第2話 スティーラー襲撃

 あれから二日。進展は何もなかった。

 昼間はトレーニングルームなどでの各小隊の活動を観察。各小隊の皆さんは統也のことを気にかけながらもいつもどおりにメニューを消化していってくれたため、統也としても助かるところがあった。

 だが、統也のお眼鏡にかかるものはいない。

 十あるうちの六つを二日間で視察し終えている。不満があるわけではないのだが、どれも平均程度であり、統也の求めるその先がいないのだ。

 適当な順番で視察を繰り返しているため、Bランクを見たりCを見たりだのと規則性はない。

 帰ってからはまた資料と睨めっこ。学校でも珍しく起きてリストを眺めていた。

 努力に見合わず結果は出ていないのだが。

 今日もまた掃除当番であり、ゴミ捨てを任された統也はゴミ箱を抱えて階段を下りていた。

 教室で出たゴミはゴミステーションという校舎の離れにある場所まで運ぶ必要がある。男である統也は力仕事担当としてこの仕事を任されることが多い。統也としても教室でコミュニケーションを取るよりも、うんと頷きゴミ箱を運ぶ方が楽なために異論反論はない。

 ゴミ箱を運んでいる最中も小隊のことを考えているため、動きが鈍い。階段を下りる速度は通常の二分の一。後で教室に戻ったとき「遅い」と口を揃えて言われることも忘れ、考えごとに没頭している。

 統也の中で無限のパターンが組み立てられ、そして瓦解する。それもこれもすべては彼女たちの性格を把握していないからだ。ちろっと眺めたぐらいで性格を知れるほど観察力があるわけでもないと自分で理解しているぐらいだ。

 考え過ぎたせいか統也の脳内は疲弊し、眠りを要求するかのようにあくびをかました。

 もともと女子校であるせいか、大きなあくびを堂々とするような人間はいない。一人、統也を除いてだ。

 周囲を気にするタイプではない統也はかましたあくびを見られていることにすら気づいていない。

 鈍い動きながらもゴミステーションに辿り着き、わんさかと詰まったゴミを放り込んでいく。可燃ゴミと不燃ゴミは当然ゴミ箱の時点で分けられているので特に気をかける必要はない。時折可燃ゴミに不燃ゴミが混じっているのだが、統也からすればそんな誤差などなかったことに過ぎない。

 持ってきた二つのゴミ箱を重ね、持ち運びやすいようセッティングした後、今度は教室を目指して歩き出す。

 この作業で掃除が終わるということは、本日の学校での業務が終わるということになり、隊員を集めなければならない締め切りに近づき、憂鬱が誘発される。

〝この際、とりあえず適当に一人見繕って誤魔化すか? いや、駄目だな。その考えはない。あくまで作るのは最強のチームだ〟

 統也は焦りを覚えているが、小隊を完成させることに手抜きは許されないことを自覚していた。目先の欲に取りつかれるわけにはいかない。統也としても、適当に選んだメンバーでやっていける自信がなかった。

 通過点である階段を前も見ずにぬらりくらりと上っていく。

「ちょ、ちょっと前見てください!」

 突然の怒号が乱れ飛ぶ。

 湿った空気が吹き飛ばされ、ボケっとしていた統也は何かが起こったことに気づいた。そして発せられた声が自分にかけられていたことにも。

 顔を上げると、統也の目の前にはゴミ箱を抱えた一人の少女がいた。

 加えてその時点でバランスを崩していた。

「……って、マジか」

 気づいたときには既に時遅しとはこのことか。彼女が起点となった雪崩に巻き込まれ、統也は階段から転落する。

 幸いほとんど上り詰めていなかっただけに、落ちた地点から地面までの距離は短かった。ガツンと後頭部を打ち視界がチカチカと眩む。

 どこか強く強打した感覚を得たが、すぐにはそれがどこなのかわからない。頭部に走った衝撃が強すぎたせいで上手く状況把握ができていない。

 身体を起こそうとしようにも重みを感じ、ワンクッション置いてから驚く。

「ん? 感覚が麻痺したのか?」

 一体どうなったのかと瞑っていた目を開いた。

 目を開けると、統也の視線の先には統也に四つん這いになった一人の少女がいた。彼女もまた落下したのだろう。顔を俯かせて統也の胸に伏せていた。

「おい、大丈夫か?」

 退いてもらえないと動けない。そう思った統也はまず彼女を起こすことを始めた。

「え……ああ、私、階段から落ちて……ってええ!」

 上体を起こした少女はすぐ近くにあった統也の顔に気づき、勢いよく仰け反る。

 少女の名前は紅朱里。

 セミロングの茶髪の少女は。碧眼の瞳に白めの肌。十人に八人は可愛いというだろう容姿だった。

「元気そうだな。ならい……」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 次の瞬間に飛んできたのは力が籠った全身全霊の平手打ちだった。

