ASG 特別専攻小隊

@meino02

第1話 小隊結成命令


 どこにでもある授業風景。

 どこにでもあるといったら少し語弊を招くかもしれない。

 なぜなら、その教室内には至るところに女子がいるからだ。なんなら女子しかいないのだ。

 クラス編成男女の比率は三四対一。

 それこそ異常と言えた。どこにでもあるなんてそんなことはない。日本中探してもこんな光景この学校このクラスぐらいしかない。

 現在授業を展開している教師は男性教師だ。体育理論の内容を黒板に書き連ねている。

 女子たちは教師の目を誤魔化し、それぞれでやりとりを行っている。当然教師はそれに気づいているのだろうが、相手が女子だということもあり見て見ぬふりをしているのだろう。

 一方、クラスで唯一の男はと言うと……

「古河くんってずっと寝てない?」

 一人、誰かが窓際最後列という誰もが求める席で大爆睡をかましている男子生徒を話題に上げた。

 古河統也。宮城県仙台市立青葉南高校二年生。

 クラスで唯一の男子であり、本校に在校しているたった一人の男子生徒だ。彼がいなければ青葉南高校は青葉南女子校となるのだが、昨年彼が転校してきたことによってその名前は改名されてしまった。

 普通女子校に男子が入学することはあり得ないはずだ。模試で判定こそ出すことはできるが、男が○○女子大に志望できるかといったら当然その答えはノーだ。

「どんな先生でもかまわず寝てるもんね。一緒のクラスになってから真面目に授業受けてるの見たことないかも」

「それ私も。なんで学校来てるんだろう」

 なぜ授業を受ける気のない統也が学校へ通っているか。学校へ通うこと。それが学生の義務であるからだ。他意はない。

 そしてもう一つ。統也がなぜまともに授業に参加しないのか。それは単に男子一人でどういう態度を取ればいいのかわからないからだ。転校初日で苦い思いでもしたのか、一年生の終わりではすっかり眠りに精を尽くしていた。

「それじゃあ、今日はここまでだ」

 板書を終えた教師は、黒板上にある壁時計を見て授業を切り上げる。後は各々で写しておけということなのだろう。

 そしてこれが本日最後の授業であり、掃除当番以外は解散となる。

 六限目終了のチャイムが鳴るのと同時に、教室の隅で寝ていた生徒がむくりと起き上がり、鞄を抱えて教室から出ようとする。

 当然、統也だ。

 統也と出入り口の距離はおよそ七メートル。日本の教室は基本的に縦横八メートルの正方形を模っている。

 早足で突き抜けようとするが、一つ影が統也の行く手を遮る。

 腕を組み、キッと統也を睨みつけたのはこのクラスの学級委員長であった。名前は鳳城夕莉。しっかりとした性格の女の子だ。世間で言うところのキツい性格の持ち主。

 そんな彼女がなぜ統也の前に立ち塞がったというのか。

「掃除。今週はあなたの班が当番よ」

 ブラシ型の箒を統也へと差し出す。

 授業態度や普段の生活態度からすればほとんど不良同然な統也。テンプレに沿えば統也はここで「めんどくせぇな。やってられるかよ」と彼女を突き飛ばしてでも帰っていただろう。

「ん、わかった」

 箒を受け取ると、手に持っていた鞄を自分の席に置きに戻る。

 その後、大きくあくびをし、うんと身体を伸ばした後、掃除を始めた。

「古河くんってよくわからないよね。ほとんど誰とも接さない割にすんなりとしたコミュニケーション取れるし。……の割には誰かとまともに話しているところ見たことない」

「でもさ、古河くん、ASGじゃなかった?」

「うちもそんな話聞いたことある。でも、うちって誰がASGかわからないようにしてるじゃん。もしかしたら怜奈がASGかもしれないし」

 今彼女たちの会話に出てきた『ASG』という単語。聞き慣れないだろうが、この環境においては一般常識だ。

 当然、人の代名詞となり得るものではないため、その意味ではないことが分かる。

 彼を噂する横で統也はそれを気にもかけず、黙々とゴミを集めていた。やたらと眠たそうな表情をしているのは今まで寝ていたからだろう。

 その後、統也は適当に掃除を済ませて校舎から出た。

 宮城県仙台市立青葉南高校。本校は都心よりわずかにずれた場所に位置しており、広大な土地を所有している。それをまるごと開発し、一つの機関として成り立たせている。

 娯楽施設から何やら何まで本校の生徒のみ利用可能とする施設がごまんとある。一校の生徒だけを相手にしているようでは商売にならないのだが、特殊な事情により国からの援助を受けている。

