7-4 いつもどおりにしようとしたけれどもなお昼
「いただきまーす」
午前の授業が終わり、いつものように昼食の時間が来た。
俺たちは机を動かして島を作り、いつものようにお弁当を広げる。
「咲ちゃんのお弁当復活だな」
美味そうな生ハムを乗せたバケットをかじりながら、砂川が俺の手元を覗き込んできた。
「からあげくれ」
「あのなあ……」
いつもどおりの砂川の態度に呆れながらも、俺はいつものこととからあげを一つ砂川に恵んでやる。
その代わりとばかりに、俺は砂川のバケットから生ハムだけを奪い取った。
「お前そりゃねえよ」
「からあげと交換だ」
「ま、いいか」
生ハムのかわりにバケットに唐揚げをのせ、それをむしゃむしゃと食べ始める砂川。
いつもならそのあたりで舌鼓を打つのだが、今日は違っていた。
「……ん? あれ?」
砂川の妙な反応に、俺だけでなく咲も胡乱げな表情を浮かべた。
「どうかした? 砂川くん」
「いや……なんか、味付け変えた?」
「え?」
咲の反応から、咲自身にはそのつもりはなかったのだということがわかる。
俺は砂川の言葉の意味を知ろうと、俺の方でも唐揚げの味を確かめてみた。
「ぱくっ……もぐもぐもぐもぐ」
咲の唐揚げを口に入れ、いつものように味わってみる。
ほんのりとスパイスの効いたオーソドックスな唐揚げの味。
揚げてから時間が経っているためにカラッとジューシーとまではいかないが、油が染み出てべっちょりとかそういうことはまるでない。
俺の好みで少し厚めの衣をまとった唐揚げが、口の中で咀嚼されていく。
(どういうことだ? いつもどおり……)
と思いかけたところで、砂川の反応の理由がわかってきた。
「なるほど」
「だろ?」
俺と砂川だけが納得している。
どこか心配そうな表情を浮かべながら、咲が俺の方を見ていた。
「大丈夫だ咲。マズいとかそういうのじゃなくて、微妙に味が違うだけだから」
「ホントに?」
「誤解させたらごめんね。悦郎の言う通り、ホントにちょっとした違いなんだ」
砂川が俺の言葉をフォローする。
そしてそれを自分でも確かめてみればいいと、俺は唐揚げを一つつまんで咲の方へと差し出した。
それを、咲がパクっと食べる。
まるで親鳥が小鳥に餌をあげているようなその様を見て緑青がニヤニヤと笑っていたが俺は気にしない。
「もぐもぐもぐもぐ……んんん? 別に変わらない気がするけど」
首をかしげる咲に、緑青がフォローを入れた。
「あれじゃないのかな。昨日の熱の影響がまだ残ってて、微妙に味覚が変化してるとか」
「あー」
俺も納得の緑青の推論。
咲の方はまだ首をかしげていたが、とりあえず俺はそういうこととして納得することにした。
「まあ、マズいわけじゃないんだから気にすんなよ」
「っていうか、これ美味しいよ。いつもよりこってりした感じで」
「言われてみればそうだな。なんか、濃いめの味がパンに合うのかもしれん」
俺は砂川から奪ったバケットに乗せて、咲の唐揚げをさらにもう一つ食べた。
「瓢箪から駒ってやつかもね」
グァバジュースを飲みながら、緑青が言った。
「うーん……私にはよくわからないけど、美味しいならいっか」
「ふふふ、そうですよ咲さん。今日のところは気にせずに。本調子に戻ってから、どういう風に違っていたのか調べてみたりすればいいじゃないですか」
「うん。それもおもしろそうだね」
それ単体で食べると、微妙に最後の後味が重い今日の咲の唐揚げ。
ところがそれはご飯やパンにめちゃくちゃ合う。
そんなこんなで、今日も昼飯の時間はワイワイと楽しく過ぎていった。
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