 何の警戒もしていなかった統也は表情を変える間もなく思い切り平手を打ちつけられる。

 ぱぁんっ! と軽快に響いた音は空虚な造りをしている階段を突き抜けて昇っていった。

「いっつ……何すんだよ」

 頬を赤く染めた統也は不満げな眼つきで少女を見据える。

 突然巻き添えを喰らい、痛い目に遭ったかと思えば追い打ちをかけるように平手打ちが飛んでくる。日頃雅子の扱きを受けているため、身体的には慣れたものだが、精神的にはいつまで経っても痛いものを拒む。

「ご……ごめんなさい」

 統也の強張った威圧的な視線に気圧されたか、朱里は自分の行為を反省するように俯き謝った。朱里には統也の顔が鬼の形相にでも見えたのだろう。

「本当にすいません……」

「いや、そこまで怒ってないから。落ち込み過ぎっつうか……」

 朱里の態度に自分もまたやりすぎたな、と彼女の機嫌を取り繕いに走る統也。あたふたしているのはその為だ。

「ごめんなさい」

 今の統也にはその言葉がどんな激痛よりも痛く感じた。純粋に人の心を傷つけてしまったと反省させられる。

「ん? そのリボン、お前一年生か」

 朱里の制服に付けられたリボンは赤色。一年生を指す色だった。二年生は青色。三年生は緑色だ。毎年学年が動くにつれてリボンの色も動き三年間同色のリボンをつける。よくあるシステムだ。

