第4話 学園最強

    

「それじゃあ、寸止め勝負でいいかしら?」

「妥当なところだな。それじゃあやろうぜ」

 模擬戦と言え、互いに剣を交わらせれば怪我人が出てしまう。特別医療が発達しているわけでもない以上、致命傷は避ける必要がある。関東の方には相当な致命傷でも治してしまう装置があるそうだが、この東北支部にそのような代物はない。

 わずかに距離を保ち、対面する二人。

 先ほどまでのトレーニングルームとは違い、模擬戦用の特別ルームだ。

 広めの円形スペース。

 二階にはガラス張りになった観客席が覆うように設置されている。


 観客席には多数のギャラリーが押し寄せている。

 トレーニングルームにて鍛錬を積んでいた者たちは当然全員押し寄せ、他のルームで特訓していた連中もどこで噂を聞きつけたのか、それはもう観客席が埋まっていた。

 始まる前から観客たちの沸き立ちようがすごい。

「あの、どうしてこんなに盛り上がっているんですか?」

 朱里が隣に座っていた同じAランク小隊の年上のメンバーに問いかける。

「えっ……? あ、そっか。朱里は知らなくてもおかしくないか。うちの隊長が学園で対人最強なのは知っているわよね?」

「はい。それは勿論」

 九条天音はそのAランクのギフトだけでなく、卓越した剣捌きと身体能力の高さでも学園内で群を抜いている。

「それで、あの世界唯一の男の子のギフティア、古河統也は今シーズンたった一人で戦っているにもかかわらず、スティーラーの撃破数で私たちAランク小隊全体の撃破数を上回っているのよ」

「えっ? 私たち、相当な数を殲滅していますよね」

「だから驚くのよ。それに彼は未だ一度も模擬戦をおこなったことがないの」

「それじゃあ、古河先輩の真の実力を知っている人は誰もいないという事ですか?」

「ええ。それなら、こうして人がこんなに集まるのも当然だと思わない? この模擬戦はただの試合じゃないのよ。真の学園ナンバーワンを決める頂上決戦ってこと」

「そうだったんですね」

「まぁ、私は隊長が負けるなんて考えられないんだけどね」

「はい。いくら古河先輩でも隊長を倒すのは……」

 天音の実力を目の当たりにしている二人からすれば、統也は無謀な挑戦を仕掛けているようにしか見えない。

 それなのに、統也ならそんな予想をひっくり返してしまうのではないか、と朱里の胸を騒がせる。


 今にも試合開始しようとしていた時、ふと統也が天音に質問する。

「そういえばお前は俺の試合を見たことなかったよな」

「そうね。だからどうしたの?」

「しかし、俺はお前の模擬戦を何度か目にしている。少なかれ、俺はお前の手の内を知っている」

「つまり、何が言いたいのかしら?」

「ハンデをやるよ」

「馬鹿にしてるのかしら?」

 統也の発言に天音がぴくりと眉を動かす。

 だけれど、臆病風に吹かれる事なく統也は話を進める。

「馬鹿になんかしていないさ。後々言い訳されちゃたまったもんじゃないからな。それに、ハンデってのは、ゲームバランスを保つためにつけるためさ。スタートから差がついちまってるんじゃ、ちゃんとしたバトルにならないだろ」