 それだけ、この学校に意味があるのだ。

 統也はグラウンドで部活動に勤しむ青春を傍目で眺めつつ学校の外へと向かう。

 寮への道とは真反対の方向へと歩いていく。

 空は快晴。昼下がりの時間に近いこともあり、正午と変わらぬ風景でありながらもまったく違うものと感じる。

 バス停の前を通り過ぎる。統也の目的地はバスを使うほど遠くはないらしい。ちなみにバスの本数は一時間に一本。特殊な理由でもない限り使われることはない。

 というのも、広大な敷地に住んでいるのは学生の関係者だけであり、教員たちも己が車やバイクなどでの出勤を義務付けられているからだ。

 この地区に一般人を収容しない規則がある。

 ならば、本校に通う彼女たちは一般人なのか。当然、彼女たちは一般人ではない。こんな豪勢に敷地を使用している学校に通うお嬢様か何か。それもまた答えとは程遠い。彼女たちは本校に無償で通っている。寮費もすべてタダだ。国からすべて支給されている。

 そこまでしてなぜ彼女たちをこの場所に収めていなければならないのか。それは彼女たちが異常だからだ。

 ある時期から発生した感染症がある。

 それに感染すると異能な力に目覚めてしまう。人によって力の内容や質が異なってくるが、どれも摩訶不思議なものばかり。

 加えてこの感染症には耐性などがあり、まず男性は感染しないとされている。

 そしてもう一つ、感染する期間と発症期間が定められている。中学三年生終盤の間から高校三年生の終わりまで。この期間でのみ発症するものだ。

 要約すると思春期の女子にだけ見られるもの。

 それを研究者たちは『ギフト』と名付けた。

 ギフトに感染した者たちは見つかり次第、この学校への転校を勧められる。科学者たちのモルモットにされるなどそんなことはない。安全な生活を送ってもらうために行われている慈善活動のようなものだ。断る要素を無くすために全額無償ということもある。

 なぜここでなければ安全な生活を送ることができないのか。

 それは『スティーラー』という存在がギフト発症時期と重なって出現するようになったからだ。スティーラーたちはギフト感染者の血を餌とする生命体。それもただ血を吸い上げるだけではなく、蚊のように特殊な液を吹きかける。この特殊な液体が人間に対する猛毒なのだ。

 ギフティアはこの液体に弱く、体内に回るだけで一時間もなくして命を落とす。

 スティーラーはギフティアを探知する習性がある上、スティーラーは一般人も襲うため、一人ギフティアが人に紛れていること自体危険な状況なのである。

 故に彼女たちは見つかり次第保護されることになっている。安全の代わりにいくらかの自由が束縛される形になってしまうのだが。

 しばらく歩いた統也は巨大なドーム状の建物へと足を入れる。

 入口でIDカードをスキャンし、硬い扉を開ける。

 薄暗い通路を抜けると、ガラス張りの廊下へと変わる。ガラスの向こうではギフトを駆使した鍛錬が行われている風景がある。

 一体この場では何が行われているのか。

 それには先程のASGという言葉が絡んでくる。

『アンチスティーラーギフティア』チーム。

 人類の敵とされるスティーラーをギフトの力を駆使して対抗するために作られた軍隊のようなものだ。

 統也はASGの史上初男性隊員である。

 訓練風景を軽く眺めながら先へ先へと進む。

 ASGはこの宮城の地だけではなく、各地方に必ず一つ設置されている。統也が所属しているのは東北支部に過ぎない。氷山の一角のようなものだ。

 ガラス張りの風景が見えなくなったところで通路は幾つにも別れ、統也は記憶を辿り目的地を目指して歩いていく。

 途中途中案内板に頼っているのは統也の記憶力が悪いのではなく、単純にこの施設が広すぎるだけだ。それに彼の行き先は普段滅多に行かない場所である。

「たく、何が支部長室だよ。んなもんエントランスの事務室と何が違うんだっての」

 だいぶ違うな、と一人思い返しながら道を歩く。

 途中何人かとすれ違ったが、一言そして一人として統也と挨拶を交わすものはいなかった。会釈ぐらいはあったかもしれない。

 統也としても女子ばかりの場所というのは居づらいのだ。自分が女子たちの輪の中に混じり込めるビジョンが見えず、一人ポツンとしているほうが気楽だと現状に甘えている。それでもこのままではいけないと思ってはいる。思っているだけだが。

