適当に巣鴨を散策し、神社に辿り着いた。

賽銭をいれて、俺達三人は願い事をした。


「森羅さんが幸せでありますように」

「牧野さん」


森羅さんか、どんな人なんだろうな・・・。


「買い込んだ宝くじが当たりますように」

「牧野さん?」

「ペットともっと仲良くなれますように」

「牧野さん?!」

「もっと音楽が上手くなりますように」

「牧野さん・・・」

「もう、タマちゃんってば、10円ぽっちで欲張りなんだから~しかも口にだして」

「えへへ」


やっぱり牧野さんはよくわからない。

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