STORIA 28

僕には無理なんだ。

人の心を繋ぎ止めるなんて。

流れには逆らえない、それが僕だから。

それに、そんな事どうして許される?

"誰かの物だ"、 "自分の物だ" なんて他人の存在を私物化へと確定抔、出来やしないのだから。

人の想いを満足に掴む事も出来ない僕には当然の如く、自身の求めるべき道標を探し得る事も難しい。

たった一つの事も守り切れない、成し遂げるべき事も立派に遣り遂げられない僕が幾つもの願いを抱え夢を見るなんて無謀な話だ。

多くの生徒が自分の将来に対する確信と希望を抱く中で、僕は未だに進むべき路が定まらずただ足踏みを繰り返している。





蘭も歴とした目的意識を持つ人物の一人だ。

三学期を迎えてからというもの、彼女は慌ただしさの中に流れされる様に身を置きながらも、その励行は着実に実を結ぼうとしていた様に想う。

僕はとっくに気付いていたんだ。

彼女の中であやふやだった夢が本格的な感情へと移り変わった瞬間を。

もう随分と褪せた時間の中に見付けていた。

認識しながら影へと視線を隠す。

急ぎ足で夢へと近付く彼女や周りの動きに僕は確かに怯えていたから。

いつしか自分だけが置いてきぼりを喰らってしまいそうで。

受け入れたくない現実だけ意識から外そうとしていた。

蘭が進路の話を持ち出す度、職場や家庭の事で頭を悩ませている自分が情けなくて、面映く、それでも向き合わなければならない現からただ逃れたいと願っている。

身近に迫る前途の要より、ただ幼子の様に寂れた僕の姿を構ってよ、と彼女の情けを求めた。

皆、苦しみ抱え想い煩い、それでも一つずつハードルをクリアして行くのに僕はこんな処で立ち止まったまま何をしているのだろうか。

視座を変える事もなく迷いの渦に身を竦めたまま。

今はもう慌ただしく動いていく周囲の流れに従う事さえ不愉快に感じている。

かと言って皆が同じ方向を目指す進路という波動を瀬切る訳にもいかない。

僕はただ独り、人知れぬ場所でもがくだけだ。




蘭の眼中から僕の存在が次第に薄れていく、何故だかそんな予感が過って止まない。

分かってる、僕を不安に陥れ様としている物は最早、予感なんかじゃない。

肯定せざるを得ない、どうしようもなく切ない現実だった。

深みを削り落とした何処か淡く浅い言葉……。

色褪せた麻の様に彼女の微笑みや声音が薄らいだ物へと変わっていく。

当然の事と言えば当然なのだろう。

自分の将来が懸かっている、こんな大事な時期に余他見をしていられる方が不思議な位だ。

僕は枯れた華……

誰よりも哀れで自身の心中を沸き起こさせる何かを見付ける事にも疲れてしまった。

彼女の瞳は確実に目的を得ようとしていた。

僕の位置は彼女の最優先から少しずつ遠退いていく。

時の推移に僕は君の"特別な存在" として、いつまでその虹彩範囲に縋り付いていられるものか……。

蘭は僕とは違う。

君なら一つの願いを形として得たとしても更にそれを望蜀へと変えていく人だろう。








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