二月の出来事 ハッピーバレンタイン

 風の冷たい午後。私は、いつものように友人と中学校から帰宅していた。

 ちなみに、友人は自転車通学。彼女は徒歩通学である私に合わせて、自転車を押しながら歩いてくれる。


 校門を出てから十五分くらい経った頃。友人は自転車のかごに入れた鞄を開け、何かを取りだした。

「はいこれ、今日バレンタインだから」

ピンクのハート柄の袋でラッピングされたクッキーを手渡された。

「ありがとう。これって手作り?」

答えながらも、私は焦った。どうしよう、すっかり忘れていた。何も用意していない。

「うん」

笑顔を見せる彼女に、自分も何か渡さなければという気持ちになった。


 ホワイトデーにお返しを渡すという手もある。けれども、友チョコ(クッキーだけど)に対してそのようなことをするのはなんとなく違和感がある。

 歩きながら考えていると、スーパーが目に入った。

「ごめん。ちょっとだけ待っててくれる?」

 友人の返事を待たずに、私はスーパーの中へと駆けて行った。


 とはいうものの、手作りのクッキーに対抗できるようなものが思いつかない。普通の市販のお菓子ならいつだって買える。友人ならそれでも気にしないだろうが、今までだって、彼女と買ったお菓子を交換しながら食べることはあった。だから、いつもなら買わないものを……。

(これならどうかしら)

 一か八か、商品を手に取り、レジへと持って行った。


「お待たせ。はい、バレンタインのチョコ」

 ありがとうと言いながら両手を差し出す友人に、小さいチョコレートを渡す。

 五円玉チョコ。これ一つだけをレジへ持って行くのは、結構勇気が必要だった。実際は意識なんてしていないだろう周囲の視線を気にし、店員の反応をうかがいながら購入。

「まさか、これだけのためにスーパーに行ったの?」

驚く友人に、「うん、まあ」と曖昧に返す。

 数秒の沈黙の後、友人は言った。

「……すごいね」

多少引いているようにも見えた。


 そんな事があったが、あれから結構経った今でも、私達二人の友情は特に変わっていない。

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おはなしカレンダー 須戸 @su-do

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