Chapter 18. ECHOの長い一日
『――おはようございます。きょう未明、長野県西部を震源とするマグニチュード五の地震が発生し、震度四の揺れが観測されました。映像は付近のキャンプ場の様子です。宿泊していた大学生四人が行方不明となっており、』
『――深夜より甲信地方から東海地方にかけて発生している群発地震ですが、つい先ほどにも震度三の揺れが観測され、未だ予断を許さない状況が続いています。気象庁の発表によりますと、御嶽山の火山活動が活発化しているおそれがあり、現在調査を進めて……』
『――えー、只今新たな情報が入ってきました。地球保護機構、
『――の時間ですが、予定を変更して緊急特別番組をお送り致します。度重なる異常気象、怪獣の出現……果たして地球の将来に何が訪れようとしているのでしょうか? 環境激変の謎を追うため、さまざまな分野の有識者をゲストとしてスタジオにお招きし、徹底討論して参りたいと思います。コメンテーターは社会評論家の
◇ ◇ ◇
メディアや世間が混乱とともに事態を注視する一方、ECHOはかなり早い段階で原因の特定を終えていた。
観測衛星〈フギン‐
この十二秒間の記録を、フギン‐δは関東総合基地へと転送した。
それから朝にかけて八回の地震があった。
フギン‐δは律儀に仕事をこなした。震源は南へ向かって移動しているように見え、正体が怪獣であることに疑いの余地はないと思われた。
藤代は、壁いっぱいを覆う大型モニターから視線を剥がした。
――若い頃はこのくらい平気だったんだがな……。
苦笑しながら手元の
藤代は笑みを引っ込め、再び顔を上げた。
コマンドルームは多数のオペレーターを収容する広いホールだ。モニターから遠い席ほど高い位置にあるという立体的な構造をしていて、最奥の列には参謀陣のシートが並んでいる。
そして、参謀たちの真ん中に座す壮年の男――彼こそが、ECHO日本支部を統括する長官、
榊の顔にもやはり疲れが見え隠れするが、両の眼だけは
藤代は頷きを返して、モニターへと向き直った。傍らのシートのバックレストに手を置き、
「ノードリー隊員、現場と繋いでくれ」
「はい」
サクラ・ノードリーがキーを叩くと、モニター左に四つのサブウィンドウが開いた。ECHOPADの内蔵カメラを通して、それぞれ持ち主の顔が映し出される。
「SSSU‐2」が
「SSSU‐3」が
「SSSU‐4」が
「SSSU‐6」が
彼らは最後に揺れが観測された地点の付近で待機している。人里から外れているのは不幸中の幸いと言うべきだろう。キャンプ場では犠牲者が出たのだ。つまり、今度の怪獣に人を避ける習性があるとは考えられない。
藤代は、サクラの端末に接続されたマイクを掴みあげた。
「総員、作戦の最終確認だ。周防副長、状況に変化は?」
『ありませんね』
4WD型特殊車両〈スヴィー〉の運転席で、周防はきっぱりと断言した。
『震源が移動した形跡、それと
「地上に出て人間を襲うやつだ、意味もなしに深く潜ったりはしないだろう。手順は変更なしでいくぞ」
『了解』
「――地中探査レーダーの用意は?」
これには山吹が答えた。
『一号機、照射準備OKです』
戦闘攻撃機〈レーベン〉のコクピットで、山吹はまさに計器類のチェックを済ませていた。ヘルメットを装着しているため表情はわからないが、声を聞く限り、気負ったところはなさそうだ。
「注意しろよ。お前のポジションが一番危険だ」
怪獣とどう戦うにせよ、まず土の中から引きずり出さなければ話にならない。だがレーダーの高周波を浴びせられた怪獣は、興奮していきなり攻撃してくるかもしれない。
『俺を誰だと思ってるんです?』
山吹はしかし、不敵な調子でそう言った。
『どれだけデカいか知らねえが、モグラなんぞに後れは取りません。すぐに釣り上げて片づけてやりますよ』
「頼んだ。――桐島隊員、和泉隊員。バックアップ態勢は整っているな?」
同じくレーベンに搭乗した和泉が応じる、
『二号機、問題ありません』
後部座席でガンナーを務める桐島
『いつでも行けます』
「よし……」
藤代は、もう一度だけ自らのECHOPADに目をやった。
ちょうどその瞬間、デジタル数字が「九時〇〇分」に変わった。
息を吸う、
「――現時刻をもって怪獣殲滅作戦を発動する!」
声はコマンドルーム全体に響いた。
「SSS-U、行動を開始せよ!」
モニターから了解の唱和が返り、コマンドルームに刺々しい空気が満ちる。
ECHOの長い一日は、こうして始まった。
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