5-7 いつもどおりにするためにな下校
下校時、俺はふとした思いつきで若竹のいるコンビニに寄っていた。
まあ、俺が何かを思いつかなくても麗美が寄りたがっただろうけど。
「いらっしゃいませー……って悦郎か」
「よう若竹」
「お疲れ様、美春ちゃん」
「こんにちは、若竹さん」
「なんだよ。今日は両手に花か? 相変わらずだな、悦郎は」
「相変わらずってなんだよ」
「ああん? 去年からそうだっただろ? いっつも咲とちひろ連れてさ」
「それがどうかしたのか?」
「はー、イヤだイヤだ。自分がどれだけ周囲の男子たちから妬まれてたか気づいてないときた」
「若竹さーん。仕事中よー」
「はーい」
店の奥から店長さん(たぶん)に注意された若竹は、俺たちにあっちに行けと言うかのように手をピラピラと振ってきた。
少し話したいことがあったのだが、たしかにこうやって立ち話だとお店の邪魔になるな。
「ということで麗美」
「はい」
「何か買おう」
「もちろんです。今日も、新製品が出てるはずなんです」
「またか。コンビニのサイクルは早いな」
「ふふふ」
そうして俺たちは、コンビニの店内をゆっくりと見て回る。
俺のもった買い物かごに、咲と麗美の選んだ商品が入れられていく。
「咲も買うのか?」
「うん。今日はここで夕飯の準備しちゃう。たまにはいいよね」
「まあ別にいいけど……ってか、それならあれ買わないか?」
「あれ?」
「ほれ、CMでやってるレンジで温める洋食とか言うやつ。すげえ美味そうじゃん」
「あ、あれイマイチでしたよ?」
「ん? 麗美もう食べたのか?」
「はい。先日試してみました。ですが、藤田の作ったものと比べてしまうと、かなり味が落ちる感じで」
「あー……」
そこ比べちゃダメだろとも思ったが、同じ土俵に上がってしまったコンビニ側の失敗だとも思えなくもない。
なにしろ麗美はそもそもがコンビニびいきだ。よっぽどのことがない限り、コンビニ飯側に軍配を上げていただろう。
それなのにわざわざコンビニ側から、本格洋食の方の舞台に上がってしまった。
それでは世界で修行してきた藤田さんの料理をいつも食べている麗美の舌を満足させられるわけがない。
麗美を喜ばせるには、かなりの変化球が必要なのだ。
「ほい、レジお願い」
「あーい」
たぶん俺たちだけに対する昔ながらの脱力系の受け答えをしながら、若竹が商品の会計をはじめた。
その時間を利用して、俺は若竹と話をする。
っていうかこれ、アイドルの特典会みたいだな(さっきネットで調べた)。
「でだ若竹。うちの学校のアイドル研究部って知ってるか?」
「いや悦郎。俺がアイドルになっちゃったのって今年からだから」
「あ、そういやそうだったな」
言われてみればそうだった。
同じ学校に通っていたころの若竹は、バリバリのバンド少女だった。
もちろん、今もアイドルとはいえバンドっぽい雰囲気を残したアイドルらしいが。
「まあ知らないならいいや。そういうのがあるらしいんだよ、うちの学校に」
「ふーん。で、それと俺になんの関係が?」
「そいつらにお前のこと教えてもいい?」
「は?」
「そこにこっち側に引き込みたい人がいるんだよ。ちょっとした部活の危機でさ」
「部活って……なんだっけ。悦郎たちがやってたの。オカリナ部だっけ」
「オカルト研究会だ」
「そう、それ」
すべての商品を会計し終わった若竹は、それらをコンビニ袋に詰めていく。
「別にいいけど、俺なんもしないぞ? っていうか、何ができるのか全然知らんし」
「いいって。ちょっとした情報……お前のことだけれども。それと引き換えに、便宜を図ってもらえないかって交渉するだけだから」
「ふーん。ちひろみたいな悪巧みしてんだな」
「……言われてみればそうだな」
「とにかく、別に俺はかまわないよ。それで何かするわけじゃないけど。それでいいんだろ? 何かしろってんなら拒否するぞ?」
「ああ、かまわん。そこはそっちで処理してくれ。ちょっとうるさいやつが来るかもしれないけど」
「えー、うるさいやつか……ちょっと苦手だな」
言われて香染と若竹の絡みを想像してみる。
……うん。確かに相性は悪そうだ。
「たぶんお目付け役みたいなのがついてくるはずだから、そいつにソレのコントロールはさせてみてくれ」
「なんだそれ。そっちの子みたいなお嬢様なのか?」
「あー、いや。どっちかっていうと……」
「ふふふ。咲さんと悦郎さんみたいな感じです」
「あー、なんとなく想像できた」
「あははー」
「なんだよそれ」
「ふふふふ」
こうして俺は、生徒会長……というか香染を介した七瀬に対する切り札を一つ手に入れた。
まあ、それがうまく機能するかどうかはわからなかったが。
実際のところは、麗美から視線を逸してやろうってのが第一の目的なんだけどな。
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