第16話 襲撃2
少し収まったとは言え、まだまだ強い流れと化している人々を必死で押しのけ、ジェネラルはオルタの屋敷へとやってきた。
彼が初めに目にした物は、大きくへしゃげた鉄製の門。さらに屋敷の周りを取り囲んでいる塀の一部が、粉々に砕け散らばっている。
これを一目見ただけで、門を破壊した『何か』の破壊力がどれだけ凄まじかったのかが分かるだろう。
さらに視線を前に向けると、多くの警備の男たちが目に映った。
そして彼らに睨まれているのにも関わらず、悠然と男たちと対峙する厳つい鎧――ミディ。
ピリピリとしたこの場の雰囲気とは正反対に、ミディが纏う雰囲気には余裕すら感じられる。
「すみません、通して下さい!」
少年は必死に、遠巻きにこの状況を見守っている野次馬の壁を押しのけていく。
野次馬たちの少年を制止する声に、ミディも男たちも気づいたのだろう。彼らの視線が、ジェネラルの方に向けられた。
ジェネラルは何とか野次馬の壁を通り抜けると、乱れた服を整える間も取らず、必死の表情でミディに駆け寄った。
……かのように見えた。
「じぇっ、ジェネ!? あなたどこに行くの!?」
驚いた声を上げるミディに目もくれず、王女を通り過ぎ、男たちの前に駆け寄るジェネラル。そして、悲痛な面持ちで口を開く。
「皆さん、大丈夫ですか? 怪我とかしてませんか!?」
唖然を通り越し、固まるミディ。敵は敵で、いきなり安否を気遣われ、
「おっ、おう、大丈夫だ」
「まあ、俺は屋敷の中にいたしな」
「ちょっと切ったが、こんなのかすり傷だからすぐに治るさ」
と、今にも泣きそうな少年に戸惑いながらも、丁寧に答えていたりする。ちょっといい人たちだ。
破壊は凄かったが大した怪我人もなかったと知り、ジェネラルはほっと胸をなでおろした。
のも束の間。ジェネラルの首の後ろを何かが掴み、凄い力で後ろへ引きずられた。
そして、
「じぇ――ねえ―――——————っ!!」
「痛い―――——————!!」
怒りに燃えるミディに容赦なく殴られ、ジェネラルが悲鳴を上げた。
王女の手には、手をガードする為に鉄製のグローブがつけてある。かなり痛いに違いない。
頭を抑えるジェネラルの瞳には、例のごとく涙が溜まっている。
「なっ、何するんだよ、ミディ!」
「あなたね!! 何故、敵の心配なんかしてるのよっ!! 普通は、私の心配をするものでしょう!?」
「ええー…、ミディの心配なんて、するだけ損じゃないか」
「……一度本気で絞める必要があるようね、ジェネ」
「いっ、いや、嘘だよ! ミディの事を心配して来たんだよ……。本当デスヨ……」
兜の隙間から見える瞳から身の危険を感じ、ジェネラルはガクガク震えながら無理やり弁解の言葉を口にした。
明らかに言わされた感のある弁解だが、よしとしたのだろう。ミディは、放っておいた敵たちに視線を戻した。
二人の展開についていけず見ているだけの敵だが、ミディが戦闘態勢に戻ったのを見て、自分達もやるべき事に戻る。
場の雰囲気は、再び緊張したものに変わった。
無言で男たちを見回していたミディだったが、不意に彼女の指先が、黒尽くめの一人に向けられた。
「確かあなたとあなただったわね。果物屋で暴れていたのは」
「あっ、本当だ! お婆さんに乱暴した人たちだ!」
今まで殴られていた頭を抱えていたジェネラルも、痛みを忘れ声を上げた。少年の表情には、強い怒りが見える。
指差され始めのうちは驚きを見せていた男たちだったが、急に気味の悪い笑いを張り付かせ、ミディとジェネラルの前に出てきた。
ミディが無言で権利証の欠片を突き出すと、さらに気味悪さ増量の笑みを浮かべて口を開いた。
「おんやぁ~? そいつは、あの婆の権利証じゃねえの?」
「今更そんなもん持ってきて、何になるわけ? 魔法か何かを使って直す事ができんのかよ?」
「僕が直して見せます!!」
男たちの言葉をさえぎるように、ジェネラルが叫んだ。
予想外の発言に、ここにいる全ての者たちが、目を見開いて少年に注目した。もちろん、ミディもだ。
ジェネラルはミディに視線を移し、真剣な表情で手を差し出した。
「ミディ、早くその欠片を僕に渡して! すぐに魔法で権利証を元に戻して見せるから! そうすれば……」
すぐに解決する、と言いたかった。
しかし、ミディから発されたのは、
「悪いわね、ジェネ。これはまだ渡せないわ」
まさかの拒否だった。
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