「随分と真面目なのね。それで、私にどんなハンデをくれるのかしら?」

「一分間。最初の一分間俺はお前への攻撃を禁止する」

「それは一分間私からの攻撃から逃げ続ける、ということでいいのかしら?」

「他にどう捉えられるんだ?」

「ごめんなさい。あまりにも勝つ気がないのかと思って、思わず聞き返してしまったわ。よりにもよってそんな条件を出すなんて」

「その様子だと、異論はないようだしこのまま始めるとするか」

「ええ、その舐めたことを言う口、黙らせてあげるわ」

「望むところだ」

 統也は右手に黒の革手袋をはめた。

 二人はスタート位置につき、始まったカウントダウンを待つ。

 5

 統也が首の骨を鳴らす。

 4

 天音が腰のバックルに手をかざし、鋭い銀色のショートブレード、《フェザールーツ》を呼び出す。

 3

 それにつられ、統也もバックルに手を伸ばす。

 2

 だが、何を思い立ったのか腰から手を遠のかせた。

 1

 二人が一斉に足腰を落とし、始まりの鐘に備える。


 0


 開幕速攻、天音が剣を手に統也へと走り出す。

 それと同時にモニターに一分間のカウントダウンが表示された。統也が自ら縛った拘束時間だ。

 あっという間に距離を詰められた統也は、半歩ひこうとした足を逆に前へと進ませる。

 剣を横に構えて突撃してくる天音の表情が一瞬固くなる。

「やるわね……」

 天音が統也の行動に称賛を送る。

「別に、これぐらい誰にでもできるだろ」

 と、誇る事なく天音が振り切った剣を飛び込み前転で躱す。

 素早い受け身を取り、切り返しに備えるが天音は統也が対策を取る事を知っていた上で敢えてもう一歩踏み込む事を留めていた。

 統也はあの一瞬で天音との間合いを完全に読み切ったのだ。

 天音が振った剣のスピードが頂点に達する地点は、本来統也が位置する点、つまり半歩ひいた地点だった。しかし、統也が逆に前へ出たため、腕を振り遅れたのだ。結果的に統也は容易に攻撃を躱す事ができた。

「場数だけは踏んでいるよう……ねっ!」

 不意をつくようにして今一度動き出す。

 目にも止まらぬ上段振り下ろし。

 一瞬反応が遅れた統也は迷わず真横にステップを踏むが切っ先が頬を掠る。真紅の血潮が一滴頬を伝わる。

「……避けられると思ったが、俺が持ってるデータより上みたいだな」

「それ、何年前のデータよ!」

 果敢に攻め込む天音。

 縦横無尽に攻め立てる刃は殺意を隠し切れていない。

 勝利方法は決定的な一撃を決める、もしくはそれに見合う寸止めの二択。基本的に前者を選べば、相手の命に危険が及ぶため後者を選ぶのだが、天音の猛攻が後者へと辿り着く事はない。

「何年前って……ほんの数ヶ月だろ……っと」

 無駄のないステップを刻み、寸分の差で天音の刃を躱し続ける。

「たっく、ちょこまかとむかつくのよ。さっさと当たりなさい!」

「なに言ってんだ。当たったら死ぬぞ」

「死ねって言ってるの!」

「……おい、今さりげなく殺害予告されたぞ。大丈夫か俺」

 天音の遠慮のない言葉を冷静に受け止めながらも、一向に止む事のない連続攻撃をステップだけで躱し続けている。

 本来、攻撃を仕掛けている天音が攻撃するペースを変えて突破口を開くはずなのだが、逆に統也がステップに緩急をつけることで天音の剣を引きつけている。

 試合開始前になぜ身を守るために武器を召喚しなかったか、それはできるだけ身体を軽くして完全に避け切る算段を立てていたからだった。

 だからこそ、統也には次に天音が振り切る天音の斬撃の軌道と頂点、スピードがわかる。

 そして坩堝にはめてしまえば、それは無限にループする。

「そろそろか……」

 統也がぼやいたタイミングで、モニターのカウントダウンが終わる。ここからは統也の攻撃が許される。

「こい、《トランスクルーエル》」

 バックルに手を触れて機械仕掛けの剣を眼前に召喚し、迫りくる天音の攻撃に合わせるようにグリップを握り、剣同士を激突させた。

 激しい火花が散り、眼前で眩く爆発する。

 ようやく統也が武器を手に取った事もあり、天音は連続攻撃の手を休めて身体をひかせた。

「よく捌き切ったわね」

「ギフトを使っていない奴に言われたくないぜ」

 統也の言葉の通り、天音は自身のギフトの片鱗すら見せていない。

 それに対し、統也は躱し続ける途中に緩急をつけるタイミングで身体能力向上のギフトちょくちょく挟ませていた。天音が同じように身体能力を向上させていれば、あそこまで容易に躱す事はできなかったかもしれない。

