【Phase.3-2】友との出会い今夜、運命の出逢い前夜

★β当選者に送られてきたハードウェア『QUALIAクオリア』の拡張機能を紹介!


『QUALIA』本体は《MateRe@LIZE Nexus》のβ版がプリインストールされている以外にも、様々な機能を有している。

正式名:Quantum Union Abstract Logic Incarnate Apparatus.(量子結合抽象理論具現化装置)


・ブースター&ストレージ機能……クラウドを経由して各種VRデバイスと接続する際、情報・データの処理と保存を全て代行してくれる。これにより型落ちした古いVRデバイスであっても、最新機種並みの機能を附帯ふたいさせることが可能。(主にゲームがヌルヌル動く)


・MR機構……本体中央に備わるハッチを開けると、三十センチ四方のスペースが空いている。そこに物品を格納すると、ゲーム内へ格納物品を持ち込めるという機能。「あの伝説の剣」や「くまの着ぐるみ」を持ち込めればゲーム内で目立つこと間違いなし。(卑猥なものはレーティングで弾かれるので入れては駄目よ)


・アドオン機能……自身でプログラミングしたデータを登録すると、VR内でプログラムが実行可能になる。例えば相手までの距離がセンチ単位で表示されたり、実弾武器を光学武器に変更したり、表示マップがポップなデザインに変更できたり等、自由度は無限大。ただし、あくまで補助機能なのでチートのような自身の強化は出来ない。


・他の機能……小型モニタを搭載しており、取り外してタブレットとしても使用可。また本体自体も普通にパソコンとして使えるが『できれば《MateRe@LIZE Nexus》をやって欲しい!』と運営がプレイヤーたちに念を送っているとか、いないとか。



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 ≫≫ 戦闘フィールド_工業区 ≪≪



 戦場の刻下こっかは曇天で迎えた。

 天は光が差し込まぬほどに鈍色にびいろ雲が立ち込め、重厚に空を覆う。

 地には人影二つ。


「いやー、遠藤君。アンタはイケメンだっ!」

「リーゼ氏よ、なんで酔っぱらいみたいな絡み方なんだ? 名前の呼び方はもう遠藤でもいいが……」

「飲んでないっ! ドクペしか飲んでないよぉ!」

「素でそれって……まぁイケメンならリーゼ氏のアバターのほうが――」

「でしょー!」

「――食い気味に謙遜ゼロかよ。一層いっそ、清々しいな」



 此処は工業区エリア、フィールド内時刻は八時ジャスト、天候曇り。

 周囲は背の高い工場や物流倉庫が立ち並び、魔都ファンタズマの街並みとは一線を画した、スチームパンクの雰囲気を帯びる舞台だ。



 ――そこでたった今、戦闘を終えフィールドで労い合うメンズ達。

 一人はリーゼ、もう一人は本日リーゼをナンパしてきた『END_Uエンドゥー』という男の二人。リーゼはエンドゥーの事を『遠藤』と呼んでる様子で、何やら完全にマブダチオーラを放っている。

 流石に五時間近くもガッツリとペアを組んで対戦してれば打ち解ける……否、人見知りのリーゼがこうも砕けてるのは、ひとえにエンドゥーのコミュニケーション能力に因るところが大きいだろう。


 エンドゥーは身長178センチ、赤髪で細マッチョなスタイルの男性アバター。

 有名男性アイドル事務所にでも属していそうな、シャープかつ爽やかフェイスから覗く瞳の奥には、秘めたる意思と知性も感じられる。

 性格は聞き上手なうえ、ユーモラスな返しも出来、依存する事もなく自分の意見をしっかりと持っている。典型的なリーダー気質の人間だ。

 サングラスを頭に掛けているが、戦闘に入ると装着していたので彼流のルーティーンなのだろう。そこに身軽な赤いレザージャケットを格好良く羽織るその立ち姿は、まるでこの世界の主人公的な雰囲気を帯びている。


「もう君が主役でいいんじゃないかな!」

「どっかの二次会か何かか? このフィールドは」


 リーゼは彼を気に入り、肩を並べて腕を回すと、とエンドゥー背中を叩く。コミュニケーションの取り方は完全に十年以上前の、ややハラスメント寄りアクションだ。

 シリーズ前作 《MateriaLIZEマテリアライズ》でも、相方から『リーゼって、オヤジくさいよな?』と、しばしば言われていた程なので、根幹がオヤジテイストなのだろう。


