第94話 決意

 エルザ城でもてなしを受けたジェネラルは、その夜、用意された部屋で寛いでいた。

 テーブルに用意された香茶を飲みながら、昼間フィルが言った言葉を思い出す。


 心細い時、誰かについてもらうとほっとする気持ちは、ジェネラルも分かる。

 ミディもまさに、その状況なのだろう。


“なんだかんだ言って、メディアさんと仲良くやってるのかな……”


 そう考えるたびに、鳩尾にずしっと重いものが増えていく。

 ミディと別れてから、鳩尾が重くなったり、気持ちが乱れたりする事が多くなった気がする。


 ジェネラルは、瞳を閉じ、深くため息をついた。


“ミディとああいう別れ方をしなければ、こんな気持ちになる事もなかったのに……”


 ぼんやり思うと、ジェネラルはベランダに出た。


 冷たい風が吹きぬけ、少年の体温を奪っていく。

 何も上着を着ていない為、身震いをして暖めるように二の腕をさすった。

 少しずつ冬に近づいている事もあり、夜は冷える。


 目の前に広がる町明かりを見ながら、自身に問いかける。


“このまま……、明日帰るべきかな……”


 結婚後、ミディに会う機会を設けてくれるのだ。

 大変な状況にいるミディに、負担を掛けるような事はしたくない。


 それにミディに会ったとして、自分がヌルでの別れ方について不満を述べても、父親の病気を理由に頭を下げられれば、それで終わりだろう。


 まあ、あの女が素直に謝るとは思わないが……。


 ジェネラルの中で、帰るか帰らないかの考えが戦う。何度も揺らぎ、何度も決意したはずなのに、いざとなると迷ってしまう。


 色々な考えと予想が回り、ぐちゃぐちゃになった時、


“……違う。違うんだ……”


 心の中で、何かがジェネラルの考えを全て否定した。


 今まで考えていたものが跡形もなく消え、一つのことだけが残った。

 そこに残ったものを掬い上げるように、そして確かめるように呟いた。


「……僕は、ミディに伝えたい事がある。だから今、もう一度会いたいだけなんだ」


 この呟きに、ジェネラルはセンシティでミディに愛を伝えたバックの事を思い出した。


 ――—受け入れてもらえなくてもいい。ただ、この気持ちを伝えたいだけ。


 二度と会う事はない、だから後悔したくない、と決して叶う事のない想いを打ち上げたバック。

 あの時、綺麗だと感じた青年の気持ちが、今なら苦しいほど良く分かる。


 決して綺麗ではなかった。

 彼の気持ちには、葛藤、そしてそれすらも貫く強い意志が込められていたのだと、ジェネラルは気づく。


 そしてそれこそが、今の自分に必要なものなのだと。


 べランダから上を見上げ、部屋からもれる明かりを見つめた。

 あの部屋のどこかに、ミディがいるのかもしれない。

 ベランダの手すりを、ぎゅっと握る。

 

“ミディに……会いに行こう!”

 

 もう迷いはなかった。

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