「あんたからのハンデを受けたままにするのは嫌だっただけよ」

「なんつー奴だ」

「それに、私がギフトを使っていても躱し切れたでしょう?」

「流石にそれは無理だろ。身体能力向上だけならまだしも、Aランク様のギフトを生身で受けていれば、今頃肉片も残ってないぜ」

「冗談抜かせるだけの余裕は持っているようね」

「何言ってんだ。冗談抜きでキツキツだよ。学園ナンバーワンを前にして平生を保てるわけねえだろ」

「そうね。あんたがそういうなら、そうなんじゃないかしら?」

 統也に返答しながら、天音は気持ちを落ち着かせる。

 この密閉空間の中、統也の前髪を揺らす微風が吹いた。

「……ここからが本番ってわけかよ」

 天音の周りで吹き荒れる小竜巻を目にし、苦笑いを浮かべる。

「ちゃんと避けなさい。命の保証はないわよっ!」

 言葉尻をとらえるよりも先に天音が疾風の如く動き出す。

 人間が出せる速度を完全に超越したスピード。

「マジかよ……」

 神経を聴覚に全力で回してようやくわずかに捉える事ができた天音は統也の真横をまっすぐに通り過ぎていた。

 その速度が生み出す風圧に統也は身体を壁際まで吹き飛ばされる。

 足を踏ん張らせようとその努力を無駄にするほどの風力だ。靴底を一度に何年分もすり減らす事で統也は壁への激突を回避した。

〝スピードで対抗するのは無理だな〟

 何度か天音の試合は見てきたが、実際に目の前で体験してみなければわからないことがある。天音のスピードはまさにそれだった。端から見ているだけではその凄まじさを知り得る手段などなかった。

「あら、いつの間にそんなところに移動したの? 速すぎて気づかなかったわ」

 ただ前へ走り抜けただけ。

 天音が位置する場所は天音と統也が同直線上に立っていた地点の最終地点。本当に天音はまっすぐに移動しただけなのだ。

 本来なら、人を吹き飛ばすほどの風力を起こす速度で走り抜ければソニックブームで本人も一緒にお陀仏なのだが、身体能力向上に加えて、自身のギフト能力の恩恵により授かっている風の羽衣、バリアにて無傷でいられるのだ。

「てめぇ……」

 天音の煽りを受けて、統也の心が奮い立つ。

「今とどめを刺さなかった事を後悔させてやる」

 機械仕掛けの剣をまっすぐに構える。

〝トランス。タイプバスター〟

 統也は脳で剣へと指示を送る。

 すると、機械仕掛けの剣は各所自動で動き出し、内蔵されていたブレードを外へと剥き出しにし、各部と直結する事で剣は大剣へと変形した。

 これが統也のギフト、形状変化である。

 統也が持つ専用武器トランスクルーエルは統也のギフトにあわせて作られているため、予め用意されている信号を送り込む事で簡易的に変形するようにできている。

 そして、この大剣がその信号の一つ『バスター』を受けて成り立つものだ。

 先の二倍以上の面積を持つタイプバスター。

「ようやく見せたわね。あんたのギフト」

「タイプドライブじゃ太刀打ちできないからな」

 タイプドライブとはいわゆる基本形態である片手用両刃直剣スタイルのことである。統也の要望により本来の片手剣よりも一回り大きく設計されているが。

「神速で動く私に対して重量系のタイプとはどういうことかしら? 勝負捨てたの?」

「馬鹿言え。これでいいんだよ」

 壁を背にして背水の陣の構えを取る。

「それなら、これで終わりにして上げるわ!」

 再度動き始めた天音。

 一瞬で統也の視界から消えてしまう。そして次の瞬間には統也を墜とすため、どこからか神速の攻撃を繰り出してくるはずだ。

〝見えないからこそ、防御範囲を広げる必要がある〟

 統也がスピードで圧倒しようとしてくる天音に対して敢えてパワータイプであるバスターを選択したか、それは大剣の刀身の面積を利用して盾を作るためだった。

 これならある程度見えていなくても、天音が向かってくる方向に大剣を横にして揃えていれば致命傷を避ける事ができる。

 だが、天音が突撃してくる方向を見抜くのは簡単な事ではない。

 目を凝らし、微細な動きも見逃すつもりはない状態を作るも、その姿を捉える事すらできない。明らかに最初に見せたスピードよりも速くなっている。

 今この瞬間もこのフィールドを高速で動き続けて統也のウィークポイントを狙っているはずだ。

「……隙だらけよ」

 統也へとその言葉が届くよりも先に大剣の盾が大きく弾かれた。

「なっ……」

 たまたま瞬間的に大剣の位置を動かしていて天音の攻撃から身を守る事に成功したようだったが、運がよくなければ今弾かれていたのは統也の身体だ。

 盾が弾かれた直後、天音の声が聞こえたが、距離感、声のボリュームから推測する限り、身元で囁かれたものではなく、どこからか言葉を発した後に動き出している。つまり、天音の速度は音速を超えていることになる。

