2-4 いつもになったらヤバい昼食
そしてお昼。
「ふふふ、今日はとっても楽しみです」
ニコニコと笑顔を浮かべながら、麗美が机を移動している。
いつものメンツに麗美を加え、机ひとつ分だけ島が大きくなる。
「そういえばコンビニでお昼買ってきたとか言ってたよな」
「はいっ」
席に付きながら、麗美の持っているコンビニ袋を見る。
よく目にする緑のロゴの入ったコンビニの白いビニール袋。
物自体は変わらないはずなのに、なぜか麗美が持っていると高級なところで買い物でもしてきたかのように見えてきてしまう。
その中身も、たぶんいつもどおりのコンビニ飯なのに。
「で、何を買ってきたんだ?」
「選ぶのに一時間もかかったって言ってたもんね。私も、すごく興味ある」
「ぐふふ。意外と普通のお弁当だったりして」
「私の買ってきたのは、白くて綺麗なこれですっ」
ガサガサとコンビニ袋から、麗美が長方形のパックを一つ取り出した。
俺たちは身を乗り出してそれを見る。
「え……」
「これ?」
「ぐふふ……なんとこれは予想外」
麗美が自信満々に取り出したのは、真ん中に赤い梅干しだけが埋め込まれた、おかずも何もないただのご飯のパックだった。
「いやまさか。他におかずも買ってきてるんでしょ?」
モグモグと焼きうどんパンを頬張りながら砂川が残りのコンビニ袋の方を覗き込む。
「って、なにも入ってない」
「はい。私が買ってきたのはこれだけです」
何が楽しいのか、ニコニコと笑顔のままの麗美。
俺たちは狐につままれたかのようにキョトンとし続けている。
「あ、そうか。ダイエットだよね」
ポンと咲が手を打った。
たぶん自分でも思い当たる部分があるのだろう。
「でもそれなら、糖質が多いからご飯は避けたほうが……」
言いながら、俺の視線に気づいたのかキッと睨みつけてきた。
別にお腹なんか見てませんよーだ。
「ふふふ、違うんです。そういうので選んだんじゃなくて、これがとても綺麗だったから」
「綺麗?」
「はい。日本の国旗みたいで」
「あー」
納得しつつも、それでいてどこか納得しきれない俺たち。
「それじゃあいただきましょうか」
そんな俺たちをよそに、麗美は食事を促してくる。
約一名はとっくに食べ始めていたが、とりあえず俺たちは手を合わせていただきますを言った。
「いただきます」
いつもの習慣というのは恐ろしい。
麗美のご飯が気になっていても、促されるとそのとおりに行動してしまう。
そして俺たちはそのタイミングで、麗美がご飯しか買わなかった理由を知ることとなった。
「失礼します」
「え?」
不意に現れた麗美の黒服たち……昨日は是枝と呼ばれていた年齢不詳のおじさんが、俺たちの机に綺麗なテーブルクロスをかけていく。
止める間もないほどの流れるような動きで、俺たちの弁当もまた配置し直される。
そして、麗美のご飯以外のメニューが出揃った。
「いろいろなカレーを集めてみました。昨夜の咲さんのカレーがとても美味しかったので、その御礼も兼ねてです。さ、みなさん召し上がってください」
唐突にはじまるカレーパーティー。
その量は俺たちだけで食べ切れるものではなく、まわりのクラスメイトたちにも存分に振る舞われた。
「っていうかからあげにカレーつけても美味いのな」
「まあ、カレーは万能だしな」
俺と砂川は咲の揚げてくれたからあげに麗美のカレーをつけてモグモグと頬張る。
「グリーンカレー美味しい」
いかにも緑青が好みそうな独特の風味。
自分のお弁当もそこそこに、緑青はスパイシーなその味に舌鼓を打っていた。
「これ、午後の授業にも匂い残りそうだね」
ちょっともう食べきれないなと諦めたのか、ナンをモグモグしながら自分の分と俺の弁当を片付けていた咲が、軽く鼻をスンスンと鳴らした。
確かに、俺たちの教室の中はまるでインド料理店のような匂いが充満していた。
それは食欲をそそるとてもいい匂いではあったけれども、授業をするのに相応しいとは言い難いものだった。
だが……。
「大丈夫だろ、みどり先生のLHRだし」
「あ、そういえばそっか」
午後イチの授業は体育だから教室は使わない。
そしてそのあとの本日最後の授業は、みどり先生のLHRだ。
となれば、いくらでも言い訳が聞く。
まあでも、麗美本人はともかく、あの黒服連中がそのあたりのことを何も考えていないとは思えない。
自分の仕えている麗美に恥をかかせることなんて、決してしなさそうだからな。
ともかく、こうして唐突に開かれた教室でのカレーパーティは無事に幕を閉じた。
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