「いやぁ……リーゼ氏の、凄いな。弾を撃ち落とす――何だっけ?」

ね。ファントムブレイカー」

「ぷっ! 二回言わんでも!?」

「大事なコトなので!」

「マジか」

「超マジさ」


 リーゼは何処かで聞いた『超』つきの台詞でと決め顔を見せれば、エンドゥーは『スプリングフィールドM14』と呼称される型のアサルトライフルと、約百十センチのセイヴァー(長剣)を腰に収めながら、気さくに顔を綻ばせる。

 彼の頭上には『Rank.18』という上位プレイヤーたる証が表示されていた。


 ……そんな彼を擁して、今リーゼ達が最後に戦った対戦相手は、なんとエンドゥーを上回る『Rank.6』のプレイヤー。名前は『千果チカ』と表示されていた。


 チカは戦闘開始早々、特殊武装『パワードスーツ』を全身に纏い、ランダムで選ばれたノービスの男とともに攻めてきた。そのため、始まって僅か八分程で四名が工業区中央で相見える混戦フィールドと化したのだ。

 最初の二分程でノービスの男は『死亡』となるが、チカはそれから戦闘終了までのおよそ二十分間、フルにエンドゥーとリーゼ二人をなして耐え切る。

 リザルトはドロー。


「しっかし最後の対戦相手……チカ氏って上位ランカー、強かったな」

「あぁ、さっきの人か。継戦能力がパなかったねー。終わったらさっさとロビー帰ったっぽいケド……んんー?」


 ――リーゼは今の対戦を一瞬振り返り、チカを前作のプレイヤーと重ねていた。

 実際には直接戦った事は無いが、日本国内ランキングはリーゼより高い有名なプレイヤーであり、口々で周囲から聞く戦闘スタイルに酷似していた。

 『何故か会って初日にブラックリストに入れられて、試合観戦もマッチングも出来ないよーにされたんだよな……』と、答えの出ない回顧をするリーゼ。


 ……何れにせよ、前作で培ったリーゼのサポート技術と、今作上位ランカーであるエンドゥーの攻めを2vs1という環境下で耐え抜いた程の腕前は、素直に称賛するしかない。


「ん? どうした、リーゼ氏?」

「ううん。さっきの人、前作の上位プレイヤーっぽい動きだったなーと、ね」

「だなぁ……あ、やっぱリーゼ氏前作やってたのか。道理で上手い筈だ」

「まぁねー。ってか『』って、遠藤君もやっとるやーん」

「あれだけ流行ってたんだから、そりゃあ……でも前回の発売日が高校受験と重なってなー。結果は出遅れた万年中堅プレイヤーさ」

「高校……受験……だと?」

「ああ。前作から三年周期じゃ今作も受験とぶつかるが、せめてのβ期間が五月で助かったよ」

「ソウダネー……勉強の息抜きにイイヨネー」

「話してる感じ、リーゼ氏もオレとそんな歳は変わんないだろう? お互い大変だよな」

「……ウン。ソウダネ」


 目の前のプレイヤーが一回りも年下なので、若干ショックを受けてしまったリーゼは、フワッとした生返事にとどまった。




 ≫≫ 22時22分_ファンタズマ中心部 中央管理棟 ≪≪



 フィールドでさんざと駄弁りながら、NPC受付カウンター前のロビーへと戻ったリーゼ達。

 ファンタズマ内でも現実よろしく、空を仰げば一等超に輝く春のアークトゥルスとも見紛う星々が天に輝き、魔都に配備されたネオンとともにβテスターたちを照らしている。


「すっかり夜だねぇ」

「もうこんな時間か……お、妹からダイレクトメッセージ来てるな」

「リアル妹? しかもDMってフレンド同士の機能じゃん?」

「ああ。兄妹揃ってβ当選したんで、フレンドとクランの両方登録したんだ――『お兄ちゃん、お風呂空いたよ』だってさ」

「おー、兄妹当選なんて凄いねぇ」

「実はそれだけじゃないんだ。実は高校のクラス内だけでオレを含めて五人、当選してるんだよ」

「なにそのミラクル!? βって5000人しか枠がないのに、学校の一クラスだけで五枠も!」

「やっぱ奇跡だよな、コレ? しかも妹も入れると六人って……近いエリアに固まり過ぎだと思ったさ」

「凄いな……そのエリア羨ましいね」

「普通に東京の文京区なんだけどなー。良かったら妹含めて明日あたり皆を紹介するが……どうだい?」


 思いの外、エンドゥーは近くに住んでいたようだ。

 だが其れよりも、フレンドが増えれば見知った同士でチームを組み、連携を深めて勝率を上げやすく成る。紹介して貰えるという提案はコミュ障気味、かつガチ勢のリーゼにとって非常に有り難い申し出だ。