「音速の上を行く奴にどうやって戦えばいいんだよ……」

 学園最強と呼ばれるだけのことはある。それどころか、国内最強の座だって狙える器だ。天音の音速を超えるギフトにはそれだけの力がある。

 普通なら一度動きを見れば、目が慣れて追いつけるものだが、天音の速さにはそれが通用しない。おそらく、一生かけても為し得ない偉業だろう。

「だけど、勝てないわけじゃない」

 真っ向から戦うだけの術は統也にない。だが、ある意味で戦いを放棄する事で勝ちを見いだす可能性がある。

 大剣を盾として構えていた統也は両手でグリップを握り、真正面の敵に刃を向けるようにして構えた。

〝研ぎ澄ませ〟

 グリップを強く握る。

〝思い描け〟

 野球バットのように大剣を構える。

〝捉えるは天音が動き出すよりも前。それも、ずっと前だ〟

 統也が狙わなければならないタイミングは天音が自身の身体に動けと脳にシグナルを送る瞬間。

 天音は音速の世界に生きて、過酷な鍛錬の末に最低限の処理能力を得ているはずだ。それがなければ音速で動いた瞬間に障害に激突するはずだ。しかし、現にそれが起こっていないという事は障害にぶつかるよりも先に新たな指示を脳に送っているはずだ。一体一秒間に何回、何十回、何百回と思考を働かせているのだろうか。

 それ故に、そろそろ天音の脳は限界に近づいているはずだ。

 だからこそ、絶対に次で決めにくる。

 これまで統也が見てきた試合では天音がギフトを解放した瞬間に試合は終わっていた。それが天音の弱点が露呈していない理由だ。弱点を見せるよりも先に全てが片付いてしまう。

 今回、天音はわざと一度攻撃を外して統也を挑発した。そしてもう一度は統也の運の良さに生きながらえられてしまった。

 次の三回目、互いに譲る事のできないターニングポイント。

「悪いな。勝たせてもらうぜ」

 統也がそう口にし、全身全霊で大剣を振り抜いた時、壁にその身を思い切り打ち付けた天音が出現した。

 と、同時に統也の身体は強烈な勢いで吹き飛ばされ、背中から壁に叩き付けられる。

「ガッ……!」

 衝突後、正面から地面に顔を打ち付ける。

「どうして……?」

 天音が起こった現象に痛みと戦いながら疑問を覚える。

「簡単な事だろ……」

 ボロボロになりながらも、ゆっくりと身体を起き上がらせる。膝は震え、今にも倒れてしまいそうな華奢な面持ちだ。

「風をずらしたんだよ」

「……そういうことね」

 天音は納得し、統也同様身体をふらつかせながら立ち上がる。

 あの一瞬、統也は大剣をスイングした事で風向きをわずかにずらした。それにより軌道をずらされた天音は壁に衝突してしまったのだ。

 だが、天音は間近まで迫っていた事もあり、ソニックブームは統也の元まで届き、巻き添えを喰らってしまった事になる。

「お前も高速で動くのはもう無理だろ」

「あんたも、立ってるのがやっとじゃない」

「当たり前だ。お前とは違って生身で受けてるんだぞ」

 天音は壁に激突したと言え、身に纏っている風の羽衣がダメージを大幅に軽減している。そもそも、それだけのことができなければ天音が壁を利用して屈折する際にぺしゃんことなっていておかしくない。そう、天音の身を覆う風は鉄壁の防御力でもあるのだ。