「え……はい」

「そうか。まぁ、とりあえず退いてくれないか?」

 自分で話題を振っておきながら話の腰を折っていく統也。朱里は唖然としていたが、統也に言われた通り統也の上からひとまず退いた。

「……ん」

 立ち上がった統也は朱里に向けて手を差し出す。

 あまりにも唐突で、ぶっきらぼうに差し出された手がまさか自分のためだと気づくのに数秒かかる。

「え? あ、ありがとうございます……」

 統也の気遣いに従い、手を取って立ち上がる。

「ふぁ……さて、このゴミどうする?」

 また一つあくびを挟み、散乱してしまったゴミを見渡す。階段の下には一面を覆い尽くすようにゴミが散らばっている。

「それだったら……」

 朱里は右手を出すとギフトを発動させた。

 真紅の炎が散乱したゴミを焼き尽くしていく。炎の発生源は少女の手だ。

「へぇ、炎のギフトか。戦闘向きのギフトなんだな。まさかASGだったりするのか?」

「ええ、まあ……」

 千早は少し照れくさそうにする。言葉としては褒められているわけではないが、統也が如何にも感心しているように言っていたからだ。

 散らばったゴミは全て焼き尽くされ、真っ黒な塵と化した。

「全部燃やしちまったけど、これって何ゴミ扱い? まだ燃えんの? それとももう燃えないの?」

 朱里によって可燃ゴミも不燃ゴミも燃焼させられてしまった真っ黒な灰カス。どこからか連れてこられた風に吹かれ、わずかにずれる。

「それでは……ホウキで集めましょうか……」

「結局集めないとはいけないんだな」

「ごめんなさい……」

 焼却させたことで変わったことは、手で拾うものをホウキで掃きやすいようにしただけ。果たしてそれがいいことなのか悪いことなのか統也には判断がつかなかった。


「お疲れさん」

 自販機で買ってきた缶ジュースを朱里に向けて差し出す。

 二人で協力してゴミ処理を終えた後、二人は中庭にいた。

「ありがとうございます」

 缶を受け取った朱里はそれを膝元に運び、統也が座るのを待った。

「よいっしょっと……」

 おやじ臭い声を上げながら朱里の隣に座る。

「で、なんで俺たち一緒にいるんだっけ?」

「先輩が飲み物を奢ってくれると言ったからです」

「ああ、そうだったな。さて、することはしたし、俺帰るわ」

 座ったかと思えば切り返すように立ち上がろうとする統也。その動きはかの有名な燕返しにも勝らぬとも劣らぬものだった。

「ちょっと待ってください」

「ん?」

 朱里が引き留めると、統也は立ち上がることを止めて千早を見る。

「少し話していきませんか? どうせなら」

「俺は別に構わないが、お前はいいのか? ASGじゃないのか? 小隊のみんなを待たせても大丈夫か」

 統也は例外であるのだが、一般的にASG隊員は小隊に属すことになっている。統也がこれまで小隊に所属せず一人で活動を行ってきたのは、女子と上手くやっていける自信がないという統也の意向で認められた例外だ。

「それでしたら先輩だってASGじゃないですか」

「あれ? お前なんで俺がASGだって知ってんの? 話したっけ?」

「いえ、ASGに所属していれば先輩がASGに入っていることは知っていますよ」

「マジ? 俺はお前の顔見た記憶ないんだけど」

「そう言われると少し傷つきますね。でも、私は四月から入隊した新参者ですのでまだ一ヶ月ほどしか経ってませんし、気づかなくてもおかしくはないと思います」

「当初から入ってるなんてすげぇな。悩まなかったのか?」

「特に得意なことがあるわけでもないですし、自分の力が役に立つというのであればそれほど嬉しいことはなかったので志願しました」

 朱里の話を聞き、統也はうんうんと頷きながら感心する。ふと自分のことを思い返すと、雅子による力づく、ほとんど強制であったことを思い出しただけだった。

 統也は去年の秋にギフティアになり、一年生の冬からASGに所属している。朱里とそう変わらない。実力の方は定かではないが。

 現在、統也は自身の生活に満足しているわけではない。なりたくてギフティアになったわけでもない。加えてASGにまで入隊させられ、ごく普通の高校生活を失った。異常であるばかりに普通を望んでしまう。

「すごいなお前は。誰かのために力を使おうと思えることは立派だ」

「そんな、大げさですよ。先輩だって戦ってるじゃないですか」

 朱里の言う通りだ。統也はスティーラーとの戦いを長く続けてきた。それは決して変わることのない真実だ。

「俺は違う。お前のように誰かのために戦っていない。戦っているのは自分のためだ」

 男で唯一のギフティア。

 世間は面倒ごとを男に集中させる風潮がある。力仕事と言えば男、など昔からのことだ。過去に男が女に力仕事を任せようとしなかったことから今の傾向が生まれてしまったかもしれないが、現状は前述の通りだ。

