第五十二話 現状

「さて、全員揃ったところで今までとこれからの話をしていきましょうか」


 純は部屋の中にいるメンバーを見渡して、軽く手を合わせる。


 現在部屋の中には、ベッドで横になっている大黒、ベッド近くの床に座っているハク、部屋の中心で場を仕切っている純、その純の後ろに立っている鬼川と尾崎、そしてクローゼットの扉にもたれて座っている刀岐の計六人がいた。


「まず兄さんと女狐についてです。二人には今、協会から莫大な懸賞金がかけられています。兄さんは生きて協会に渡せば三億円、殺してしまっても二億円。女狐の方は生死を問わず十億円。これらの情報が出たのが三日前、稀に見る懸賞金の高さに界隈はざわついていました」

「とうとう私の存在が陰陽師に知れ渡ったということですか……」


 長く大妖怪として生きてきたハクは、今までの人生で懸賞金をかけられた経験も一度や二度ではないため懸賞金の高さに驚くことはなかった。

 しかしその経験故に、今後の生活のこともどうなるか予想がついており陰鬱な表情を浮かべる。


「私もすぐに兄さんの元に馳せ参じたかったのですが、折り悪く……というか意図的にでしょうね。ここ一ヶ月は査問のため、かなり行動を制限されていたんです」

「査問って……」

「あれです。四月に起こした大黒家での事件、あれが協会上層部の耳に入ったようで呼び出されてしまったんです」

「でもそれについては外に情報が漏れないようにしてたはずだよな? ってことは……」

「……ええ、私の件も兄さんと女狐の件も全て大黒秋人の仕業ということです」

「…………」


 その名前を聞いた途端、大黒の眉間に深い皺が刻まれた。


 大黒秋人、大黒真と大黒純の名義上の父親。

 大黒達が連れ去られたハクを取り戻すために大黒家を襲撃した際、唯一取り逃がした諸悪の根源。

 大黒がハクと暮らしていることや、純が大黒家を一新したことを知っている者は、ここにいるメンバー以外では秋人しかいない。


「あれ以降、ずっと怜と足跡そくせきは辿っていました。そして先日ついに分かったのが、大黒秋人が統霊会の長の所に匿われているということでした」

「そんなとこにまでも根を張ってたのかよあいつ……」

「確かに厄介です。ですが、お互い個人的な繋がりがあるだけで大黒秋人が統霊会で権力を持ってるというわけではないんです」

「あー……、つまりあいつを殺しても協会的には痛手がないし黙認されるかもって話か?」

「そうです、あくまで大黒家の当主は私。大黒秋人を殺しても粛清という体は取れます。査問もそれで乗り切りましたしね」


 純はそこでふぅ、と一息つく。 


 血統主義の意識が強い陰陽師界隈では、お家騒動は頻繁に起こる事案である。

 それら全てに一々介入していくほど協会も時間が有り余っているわけではないため、基本的には当主の意向が最優先とされている。

 協会が形だけの査問をすることはあれど、その家の当主が黒と言えば白も黒だと判断されてしまう。

 騒動で殺されそうになっている人間が協会内で重要な役職に付いていなければ、殺人も全て黙認される。

 それが今の陰陽師協会のやり方であった。

  

「問題は大黒秋人は今後のためにも殺さないといけませんが、殺したところで兄さん達の処遇は変わらないということです」

「そりゃあそうだよなぁ……、話は捻じ曲がって伝わってるっぽいけどある程度は真実なわけだし……」


 九尾の狐というのは陰陽師にとってこれ以上無いくらいの厄ネタである。

 ハクの手前口には出さないがその事は大黒もよく分かっており、事態の収集が簡単にいかないことも理解していた。


「ええ。ですのでこれからどうするのか、という話をしましょう。目下の問題は傭兵達の存在です、協会は今別の大きな問題にも対応しているのでしばらく兄さん達を狙うのは傭兵のみ。しばらくはそれを捌き続けないといけません」

「……?」


 大黒は、純が言う大きな問題とはなんだろうと一瞬考えたが、言及しないということは自分たちには関係のないことかと結論を出して聞かないことにした。


「捌き続けたところでいつかは限界が来ると思うっすけどねぇ……。ほとぼりなんて冷めるはずも無いと思いますし……」


 鬼川が深い溜息を付いて、自分たちの現状について憂う。

 しかしそれに対して当の大黒は、意外にも軽い口調で今後の展望を話し始めた。



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