 その鉄壁は未だ顕在している。

 圧倒的不利な状況を打開したが、統也の不利は変わらない。

〝トランス。タイプドライブ〟

 統也の手の上で機械仕掛けのトランスクルーエルが変形していく。

「そろそろ終わりにしようぜ」

「ええ、望むところよ」

 互いにゆっくりと近づいていく。じわじわと歩む速度が上がっていく。二人してその身に残る痛みを捩じ伏せるように。

 限界寸前の身体で剣戟を続ける二人。

 熾烈なせめぎ合いからは二人が重傷であるなどと思うものはどこにもいなかった。

「古河流剣術初の型……」

 唐突に統也の動きが緩く滑らかになる。

 天音の斬撃を寸分の差で躱し、相手の身体に巻き付くようにして後方へと回り込む。

「ーーそよ風!」

 回り込んだ先での攻撃。

 これが古河流剣術初の型、そよ風。独特な動きでぬらりくらりと攻撃を躱し、背後から仕掛ける技。その技の名は、統也が今、そよ風のように動いていることにある。

「そう簡単にやらせないわ!」

 背後から決めにかかった統也の斬撃に喰らいつくように腰を曲げて防御する。

 力があまり残されていない今、力づくにより防御を突破する事はできない。

「くそ……」

 ここで攻め切るプランを切り捨てて天音から距離を取る。

「ここまでよく頑張ったわね。あなたは強い。それは私が保証するわ」

「いらねえよ、そんな保証」

 統也はふらつく身体ながらも今一度剣を握り直す。

「それに、まだ負けたわけじゃねえぜ」

「いえ、終わりよ。そのボロボロの身体で何ができるの!」

 天音はギフトで上昇させたスピードで駆け出す。

 最高スピードを保つだけの余力はなくとも、超人を越える程度のスピードを出す事は今の天音でも動作ない事だ。

「遅えよ。遅え……」

〝古河流剣術……〟

 先と同じ構えを取り、特攻を仕掛けてきた天音に向けて歩み出す。

「同じ技が通用すると思って!」

 ぬらりくらりと天音の横をすりぬけるのと同時に、天音の前後が入れ替わり統也の本命に備える。

「これはそよ風じゃねえ」

 天音の横をすりぬけた統也は天音に背中を向けたままだった。

「え……っ?」

 統也がその手に握られた剣を振り切る。

「古河流剣術次の型……追い風」

 宣言後、天音は背中に強い衝撃を受け、正面から無抵抗に倒れた。

「安心しろ。峰打ちだ」

 追い風。

 統也は天音の横をすりぬける際、すでに斬撃を撃ち込んでいた。

 普通に使用すれば、なんら変哲のない切り込みだが、前もってそよ風を使用していれば注意を統也の動きに逸らす事ができる。

 天音の気絶を確認すると、統也は膝を崩す。

「はぁ……はぁ……大した奴だよ。お前は」

 剣を支えにしてしゃがみ込んでいるので精一杯だ。少しでも気を抜けば意識が飛んでしまいかねない。

 天音は完全に沈黙してしまっていた。

 試合に決着がつき、朱里がフィールドに下りてきていた。

「先輩……」

 統也に視線を合わせるべく、朱里は統也の側でしゃがむ。

「悪いな。俺が負けていれば、お前が悩む必要はなかったんだが、勝っちまった。それでも、無理にお前を連れていきはしない。お前のことはお前が決めろ」

「一ついいですか?」

「なんだ?」

「どうして私なんですか?」

「俺といれば、もっと多くのギフティアを救えるからだ。お前、言ってただろ。困っているギフティアを助けてやりたいって」

「……はい」

「あとはその……一目惚れって奴だ」

〝お前のその才能に……〟

「えっ? 先輩、それって……!」

 統也に思ってもみなかった言葉を言われ、朱里の頬がぼっと燃えるように赤くなっていく。

 朱里は統也の真意に気づいていない。完全な解釈ミスだ。

「悪い……すごく眠た……い」

 集中を切らした統也は、ダメージと疲労に飲まれてそのまま視界を暗転させた。

「ちょっ、先輩! 大丈夫ですか!」

 統也の視界には途轍もなく心配そうな顔をしている朱里が映っていたが、その猛烈なまでの眠気の前にはどうでもいいことだった。

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