第4話 攻撃
あれほど強く警告したのにも関わらず、次の日から謎の青年による、ある意味襲撃と呼んでも良いぐらいの激しいアプローチがミディを襲った。
それも何故だか分からないが、奴はミディが一人の時を狙って姿を現した。
ついさっきまで他の者と共にいても、それが一瞬でも人がいない間が出来ると、どこからともなくやってくるのだ。
そして必要以上に対人距離を詰め、歯の浮くようなセリフで迫って来る。
一人になる事も出来ず、腐り飽きる程聞いてきたクサい口説き文句を聞かされ、ミディにとっては、ただただ迷惑としか言いようがなかった。
それでも、一応この城で客人対応を受けている身として、これ以上周りに迷惑をかけないようにとミディらしからぬ配慮をしていた為、何とか自分の力で解決しようと頑張っていた。
しかしあのミディだ。そんな寛大な心も周囲への配慮も、長く持つわけもない。
「見つけた、我が愛しき王女よ」
今日も、城内の廊下の真ん中に、満面の笑みを浮かべながら両手を広げる例の青年が現れた。
ミディに受けて入れて欲しそうに、こちらを見ている。
相変わらず女性を虜にする美しい容貌だが、ミディにとっては迷惑の塊にしか見えない。白い手を固く握り、怒りに震えた声で青年に問う。
「あなたね! 一体何なの!? 何故いつもいつもいつもいつも!! 私が一人の時にやってくるのよ!! いい加減にしてくれないかしら!!」
「ふふっ、これも全て愛が成せる業だ。私の存在を君の心に刻むには、まだまだ足りないようだが」
「……気持ち悪い。あなたのその考え、私が修復不能なまでに切り刻んであげるわ」
ミディは鳥肌が押さえられず、両腕を擦りながら吐き捨てた。
だが彼女の氷より冷たい視線と発言は、全く目の前の青年にダメージを与えてない。寧ろ、
「お褒めに預かり光栄だ。……ふふっ、この私にそのような下賤な者を見る様な視線を向けるとは……、たまらないな」
そう言って喜んでいる。それもめっちゃ笑顔で。やばい。
“ここまでくると、変態と言うしかないわね……”
今まで大勢の求婚者たちの嗜好を曲げてきたが、これほどまでにしつこい奴は初めてだった。
どれだけ冷たい対応をしても、全く懲りない。というかむしろ超喜んで、悪化している。むしろ、ミディを怒らせたいが為に怒らせているようにも見える。
これ以上口や態度で拒絶しても、相手にご褒美でしかないだろう。
ミディは言葉による撃退を諦めた。自分はよくやった、こればかりは仕方ないと、自身に言い聞かせる。
そして一つ大きく呼吸をすると、目の前の青年に視線を向けた。
今まで目を合わせることすら拒んでいた王女が、自らの意志でこちらを見つめる様子に、奴の眉が意外そうに上がった。そして何を感じ取ったのか、唇の端を持ち上げ嬉しそうに言葉を発する。
「そうか……、ようやく私の気持ちに……」
「四大精霊の名の下に、破滅よ来たれ!!」
彼の言葉を最後まで待たず、ミディの魔法がさく裂した。大きな破壊音と衝撃が、悦に入っている青年に襲い掛かる。
魔法に巻き込まれた床や、周囲の装飾品が破壊され、破片が飛び散り辺りに散乱する。破壊による煙が廊下中に充満した。
ミディは突き出した指を、ため息と共に下した。
「……だから言ったでしょ? 次は魔法で吹き飛ばすと」
目の前から消えた青年に対し、ミディは長い髪をかき上げながら小さく呟いた。言葉の警告で諦めなかったストーカーに対し、憐れみすら感じる。
周囲が一変、騒がしくなった。ミディが発した魔法による破壊行動に、何事かと魔族たちが集まって来たのだ。
改めて自分が行った惨状を見て、ジェネラルに修復をお願いしないといけないな、と大して悪気もなく思うミディ。むしろ、このくらいで済んで良かったとすら思っている。
その時、何かがミディを後ろから抱きしめた。
「話の途中で魔法を放つとは、さすがに酷くはないか? 我が姫君」
耳元に息がかかりそうな距離から声が聞こえ、ミディの背中に悪寒が走った。一瞬にして肌が粟立ち、身体が緊張で固まる。
“嘘……! 全く気配を感じなかったのに、いつの間に私の背後を……!”
突然背後に現れた青年の気配。武術に長けたミディですら、その気配を抱き着かれるまで気づかなかったのだ。只者ではない。
咄嗟に腕を振りほどくと、ミディは自らの拳を背後に叩き付けた。しかし攻撃は、見えない壁に弾かれ、目標には当たらなかった。王女は小さく舌打ちすると、今度は身体を低くし、相手の足を狙って払いをかけた。
確かに当たった手ごたえはあったのだが、背後の青年にダメージを与える事はできず、結果的にミディの攻撃を空を切った。
彼女が次の攻撃の為に体制を整えた時、すでに青年の気配は消えていた。戦闘態勢を保ったまま、周囲に視線を向けるが、彼の姿はどこにもなかった。
廊下を覆う煙が薄くなり、魔族たちが姿を現した。廊下で立ちすくむミディを認め、何があったのかと口々に問いかける。
その声の中に、
「みっ、ミディ、一体何があったの!?」
驚愕の声と表情を浮かべ彼女に問いかける、この城の主の姿があった。
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