 誰よりも前線で戦わなければならない存在が逃げ腰で後方に隠れているわけにはいかない。

 だが、戦えばそれなりの評価は貰える。

 実力が伴わないとしても、戦ったという記録は残る。

 自分の立場を護るため、自尊心を護るため、すべて自分恋しさ故の行動だ。

「だから、俺は……」

〝俺はどうしたいんだ?〟

 この先の言葉が一体彼女に何を誘導しようとしているのか、何を言ってもらいたいのか。君もすごいよとでも言ってもらいたいのか。

 己の中で起こる葛藤に統也は唇を戦慄かす。

「俺は……きっと誰かに認めてもらいたくて、そして自分の存在意義を感じていたい。そんな、わがままな感情だ」

「……」

 朱里が黙り込んだその時だった。

 校内に鳴り響くサイレン。

 スティーラー接近を警告するものだ。統也からすれば今やすっかり馴染みなものになってしまっている。

 しかし、朱里は違う。

 ギフティアがいないところにスティーラーは現れないため、こうしてギフティアたちとの共同生活を始めてひと月ばかりの彼女からすれば聞き慣れない耳障りな波長だ。

「……隊長のところに行かなきゃ!」

 朱里が血相を変えて急ぎ立ち上がる。

「いや、待て。今から合流しても遅い。俺と一緒にこい」

「え?」

「俺とお前でケリをつけるぞ」


         ◆


 サイレンに際していち早く行動を起こした統也たち。 

 校外に出て、前方から迫るスティーラーの群れと対面する。

 空を飛ぶスティーラーの姿は、何度見てもおぞましい。

 黒々しい外見。それぞれが特徴のある見た目をしている。奴らに固定的な形はない。獣をベースとした形態や鳥のようなスタイル。そのバリエーションは無限大だ。

「ざっと五十体程度って所か」

 ズボンのポケットをまさぐり取り出した黒の革手袋を右手のみにはめる。

「先輩、それは?」

「滑り止めみたいなものだ」

 統也は腰に手を回し、ベルトについているバックルに手を伸ばした。

「こい、《トランスクルーエル》」

 バックルが光を発し、統也の右手に機械仕掛けの剣を呼び出す。

 ASG隊員に配布されている専用武器呼び出し装置であるバックル。それが遠隔から統也の武器である《トランスクルーエル》を召喚したのだ。

 統也の右手に握られる機械仕掛けのトランスクルーエル

 片手用両刃直剣であるそれは全体的に黒々しい金属色でコーティングされており、武器の各所から歯車が突き出ている。

 空いた手でブレザーの内ポケットからインカムを取り出し、耳元に当てた。

「こちら古河統也。スティーラーとの交戦を開始します」

 返事を待つことはなく、統也はその足を走らせる。

 統也のギフトを感じ取り、スティーラーたちの視線が統也と朱里に注がれる。

 戦闘態勢に入ったスティーラーたちはゆっくりと進行していた速度を切り替えて高速で動き出した。

 まるで蝿のように飛び回るスティーラーらは瞬く間に統也を囲う。

 言葉にならない奇声を発し、統也へと牙を向ける。

 迫りくる数多の化け物を前にしても一歩としてひかない統也。

 スティーラーに対抗するよう統也はギフトの力を全身に走らせた。

 ギフトには二つの力がある。一つは先に朱里が見せたような炎などと各個人に与えられた特殊な異能力。そしてもう一つは、ギフティアたちの身体能力を向上させる力。この力に関してはギフトの力を格付けしたランクによる力の幅は少ない。