 後頭部を掻きむしり、ざわつく心を沈める。

〝そもそも支部長室まで来いってなんだよ。俺なんか悪いことしたっけ?〟

 思い当たる節がなく一層悩む統也。呼び出された途端自分の悪行を振り返るのは男子の悪い癖だ。

 と、怖気つくものの扉の前で立ち止まって深呼吸などはせず、自然な流れで支部長室へと入っていった。

「失礼します」

 自動扉を潜り抜け、視線の先にいた支部長に統也は一礼する。

 バックには廊下と同じようにガラス張りでトレーニングの様子が見える仕組みになっている。

 統也の存在に気づき、バックに目を向けていた女性が振り向く。

「あら、あなたにしては遅かったじゃない」

 彼女は尾形雅子。ASG東北支部支部長の座に君臨する女性だ。大人の色気を漂わせるプロモーションはそんじょそこらのモデルに匹敵する。ただ、性格に難あり。それに口調が男勝りだったりする。

「なんのようですか? 俺、何も悪いことしてませんけど?」

「なんで最初に問うのが小学生レベルの質問なのよ。あなたを説教するためにわざわざ私があなたを呼び出すと思う?」

「そういえばそうですね。ほとんど思考放棄していたんで思い至らなかったです」

「素直なのにムカつくわね。わざとやってない?」

「やってないですよ。支部長は忙しいのに俺の相手なんてしていていいんですかね~、と思ったぐらいです」

「お生憎様。支部長なんて印を押して後は責任を取るだけの仕事よ。忙しいなんて緊急事態がないとまずありえないわね」

「いや、この職、通常業務より緊急事態の方が多いでしょ」

 スティーラーの襲来のたびにサイレンが鳴り響くため、一般企業と比べれば比にならないほど緊急事態が起こっている。

「そんなことはどうでもいいの。それより、あなたに話があるのよ」

「知ってますよそんなこと」

 と、統也が投げやりに返事をすると、雅子はニィっと笑みを浮かべる。そこに純粋な笑顔はない。

 机の向こう側からスタスタと歩いてくるのを統也は何事かと首を傾げている。

「んな当たり前な返事は聞きたくない!」

 雅子は統也のほっぺたをぎゅうっと捻じる。

「イダ! イダダダダダ! って、何するんですか? 十代の健康でピチピチな肌が支部長みたいになったらどうするんですか!」

「一体それはどういう意味だ?」

 笑みをさらに強調させた雅子は右腕に加える力加減を強める。

「イッタっ! ちょっとやめてくださいよ。別に俺のほっぺたは食べられませんよ。アンパンマンじゃないんですから」

 雅子の手を振り払った統也は次に備え、わずかに腰を落として対応する。

「そう身構えるな」

「身構えますよ。誰だって身の危険を察したら」

「挑発してきたあなたがそれを言う? まぁいいわ。今日はあなたに話があってきてもらったの」

「そういえばそうでしたね。だから俺、怒られるようなことしてないですよ」

「なんで最初に戻すのよ。別に怒ったりしないわよ」

「それならいいです。ふぅ、冷や冷やしたぜ」

「どれだけビビっていたのよ。それよりあなたにはチームを結成してもらいたいの」

「チームというと?」

「正式名称はASG東北支部特別専攻小隊よ。統也くん。あなたにはこの部隊の隊長になってもらいたいのよ」

 隊長などと恐れ多いワードが聞こえ、統也は思わず慄いた。

「何で俺が……。俺より有能な能力を持っている奴なんてごまんといますよ。別に俺じゃなくてもいいでしょ」

 面倒なことからは遠ざかろうと自虐し、自己評価を下げようと仕向ける。当然、統也自身そんなことを言っても無駄だとはわかっていた。せめてもの抵抗だ。

「能力の有無だけじゃないのよ。それはあなたが一番わかっているでしょ」

「いや、流石にそこまでは。まぁ、ギフトの質ですべてが決まっていたら世界はもう少し平和だったかもしれませんね」

 ASGには誰もギフトの能力が秀でているものばかりを集めているわけではない。というのは、ASGへの入隊は自己判断だからだ。スカウトは来るものの、有無も言わさず入隊させるような鬼畜な東北支部ではない。

