STORIA 16
「分かった。辞めたければ辞めればいいよ」
そう言って僕を突き放した。
彼女が居なくなってから突然喉の奥が震えて来るのが分かった。
職場を後にしても重い感情を引き摺ったまま僕は翌朝を迎え入れる。
辞めれば楽になる。
そんな想いが心の大半を占めていた。
学校は休み。代わりにコンビニのバイトに向かうと新顔が目に留まる。
「……おはようございます」
低い声で言葉を掛け、その姿に目を曝していると彼は僕に屈託のない笑顔を見せてきた。
「あっ、おはようございます。僕、昨日からバイトで入った先導って言います。宜しくお願いします」
未だあどけなさが残る若い青年だ。
この仕事場の殆どのクルーが厳しい目をした人間ばかりだったから、僕は同士を見付けた気がして何だか安心感を抱いてしまっていた。
「佐倉君、これ今月後半のシフト。ちょっとこっちへ来てくれ」
僕が新人の彼と言葉を交わしていると、チーフが一枚の紙切れを背後から流し渡す。
「え……、これはどういう事ですか?」
「見ての通りだよ。佐倉君、今まで学校の週末や夏休み等、略全て入ってくれていたけどこれからは月に二回程度の出勤でいいから」
「そんな……」
「その為に新人を雇ったんだよ。もう挨拶しただろう? 君よりは出来る人間だ。君については少し様子を見させて貰う。勤務日数を増やしたければ今まで以上に頑張るんだな。とにかくそういう事だから」
使えない僕抔、樗櫟か塵芥といった扱いだ。
バイトの帰り道、肩を落とし歩幅を縮め家路を辿った。
僕は何処へ行っても行き詰まる。
ざわめく風音が奇妙な人の声に姿を変え疎ましい位この耳に揺さついていた。
ショーウィンドーには見るに耐えない情けなくも恥ずかしい落魄れた自分の姿が映る。
隣接する建築物の谷間を吹き抜ける春嵐と、足下を横切る野良猫の姿が今にも泣き出しそうな顔で佇立する惨めな窶れ姿を察している様で心が痛んだ。
僕なんて生まれて来なければ良かった。
たった一言、心がそう叫んだ……。
新緑深まる中、風を切り、僕は足早に正門へと急ぐ。
その先にはこんな僕の事でも心待ちにしていてくれる愛しい君がいる。
「ごめん、待った?」
「ううん」
蘭はその指先で髪を耳に預けると少しはにかみながら僕を見た。
足下には春の終わりを告げた桜の花弁が未だ僅かに散り敷かれている。
「今日はマックにでも寄って行く? 蘭」
「そうだね。お腹空いたし」
「蘭、それ?」
「うん。今日配られた進路調査表なの」
「全く僕達のクラスの担任って本当、気が早いよな。未だ新学期始まったばかりなのにさ」
「そんな風に言わないで。大切な事だもの。もう三年生だし卒業後の自分、確りと見付けなきゃいけない時期だと想うの。ね、冬はどうするの?」
「……僕は先の事なんて全然。実感も涌かないし、自分が何をしたいのかも分からないんだ。それにこれといった特技もないしさ」
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