「フレ増加は嬉しいねぇ。是非っ!」

おう! じゃあ昼くらいには皆集まると思うからよろしくな」


 ――実際、オンラインで見ず知らずのうえ、腕の解らない同士でチームを組み対戦した場合、勝ち試合であれば問題ない。

 だが、旗色が悪くなったり敗北を喫した瞬間、突如としてピリピリし『自分は悪くない。相方の実力が無いから悪いんだ』と、戦犯を押し付けてくるプレイヤーも少なくない。

 これこそオンライン対戦系ゲームが「ギスギスオンライン」と揶揄される部分でもあろう。


「やー、野良プレイは世知辛くてさ。オニーサンの豆腐メンタルはボッコボコなんで、紹介はホント助かるわー」

「マジか」

「超マジだってばよ」

「プッ! またそれか!」

「……ってか、ボチボチ時間は大丈夫?」

「っと、そろそろマズいか。妹のヤツに怒られちまう……スマンな、リーゼ氏」

「んにゃ、今日は楽しかったよ。また明日ねっ!」

「こちらこそさ! じゃ、おやすみなー!」


 手を振りつつ、ログアウトの演出光に包まれ消えるエンドゥー。


 直後、彼の声が消失した反動だろうか。先程まで感じなかった人々の雑踏音が自棄にかしましくリーゼの耳に響く。

 フレンドが落ちるこの瞬間は、如何なるオンラインゲームをしていても一抹の寂しさを覚える瞬間だ。


「……よっし、コッチはもう一踏ん張りして追い込むかー」


 リーゼの現在ランキングは101位。本日エンドゥーと共に白星を重ね、一気に二桁間近となっていた。

 そこからサーバー閉鎖までの約一時間半の間、順調に勝利を重ねつつ『Rank.84』まで引き上げた所でβテスト二日目は終了時刻を迎えた。



 ▸▸Logout……《MateRe@LIZE Nexus》.

 See You !!




 ≫≫ 00時42分_自宅二階 リゼの自室 ≪≪



 現実へ戻ったリゼは今、左手をペンタブレットの上で走らせつつ、右手ではキーボードを叩いていた。

 リゼが行っているのは《MateRe@LIZE Nexus》がプリインストールされている『QUALIA』の拡張機能、『MR機構』を利用するための作業だ。


 『QUALIA』は大型パソコンのケースのような外見で、中央部には三十センチ四方の開閉ハッチが備わっている。

 そこに収まるサイズの物品を入れると、ゲーム内でデータ化されてアバターに具現化リアライズできるという仕様を有しているのだ。


 そして今回の目的は愛用のハンドガンを格好良くするために、中二力全開のハンドガンをタブレットでデザインし、組み込みのためのアドオンプログラムを打ち込む。モニタは二枚をそれぞれ器用に確認しつつ、デザインとプログラムの同時作業……リゼお得意『並列思考』の賜物だ。

 脳が各事象ごとに個別思考できれば、手も其々それぞれスタンドアローンで動かせる、という『理論上』の行為を実現する非凡なる所業に他ならない。

 だが、リゼにとっては「作業がいっぱい出来て便利だわー」程度にしか思っていないので、才能の無駄遣いが大分と極まっている。


「――っし、できたー! 明日はコイツでいわせちゃるっ!」


 今時分では聞かない意味不明のでニヤつくリゼは、完成したデータを送信指定すると、防塵マスクを付けつつ換気扇を回し、ベッドに入った早々すぐに眠りへと就く。

 直後に部屋の端ではデータを受けた3Dプリンターがせわしなく動き出し、フィラメント樹脂が熱で溶けるとしたプラスチック臭が部屋を満たし始めた。この刺激臭対策でマスクと換気扇を使用したのだろう。勿論、鼻の利く愛猫ホームズを部屋の外へ出すのも忘れていない。



 ――未明刻の桐生邸宅には、樹脂をり出すプリンタ音、リゼの寝息、そして部屋の外から微かに聞こえるホームズの『カリカリ』とご飯を食べる音のみが暁時あかつきどきまで響くのであった。




 * * * 【β-TEST_DAY 3】 * * *



――リゼはこの日、運命の出逢いを果たす事となる。


此れからの人生を、共に進むための相方パートナーとの出逢いを。


そして、それが『』であることに気付かぬまま――

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