 そう、戦況において役に立つ能力であったとしても、本人が拒めば平穏な生活を約束されるということだ。逆に乏しい能力であったとしても本人の気持ち次第で戦うこともできる。それが東北支部のシステムだ。

「そうね。誰もがみんな強いわけではないから。それに、みんな女の子だものね」

「ま、俺は男ですけどね」

 皮肉めいた風に言う。当然今の皮肉は自分自身に対してだ。ギフトに感染したせいで女子ばかりの高校に編入させられ、散々な目にあっている。

 今では現状を受け入れ、何かに不満を言うことはなくなったが。

「だから男の子のあなたが頑張らないといけないんじゃない? 『奇跡の男の子』?」

 世界で唯一のギフティアである統也は当時、雅子が呼んだ『奇跡の男の子』と称されていた。

「その呼称とそういう男だからって差別止めてくれません。実際問題女性の方が痛みに強いですよね? 聞いたところ、男は陣痛に耐えられないらしいですよ」

「そう。私はまだ陣痛を体験したことがないからどれほどの痛みかは知らないわ」

「いや、あんたの下半身事情なんて聞きたくねぇよ。もう三十路だろ?」

「あら、なら数年前に聞けばよかったわね」

 ギロリと殺意を込めた炯眼が統也を睨む。

 また余計なことを言ってしまった、と頬を引き攣らせた統也は明後日の方向に視線を逸らした。

「高校生の俺からしたら二十代後半も三十路も変わりませんから大丈夫です」

「それ、何が大丈夫なのかしら」

「あ、え、いや、んじゃあ要件は聞き入れたんで、俺帰りますね」

 くるりと踵を返し、恐怖から一刻も逃げるために早足で出口へと向かう。

「待ちなさい。詳細を話していないでしょう」

 制服の襟首を掴まれた統也は「うげっ」と息を詰まらせ、その場に立ち止まる。咳込みながら雅子に嫌悪を飛ばす。

「そもそも聞き入れたといって承認したとは言ってませんけど」

「脅迫するのはめんどうだからさっさと認めなさい」

〝なんだよ、脅迫するって〟

 戦慄を免れることができず、統也はこれ以上の抵抗は危険だと身で感じた。まるで蛇に睨まれた蛙のように。

「わかりましたよ。やればいいんでしょやれば。強制しないのがこの支部の売りだったと思いますけどね」

「別に強制はしていない。脅迫と誘導だけよ」

「もっと汚いやり方のような気がする」

 まだ強制させられた方が気持ち的に楽なのでは、と思ったがそれは口に出さなかった。

「で、具体的に何をすればいいんですか? まさか学校で一から隊員を募集するとか言いませんよね?」

「あなたには最強のチームを作ってもらうわ。東北支部を支える大黒柱のようなものよ」

「いや、それは既にAランク小隊が……」

 ASGの中でも小隊編成がなされており、数ある中からランク付けされているのだ。その中でもAランク小隊は支部の中で一番の実力を持つ小隊に与えられる称号だ。ちなみに格付けは半年に一回の模擬戦により決定される。

