第十四話 迷子
「本当にここにあるんですか?」
「そういう意味のない嘘をつくタイプじゃなかったし、まず間違いないと思う」
大黒とハクが心の内を話し合った翌日、二人は大黒の通っている大学の校門前にいた。
「それならいいんですけど。二ヶ月ぶりの外出が無駄足になるなんて御免被りたいですからね」
「まあまあ、もしこれが外れでもこの後はちゃんと楽しいところに連れていくから」
照りつける太陽を睨みながら愚痴をこぼすハクを、大黒は笑顔でいなす。
二人で太陽の下を歩く。まさかそんな日が来るとは思っていなかった大黒は、言動や行動に喜びの感情が浮き出ていた。
ハクを閉じ込める結界を解除する。それが、昨日を終えた中で一番の変化だった。
不慮の事故でもない限り、ハクは自分の元からいなくならないという確信を得た大黒はハクとの話し合いが一段落した後、一も二もなく自宅に張ってあったほぼ全ての結界を解除した。
自衛のため外からの侵入を防ぐための結界とハクの力を外に出さないようにする結界は残っているが、ハクを縛るものはなにもない。
可能であるならば、ハクの力を奪った石箱も壊していたことだろう。
そして二人のこれからのために次はどうしようという話になった時、大黒は藤が言っていたことを思い出した。
つまりは九尾と半妖の話。藤はそれらについて詳しく知りたければ自分の研究室に来いと言っていた。
さらにその研究室は大黒の所属する大学にあるとも。
そのため二人で大学を捜索する運びとなり、今に至る。
「しかしまあ、ここまで来てから言うのもなんですがやはり貴方一人で来た方が良かったのでは? 陰陽師界隈で私の存在が広まっている可能性があるのならば、私は貴方の結界から出ないのが一番だと思いますし」
「それはそうだけどさ、俺じゃああいつの隠れ家は見つけられないって自信がある。言ったと思うけどそいつは隠形の達人だったから、研究室なんて大事な場所はどこよりも厳重に囲ってあるはずだ。そうされたら俺程度じゃ一年かけても大まかな位置さえ把握できない」
「だから私に頼むと? その貴方程度に隠形を見破られて、あまつさえそのまま罠に嵌められた私に?」
「いや、そりゃあハクは特別だよ。俺はハクを探すために、大黒家にあったハク由来の代物全てを年単位で解析し続けて、ハクの霊力を少しでも脳が感知したら無意識に顔が向くようになるように条件付けしたし。その上一緒に暮らすようになってからは見た目や匂いも余すところなく把握した。今の俺だったら十キロ先でもハクの居場所を特定出来るな」
「気持ち悪いですっ!」
自慢気に親指を立ててきた大黒からハクは一瞬で飛び退る。
「…………冗談は置いといて、実際ハクは術全般エキスパートだろ? だったらあいつの隠形も見破れる、はずだ」
「これいじょうないくらい本気の目に見えましたけど。明らかに私の反応を見てから冗談にしましたよね? ……でも、分かりましたよ。自信がないというのなら私がやってあげます。二人で補い合うって話もしましたしね」
ハクは軽くため息をついて、ごく自然な動作で自分の左手を大黒の右手に絡めた。
「あ、あの、ハクさん? どうしてこんな急に……所謂、恋人繋ぎというものを?」
ハクからの突然のスキンシップに大黒は喜びよりも困惑が勝ってしまい、取り乱す。
「いえ……ほら、思ったよりも構内に人が多かったもので。貴方が迷子になってしまわないか不安になったんですよ。貴方って方向音痴の香りがしますし」
「方向音痴の香りって!? ていうか母校で迷うやつはもはや方向音痴じゃなくて記憶喪失だと思う!」
ハクは適当な理由を言って大黒と目を合わせようともしない。
冷静になった大黒は、それがハクなりの照れ隠しだと気づきそれ以上追求することはやめて生暖かい目でハクを見つめた。
「な、なんですかその目は。止めて下さい、貴方にそんな目で見られる謂れはありません。今すぐやめないとこのまま貴方の右腕を引っこ抜きますよ!」
「物騒すぎない!?」
自分の生命線を取られそうになった大黒は慌ててハクから目をそらす。
「分かった、分かった。もうそんな大げさに反応しないから、研究所探しを始めてくれ」
「むぅ、そうやって流されるとそれはそれで頭にきますね」
「思ったよりわがままだなっ! 可愛いからいいけどさっ!」
校門の前でずっと騒いでいると、一人の少女が大黒の背後に近寄ってきて親しげに大黒の肩を叩いた。
予期していなかった感触に大黒はびくっと体を震わせてすぐに後ろを振り返った。
「誰だ!?」
「あ、いやごめん。そんなに驚くとは思ってなくて……ほら、私私」
笑顔で自分を指差す少女は大黒もよく知っている相手だった。
「あ、ああ委員長か。おはよう、昨日ぶり」
「うん、おはよー。昨日は本当になんにもなかった? ラインは返してくれたけど心配で心配で」
「大丈夫だったよ。それよりもあんな別れ方をしてほんとごめんな、ただでさえ心配してくれてたのに余計心配かけるようなことを……」
「ほんとにね! こっちは心労で倒れそうにもなったし! でも元気そうで良かったー、怪我もないし体調も今度こそちゃんと治ってそうだしね」
「さすがに倒れそうになるのは心配性がすぎないか? いや、本当に感謝はしてるんだけど」
「あんな状況だったらそれくらいの心配もするよ、何が何だか分からなかったし。……ね、ところでさ、隣のその女の人は?」
委員長こと相生は、大黒の無事を確認すると大黒の隣にいる
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