 そして後者の能力を解放した統也は、人間離れした身体能力を駆使して空高く跳躍する。

「……シッ!」

 片手で振るうには少し大きい剣を難なく操り、一体斬り裂く。

 斬り裂かれた一体のスティーラーは淡い光の爆発とともに消失した。

 地面に向けて自由落下していく統也はスティーラーを斬り裂いた時の反動を利用し、次のスティーラーへと飛んでいく。

 空中で移動をする統也の行動範囲は極端に狭められている。

 簡単に言えば、自由に動けないのだ。微細な動きは可能であっても、大きく敵の攻撃をかわすことは不可能である。

 当然、スティーラーの一体がその隙を突こうと迫りくる。

 しかし、そんなことは統也もわかっている。

 そう、統也はわかっていて現状にあるのだ。空中を移動すれば狙われることなど理解している。だからこそ、統也は行動に出ている。

「……っ!」

 身体を捻り、スティーラーが禍々しき手から繰り出す攻撃に合わせるように剣を盾とする。

 そして、攻撃が剣に触れた瞬間、身体を今一度捻らせてスティーラーを受け流すように回避した。

 本来なら盾としたところで踏ん張りが利かないため、防いだところで衝撃を緩和できずに吹き飛ばされてしまう。だが、そのデメリットを完全に打ち消したのだ。

 かわしただけでは終わらない。

 受け流したスティーラーの背中に乗っかり、上から剣を突き刺してとどめの一撃を入れた。

 爆発で消失してしまう前に踏ん張りを利かせて水平に飛ぶ。

 仲間の死を間近にしたスティーラーたちは単独行動を取りやめ、集団で統也を襲う。

 統也からすれば、それもまた計算の上だった。

「……かかったな」

 四方八方から襲いかかるスティーラーらの猛襲に対し、統也は少し腰を低くして剣を一度下げる。

「……なっ!」

 回転攻撃で蹴散らそうと目論んでいた統也の瞳に予想外の姿が映る。

 地上にいる朱里がその手に炎を宿し、今にも統也を囲うスティーラーの集団に撃ち放とうとしているのが視界に引っかかったのだ。

 統也を取り囲む連中を一度に焼き尽くそうとすれば、その中心にいる統也にも被害が及ぶのは考えなくてもわかる。

「お前……!」

 今すぐにとめようと叫ぶもスティーラーの奇声の前に統也の声は打ち消されてしまう。

「《ルートフレイム》!」

 導火線を伝わっていくように炎が空を駆け抜けた。

 空気中の酸素を喰らい肥大化していく火炎が一番近くにいたスティーラーを飲み込むように燃やし尽くし、それを糧に次々と延焼していく。

 遂には統也の周りにいたスティーラーたちを一体も残さずに消し去った。それも、統也に傷一つ負わせることなく。

〝なんて奴だ……〟

 朱里が見せた芸当は恐ろしく高度なものだ。

 完璧にギフトの力をコントロールできていなければ為すことのできない高難度テクニック。

〝あれを、まだ入隊したばかりの一年生ができるのか?〟

 ギフトの力を使うことは誰にでもできるが、誰にでもできるのはそこまでだ。その力を変幻自在に操るとまで行くと話は変わってくる。

 仮に統也が朱里の力を保持していたとしても、同じことはできないだろう。

 向上した身体能力を利用して無事に着地した統也の元に朱里が走り近寄ってくる。

「大丈夫ですか?」

「ああ。それよりお前、今の……」

「えっ? あ、あの……私、Aランクなんです」

 少し恥ずかしそうに自身のランクを告げる朱里。

 彼女は自分が見せたテクニックの凄さを理解していないのかもしれない。

 自身で理解していない以上、下手に褒めたところでまだ残っているスティーラー殲滅にそれなりの支障が出ると予想した統也は口に出そうとした言葉を引っ込めた。

「いや、なんでもない。助かった」

「そんな、お礼なんていいですよ」

「それでもだ」

 自分一人だけでなんとでもなったとしても、朱里の手を煩わせたことに変わりはない。

「それより、残りの連中、応援が来る前に片付けるぞ。できるな?」

「はい!」

「いい返事だ」

 結局、二人だけでスティーラーの大群をすべて殲滅し、後から到着した応援部隊は呆気にとられていた。


 すべてが終わった後、現場を立ち去ろうとしていた統也に朱里が話しかける。

「あの……」

「どうした?」

 寸分の差も感じさせないほどに早急な返事を返す。そのスピードには自分から話しかけていた朱里も驚きだ。

「先輩はどうして応援部隊を待たずに戦ったんですか?」

「それか」

 そういえばそんなこともあったな、とケロリとした顔をする。

「理由があるんですよね?」

「放課後だからだ」

「え?」

 あまりにも理解し難い返事に朱里は首を傾げた。

「せっかくの自由な時間をあんな奴らに削られちゃたまったものじゃないからな。それじゃあな。放課後、有意義に使えよ」

 そう告げると統也は朱里の反応も伺わずに歩き出していった。

「どういうこと?」

 朱里は統也の言葉に困惑していた。

 杜撰な説明がどうしてそこまで杜撰な説明に聞こえてしまっていたか、それは先の言葉に主語を付け足すだけで簡単なものになる。

 統也が敢えて付けなかった主語。

 それは〝みんな〟だ。

 警報が出された時点で一般生徒の行動が制限され、避難を要求される。その後、警報が解除されるまで一切の行動を禁じられるのだ。

 スティーラーが殲滅されればその警報も解除され、生徒たちの自由が認められる。

「紅さん、お手柄だったね」

 統也の背中を見送る朱里にとある人物が話しかける。

「あ、隊長……」

 朱里に話しかけたのは朱里が所属するチームの隊長、九条天音だ。

「結果的には大事ではなかったけど、どうして一旦戻ってこなかったのかしら?」

「すいません。先輩が……」

 統也に言われたことをそのまま天音に告げようとしたが、そうすることは統也へ責任転嫁をしているように感じて言葉を止めた。

「なんでもないです。すいません。すぐそこだったので」

「わかっているとは思うけど、どんな時であっても小隊は原則小隊での行動を規範としているの。あなた一人抜けるだけでチームワークの輪に乱れが生じるのよ。私たちはこの学園唯一の〝Aランク〟小隊なんだから、他の小隊にも影響するかもしれないわ」

「はい、すいません」

 申し訳なさそうに謝る朱里を見て、天音はふっと笑う。

「どうせ、あいつに何か言われたんでしょ。今度うちの小隊の子に何かしたらタダじゃおかないんだから」

 何かしらの私怨があるのか、天音は統也が消えていった方向を一瞥して言った。


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