第16話 逮捕
3人は森の中に足を
木陰から出ると、すぐ目の前には小川が左右に向かって
「向こうへ
ルロエは、
小道に立ち森のほうを振り返って見ると、森も左右に広く伸びているのが分かる。
「さて……」
ルロエは道に立ち、前後を見渡した。
「どちらへ進もうか?」
道の前後に人影は見えない。
「この壁の向こうは……」
篤樹が
篤樹はルロエを見た。それは「大人にこんな
「そうだね……まずは中を
かくして、ルロエが壁に両手をつき、その肩に篤樹が上って、まずは壁の上部から中を覗いてみることとなった。
「すみません、あの、
「いやいや、そのまま
篤樹は申し訳なさそうに、まずはしゃがんだルロエに
両腕を「グッ!」と壁の
「どうだい? 何が見える?」
壁に手をつき、篤樹の足を支えるルロエが声をかけた。
えっとぉ……
篤樹は両腕で体重を支えたまま、壁の上から中を見渡した。ちょうど目の前に建物の壁がある。篤樹が手をかけている壁との
そのまま、建物の屋根に乗り移れそうだし、こちらの壁と建物の壁を使えば簡単に
目の前の建物は
篤樹が乗っている場所から右に3mほどの場所に、何かが
あのロープ、使えるかなぁ……
さらに腕に力を入れてルロエの肩から両足を持ち上げると、篤樹は壁の上に
「おい! 大丈夫かい?」
「あ、大丈夫です。こちら側もそちらと同じくらいの高さです。もう少しこっちに移動してもらえますか? ロープがあるみたいなんで……先にエシャーを上げてもらって、それからルロエさんを引き上げますね。エシャー、来れる?」
篤樹は壁をまたぐように両足ではさみ、ズリズリと移動する。
「この辺です」
エシャーは手に
「スゲッ!」
篤樹は思わずエシャーの
この子、運動神経いいなぁ……
篤樹は心から感心した。
「エシャー、そのロープって、
「うん……」
積み上げられた「何か」を覆う布に巻かれているロープを、エシャーはガサゴソと解きにかかる。
「あっ……」
ロープを解いていたエシャーは、めくれた布の下にあるものを見て驚きの声を上げた。
「どうしたの?」
ロープを解く手を止めて、顔を
「コラッ! そこで何をしている!」
突然の声に篤樹は壁から落ちそうに驚く。後ろから? 篤樹はバランスを
建物の切れ目付近に、男の姿が見える。黒いズボンで、服は緑色……制服のようなデザインに銀色のヘルメット……篤樹は直感的に「警察っぽい」と感じた。
「キャッ!」
エシャーの悲鳴に視線を下ろすと、同じような「警察っぽい」男たちがいつの間にか立っている。1人はエシャーの手を
「どうしたんだい! アツキくん!」
塀の外側からルロエが声をかける。篤樹は一瞬ルロエを見たが、姿勢を
落下の際、篤樹は建物の壁にしこたま頭を打ち付けてしまう。塀と建物の隙間、狭い通路に
「外にまだ仲間がいるぞ!」
最初に声をかけてきた男が、急いで塀によじ上り外を見る。その後ろから別の男が続き顔を出した。口には笛をくわえている。けたたましく甲高い
「止まれ! そのまま! 仲間を置いて逃げるのか!」
「待ってくれ! 一体何が……」
塀から身を乗り出している男の叫び声と、外のルロエの声が笛音と混ざって聞こえた。
ルロエさん逃げて……
壁に頭を強打した篤樹は、薄れゆく意識の中、声にならない声で叫んでいた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
頭が痛い!
篤樹は激しい頭痛で意識を取り戻した。両手で頭を
苦痛にしかめた薄目で辺りを見渡す。
頭痛を
「黙れ!」
篤樹がドアを叩く音に対し、部屋の外の離れた所から
「すみません! ここはどこですか! 教えて下さい! エシャーは? 一緒にいた女の子は!」
外の人物が扉の前まで早足に歩いて来る気配……篤樹は身構える。
「うるさい! 静かにしろ! あの親子もここに
扉は開かれる事無く、扉板のすぐ近くで外の人物が怒鳴った。篤樹は仕方なく壁に背をつけ、床に座り込む。
クソッ! 一体なんでこんな目に……たぶん、壁を乗り越えるなんてのがダメだったんだろうなぁ……どこかに入口はあったはずだから、ちゃんと入口を
これからどうなってしまうのか、不安を覚える。だが、同時に「人間が居る世界」に来たのだという安心感も、篤樹の内に芽生えていた。
あの男たちは多分、この世界の警察みたいなものだろう。ここはさしづめ警察署の
篤樹は
―――・―――・―――・―――
翌日は「外の人物からの予告通り」に、朝から別室での取調べが始まった。
石造りの無機質な室内には、
部屋の中央の天井からは、
なんだか刑事モノのドラマで観る取調室みたいだなぁ……世界は変わっても人間の
だが、勝手の違う「容疑者」に対し、取り調べを担当する男の声は厳しさを増して行く。最初の質問である出身地確認の段階で何度も「
幸いだったのはこの「警察官」から暴力を
朝食抜きのままで始まった取調べの途中で、ようやく食事が出される。パン2個とスープだけだったが、これが思いがけず
最初は
「そんなに
思わぬ親近感を得られた食後の取調べはスムーズにいった。質問されたことに、篤樹は事実のままを答える。取調官も篤樹の語る「元の世界」と「ルエルフの村の出来事」に興味を示し、特に元の世界の様々な情報に驚き、
篤樹も、自分の知り得る情報でなんとか「元の世界」の事を説明しようとするが、いかんせん
一通りの取調べが終わり
「うん……そりゃ君が世話になった人たちだもんなぁ……気になる気持ちは分かるが……彼らはルエルフだからなぁ……。一応『共犯』だし、情報は教えられないんだ。あ、でも2人とも元気にはしてるはずだよ。
何とも歯切れの悪い返答に、篤樹はますます2人の様子が気になってしまう。でも、きっとまた会えるさ、そんなに悪い事をしたわけでもないんだし……と自分に言い聞かせるしかなかった。
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