第118話 回想
部屋に戻ったメディアは、椅子に座り、長く息を吐いた。
しばらくそのまま、椅子に体を預けている。少し疲れた様子が伺えた。
「……目的か」
天井を見上げながら、メディアは呟いた。ライザーの言葉を思い出しているのだろう。
メディアは呟いた後、まるで下らないと言うかのように、小さく笑った。
青年は立ち上がると、自分の背にある窓に近寄った。
そこからは、城の中庭が良く見える。メディアが見下ろすと、エルザ城を守る兵士たちが、訓練に励んでいる様子が見られた。
中庭付近には、兵舎が併設されており、この庭で城を守る兵士たちが訓練をしている。
すでに、王も王女も捕らえられ、少しずつこの国が侵食されているのも知らずに。
守るべき主人をすでに失っているのにも関わらず、己を鍛え続ける兵士たちを、滑稽だと冷めた目で見つめていた。
そう言えば、とメディアは、訓練を続ける兵士たちの姿の中に、普通の国なら決して混じる事のない姿があったことを思い出す。
“よくあの中に、兵士たちを叩き伏せるミディローズの姿があったな”
城を抜け出す前まで、あの中庭では兵士に混ざって剣の腕を磨く、ミディの姿が見られた。ただし、ミディの相手を満足に出来る兵士など、いなかったようだが。
メディアも、大臣長に就任するまでは、よくミディの稽古に付き合わされていた。
あの頃、城内でミディの稽古相手が務まるのは、メディアぐらいだった。それでもミディにとっては、及第点を与えるレベルだっただろうが。
「俺がミディローズに初めて負けてから、もう5年も経つのか……」
脳裏に、一つの記憶が蘇る。
『ありがとう、メディア。あなたのおかげで、私はまた一つ、強くなれたわ』
全ての者を捉えて離す事のない、その美しい笑顔が、今自分の為だけに向けられている。
彼の中で、何かが心の中で溶け、脈打つのを感じた。それは決して不快ではない、どこか暖かい、遠い昔に自分が捨ててしまったと思っていた感情。
はっと、メディアの意識が現実に引き戻された。
目の前には、先ほどと変わらず訓練を続ける兵士たちの姿が見える。彼が過去に心を囚われていたのは、一瞬の事だったようだ。
まだ少し夢見心地な様子で、メディアは机に戻ると、引き出しを開けた。
奥の奥の方を探ると、それを手に取り、誰に伝えるわけでもなく呟く。
「そうだったな……、俺はこの為に、エルザ王国に留まったんだったな」
彼は気づいていなかったが口元には、小さく笑みが浮かんでいる。
今までミディやライザーに見せたものではない、優しくそしてどこか寂しそうな笑みだった。
しかし、笑みはすぐに消えた。
“過去を懐かしむ時間も、資格も、今の俺にはない”
そう思うと、メディアは無表情に戻り、手に持ったそれを再び引き出しの奥深くに押し込んだ。
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