STORIA 51

「お前、家出娘だろ? 待つように言った爺さんって、背格好はこんな感じじゃなかったか」

身振り手振りを加えて、都が少女に説明すると、彼女は頷く。

ほぼ、同時に確信を得た僕達は互いに眼を見合せた。

「秀蔵ちゃんだな」

「八尋さん」

僕と都は、揃えて言葉を零す。

至近で捉えるほど、この少女が漂泊を繰り返してきたという事実は受け入れ難い物に想えてしまう。

ある意味、洗練された彼女の姿は都心で流行を求める女性達と何ら変わりはない。

「十二、三歳ってとこか。仕方ないな。連れて行くしかなさそうだ。ほら、家出少女。来いよ」

都に無造作に片腕を掴まれた彼女は、不機嫌そうな表情を露にして、その手を払い退ける。

「私の名前は、銀花! 家出少女なんて、呼ばないで」

「へえ。そいつはまた、奇矯な名だな」

幼い少女を相手に容赦のない発言を向ける都を、僕は黙ったまま右手で制止した。

都は突然、悪戯な笑みを浮かべて見せる。

そのまま、少女の額に手を遣り、子猫をあやすような手付きで彼女の髪を撫でた。

「じゃあ、お前の呼び名は『銀』だ」




都の言葉に彼女は呆然としていたが、乱れた髪を整えながら僅かに微笑む。

どうやら、悪い気はしないらしい。

笑顔を取り戻した少女に、僕達は改めて自分のことを詳しく話し始めた。

彼女は警戒心を表に出すこともなく、出逢って間もない男の会話に耳を傾ける。

どう見ても思春期の少女が、少しの疑いも懐かずにいる様子には違和感もあった。

何だか、不思議な子だ。

「お兄さんは、私を助けてくれたお爺さんと暮らしているのね。これからは、四人で住むってこと?」

「ま、そういうことだな」

相手が聞き分けのいい人間で良かったと、都が溜め息を衝きながら、僕の肩に右手を置く。

少女を前に、僕はそっと手を差し伸べる。

「よろしく、銀花。僕は、黎。こっちは、親友の都」

「レイ。それに、みやこね。こちらこそ、よろしく」

僕の手を力強く握り締める、彼女の温もりが柔く伝う。

穏やかに解けた表情は、とても嬉しそうだ。

釧路に雪の妖精がいるとするなら、少女の様なオーラを放っているのだろうか。





「何だ。お前さん達、その娘をどこで見つけて……」

僕達が帰宅するや否や、少女の存在に気付いた八尋さんが足速に駆け付け言葉を吐いた。

気怠そうに玄関先に腰を降ろす都は上着を脱ぎ、傾げた首で伯父の姿を見上げる。

「偶然、温根内の木道で出逢ったんだよ。彼女の話を耳にして、すぐに秀蔵ちゃんの言っていた子だって気付いたから、連れて来たんだ」








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