第Ⅹ話 死体
天魔雄神が大黒の戦う相手として用意したのは過去大黒と共に蠱毒に入れられた子供達、とその死体。
子供は傷つけるものではなく、守られるもの。守るべきもの。
そんな信念を持っている大黒にとって一番戦いたくない相手であった。
ハクのように軍勢と相対しなければならないという訳ではないが、徹底的に破壊しないと止まらないようになっている死体は一体と戦うだけで精神も体力も削られる。
その上まだ大黒は死体を止める方法に気がついておらず、群がってくる死体を放り投げては逃げ、放り投げては逃げ、を繰り返していた。
「くそ! こいつらどうやったら倒れるんだよっ! 頭貫かれてる奴もいるし、内臓こぼれてる奴もいるし! ゾンビ映画じゃねぇんだぞ!」
大黒は叫びながら追ってくる死体達と必死に距離を取る。
まだ生きている子供は大黒と死体が見えていないかのように戦い続けており、そこでの戦いが一つ終わる毎に大黒を追ってくる死体の数も一つ、もしくは二つと増えていく。
最初に大黒に襲いかかってきた秋人の子供もいつの間にか姿が見えなくなっており、いまや大黒に向かってくるのは多数の死体のみだった。
(落ち着け……! ハクはこれを試練って言ってた……。乗り越えれば天魔雄神に会えるとも。だからどれだけ理不尽だろうと攻略法はあるはず!)
大黒は気合を入れ直し、先頭にいる死体と向き合う。
「ふっ!」
左下から鳩尾を殴りあげ、呼吸を置かずに腰を低く落として正拳突きを放つ大黒。
しかし腹に拳がめり込んでいるのにも関わらず、うめき声一つ挙げずに逆に大黒の手を掴もうとしてきた相手を見て、大黒はグッと足を踏ん張って相手をその場から突き飛ばした。
その死体は後ろにいる何体かを巻き込んで吹き飛んでいったが、間髪入れずに他の死体が大黒の髪や、手や、足を掴もうと腕を伸ばす。
大黒はそれらを全て捌きながら、捌けている自分に驚いていた。
(なんか、現実にいる時よりも体が動く。両手あったとしても普段ならとっくに掴まれて終わってるはずなのに。それ以前にあんなに殴り飛ばすのだっていつもなら出来なかったろうし……やっぱあれか、霊力だけの体になってるから想像した通りの動きが出来るのか。これに慣れちゃったら現実に戻った時ギャップでしんどそうだな)
大黒とハクの今の状態はほぼ幽霊と同義であり、霊力を消費すれば筋肉や物理法則に制限されない動きが出来るようになっている。
やろうと思えば空を飛んだり、腕をロケットのように射出したりも出来るが、可能なのはあくまで本人が想像出来る範囲の動きなので、大黒にそれらは実行できない。
それ以前に変な癖がついてしまうのを避けたい大黒は、現実でも出来る動きの延長線上で戦うことに決めたため超常的なアクションはする気もなかったが。
「けどっ問題なのは、相手にもそれが言えるってこ、とだよなっ……!」
どんどん増えてくる死体に余裕がなくなってくる大黒。
襲いくる無数の手、どれか一つにでも掴まれたら引っくり返せないほど形成が悪くなると大黒は感じていた。
足を掴まれた時、大黒は痛みに顔を歪めた。いくら不意を突かれたとは言え、子供の力で握られてそんなに痛みを覚えるはずがない。
その時はそこにまで頭が回っていなかったが、今なら異常だったことが分かる。
そして理解した。相手も自分と同じく霊力だけの体である、と。
もちろん相手が子供の形をしただけの偽物なことはとっくに分かっていたが、それでも人は見た目に騙される。
子供の形をしているのだから、戦闘能力も力も子供相応のものだと思いこんでしまう。
しかしここに来てやっと、それは間違いだったと大黒は悟った。
一度捕まったら万力のような力で掴まれた箇所を握り潰されるか、床に叩きつけられるか。ここまでのことを可能にする天魔雄神の霊力で作られたモノの力に、自分程度の霊力で抵抗出来ないのは大黒も重々承知していた。
(しょうがないか……、このままだとジリ貧だ)
素手の勝負では押し切られると思った大黒は、『ふっ!』と勢いよく息を吐き出すと同時に床を踏み砕き、死体の体勢を崩した。
その間に大黒は床に落ちていた日本刀を拾い上げ、死体に斬りかかった。
「真剣持つなんて何年ぶりだろうなっ!」
大黒はまず相手の行動を制限するため、四肢を切り落とすことを中心に立ち回る。
包囲されないように常に動き、危なくなったら刀を振り回して牽制する。そして近付いてきた相手の指や腕、可能ならば足も狙い、少しずつ死体の機動力を削いでいった。
だが、それで動きが鈍る死体はいても動かなくなる死体はいなかった。
(……斬られた箇所の再生もしないくせに、止まることはないか。スプラッターには耐性があるつもりだったけど、ここまでとなると流石にキツイな)
手足を失い肩で這いずってくる死体、首が取れかかっており偶に断面が見える死体、脳漿や内臓を撒き散らしながら向かってくる死体、そんな子供の死体達を相手にすることに大黒は辟易し始める。
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