第104話 拒否

「えっ? 今、何て……」


 ジェネラルは、アクノリッジの発言を、思わず聞き返した。

 何を言われたのかは分かっている。貰えると予想していた言葉と違い、青年の真意が分からないから出てきた言葉だった。


 アクノリッジにとっては、ジェネラルの反応は予想どおりだったのだろう。面倒くさそうに整えられた金髪を掻くと、端的に理由を述べる。


「魔界に住んでいるお前が、関わる必要はない。これは、この世界の人間の問題だ」


「そんな事ないです!!」


 ジェネラルの両手が、立ち上がった勢いで、テーブルに叩き付けられた。

 部屋に響く大きな音が、少年の気持ちを物語っている。


 こんな状況で魔界への帰還を口にするアクノリッジに、強い口調で言葉をぶつけた。


「今更、どうしてそんな事が言えるんですか! 魔界とかプロトコルとか、そんなの関係ないじゃないですか!!」


「お前、魔王なんだろ? お前も王なら分かるだろ! 他国の事に、そうそう口を突っ込んでいいわけがないって!」


 王としての立場を諭され、ジェネラルは一瞬言葉を飲み込んだ。

 しかし、ミディの光ない瞳を思い出すと、キッと金髪の青年を見据える。


「確かに今の僕は王として失格かもしれない……、でも、このまま帰れません!」


 一向に引かないジェネラルとアクノリッジ。このまま言い合いを続けても、平行線を辿るだけだろう。


 それを察したシンクは、白熱する二人を落ち着かせようと、兄と魔王の間に割り込んだ。


「二人とも、落ち着けよ。ジェネラル、お前の情報はとても感謝してる。けど、これ以上ミディ姉に付き合う必要はないだろ? ここは俺達に任せとけ。お前が出来る事は、もうないんだ」


 シンクもアクノリッジの味方だった。

 その事実が、ジェネラルはショックだった。しかし、たった一人になっても、この二人の要求を呑むわけにはいかなった。


 唇を噛み、少し俯きながら、言葉を絞り出す。


「確かに、プロトコルについて良く知らない僕は役に立たないかもしれない…。でも!!」


 このまま話を続けても、埒が明かない。

 割り込んだシンクを押しのけ、アクノリッジが再び口を開いた。

 強い口調で、ジェネラルに詰め寄る。


「役に立たねえって分かってんなら、大人しく魔界に帰れ、ジェネラル!!」


「嫌です!! 帰りません!!」


「お前に出来る事はねえって言ってんだろ!? それが分かってても帰れねえ理由って、一体何だよ!!」


 自分を問い詰めるアクノリッジの怒鳴り声。

 しかし、ジェネラルは怯む事はなかった。


 アクノリッジに負けじと、声を張り上げる。


「だって僕は!!」




 ――――ジェネ。


 ミディが振り返る。

 彼女が笑顔と共に、ジェネラルの名を呼ぶ。

 彼の左手に、暖かい手のぬくもりが蘇る。


 ミディを見ると、鼓動が早くなり顔が赤くなった。

 ミディの元気がないと、心配だった。

 ミディが、自分の事をどう思っているのかを考えると、胸が苦しくなった。


 彼女と共に過ごした時に感じた、様々な想い。

 その想いが意味するものを今、唇がつむぎ出す。


 チャンクの事件でミディを責めた時、一瞬の空白が奪ってしまった、その言葉を。



「だって僕は、ミディが好きだから!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る