「そうね。正直あなたの作ったチーム、小隊には通常の任務は任せないわ」

「え? 何それ、お飾り小隊?」

「なんで考え方が卑屈的なのかしら? 通常じゃないなら特別だと考えないの?」

「くっ……なにやら面倒な役割を押しつけられそうだ」

「あら、よくわかっているじゃない」

 統也の読みは的中しているらしく、雅子は不敵な笑みを浮かべる。

「一体何をさせるんです? ぶっちゃけ、Aランク小隊も基本的に訓練鍛練ばかりで出動機会ないですよね」

 スティーラーの襲撃に備えているというのが言い得ていると言える。学校の敷地外から出る生徒の護衛などとあまり表だった活動を主とはしていない。

「それはおいおい説明するわ。とにかく、あなたはメンバーを集めるの。それが最初のミッションよ。頑張ってね」

「ちょっと待ってくださいよ。どうやって集めろって言うんですか。他の小隊から引き抜きでもしろっていうんですか?」

「それでいいんじゃないかしら? それに関してはあなたの自由にしてもらって構わない。なんなら東北支部の隊員のリスト全員分用意してもいいわよ。どうする?」

「な……」

 統也からすればまず女の子に誘いをかけることすら鬼門だ。それに加えて他の小隊から引き抜きだなんて厄介事を引き起こしかねない。けれど、学校の連中を誘うというのも論外である。戦わないと自負しているものを奮い立たせようとするのは非常識極まりない。

 だが、後には引けぬ状況。

「よろしくお願いします」

 結局頼むことにした。

「わかったわ。とりあえず一週間以内に一人は確保しなさい。それでひとまず小隊として認められるから」

「ちょ、待ってください。なんで期限付き……」

「だって無期限にしたらあなた動かないでしょ。もし期限内にこなせなかったら、私が選んだ小隊編成にするけどいい? あなたが苦手そうな年上の女の子ばかりを選んであげる。嫌でしょ。あなたみたいな人間にとって他人に決められた枠組みに囚われるのは」

「ぐっ……なんつー嫌がらせ」

 統也としては雅子が提案するものは最低避けて通りたい道だ。自分が隊長になるというのに周りが全員年上なんて考えられない。一人ぐらいなら構わないが、もし全員なら尻に敷かれ、そして威厳も何も保てないだろう。

 何よりも同じ人間を嫌う統也にその道はありえなかった。

「大事なチームだからよく考えて誘いなさいよ。一応支部長命令ってことで拒否権云々は適当に誤魔化していいわよ。そんなものないけど」

 雅子は適当なことを抜かしながら自分のデスクへと戻っていく。

「それって口から出まかせでいいってことですか?」

「ええ、あなた詭弁は上手じゃない。いけるでしょ。あと、はいこれ。全員のリスト」

 引き出しから取り出した紙の束を統也に向けて差し出す。多少距離があったため、そこは統也が自分から受け取りに行った。

「別に俺、詭弁が上手いわけじゃないですよ」

「あら、私からは上手に見えるわよ。それじゃあ頑張ってね」

 やる気の出ない鼓舞を背中で受け取り、統也は支部長室を後にした。


         ◆


 施設から出た統也は、最寄りの公園に足を運んでそこのベンチで横たわっていた。

 寝転がって見ているのは先ほど受け取った隊員たちのリスト。名前から年齢出身身長体重座高スリーサイズなど一般的な情報からギフト関連の能力まで記されている。流石に個人の性格までは書かれていない。

 A~Eまでの間でギフトの質の判定がスキルレベルとその能力内容。ざっと目を通した限りではスキルレベルC以下は所属していないらしい。そもそも、スキルレベルが低くて志願しよう者など滅多にいない。

 顔写真にはほとんど目を通さず、相性の良さそうな能力を探っていく。

 統也は身長や体重について興味はない。どれだけ好みの女性だろうがなんだろうが、選んだ彼女らと赴くのは死地だ。好みの女性などと抜かしていいものではない。

 どれだけ生存確率を高くすることができるか。それが統也にできるせめてもの礼儀だ。

 考えること早三十分ほど経ったが、一向に決まらない。

 小隊のメンバーは隊長含めて五人までなら何人まで加入させてもいい。戦いのバリエーションを増やしたいのであれば数を多くすればいいし、より綿密な動きを可能とするには少数に絞るという手もある。

 それだけではなく、能力の数だけ戦い方がある。それを考えるだけで統也の頭は一杯になっている。

 唸ることこそしないが、眉間にしわを寄せて深く悩んでいる。

「……やっぱり実際に見てみるのが一番か」

 もしかしたら自分にも思いつかない戦い方があるかもしれない。そんな可能性を求めて統也はベンチを発つ。

 空はすっかり夕暮れ。

「しまったな。もうこんな時間か。半分は帰っちまってるだろうし、調査は明日からにしよう」

 まだ一週間あるのだ。余裕を持っていこうと統也は死亡フラグを立ててしまいそうな思想を元に今日の調査は打ち切ることにした。

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