第44話 そんなに驚くんだね(奏サイド)

同じ帰り道なのにいつもと違う。

気持ちの変化ってすごいんだなぁ。

全てが吹っ切れたわけじゃないのに。


すれ違い様に道行く人が私を見ていた。

私をじゃないな。補聴器の付いた耳をか。

もしかしたら違うかもしれないけど、まだ視線が気にならないようになるほど開き直れたり、生まれ変われてはいない。

でも、大丈夫。私は大丈夫。


「ただいま」


いつものように母が出迎える。


『おかえり…奏?あなたそれ…』


ビックリする母が少し可笑しかった。

失恋したから切ったんじゃないのはわかってるだろうから、私が耳を隠していないことに驚いているんだろう。


「変かな?」

『全然!すごく似合ってる』


髪型というより、それに至る私の心境の変化に喜んでいるようだった。


「お父さんは?」

『少し前に帰ってきてるわよ。ちょうど今はご飯食べてるわ』

「わかった」


父は驚くだろうか?

割りとクール(ドライ?)なとこあるし、無反応もあり得るなぁ。


居間へとひょいと顔を出す。


「ただいま」

『おかえ……奏!?』


言いかけて私を見て声をあげて驚く父(笑)

イスから立ち上がる拍子にテーブルに膝をぶつけ、勢いそのままにイスが倒れる。

膝をぶつけた拍子にテーブルのビールのビンが倒れて中身がこぼれた。


こぼれたビールと、私を交互に見ながらあたふたしている父は、さっきの母よりも可笑しくて。


でも、それくらい私の意思が伝わってるのかな?なんて思ったら嬉しくて。


お父さん、そんなに驚くんだね(笑)

それがあるから、すぐに言えなかったけど


──私、もうひとつ決めていることがある。








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