来たよ、おば~ちゃん
今日は、美智果を連れて帰省する。
正直、僕は別に帰りたくもないんだけど、美智果がお祖母ちゃんに会うのを喜ぶからだ。家にいたくないからって出ていく為に焦ってハズレを引くような、僕にとってはあまりいい親じゃなかったけど、美智果にとってはただただ優しいお祖母ちゃんだからね。
僕自身には今でもわだかまりはある。だけど、親だからっていつだって完璧でいられるわけじゃないっていうのを認められるようになってからは、あの人はあの人でいろいろ辛かったんだろうなっていう風にも思えるようになって、恨んでるとまでは言えなくなった。
もう過ぎたことだからいつまでも執着しても仕方ないのも分かってる。僕のわだかまりは消えなくても、美智果が会いに行きたいと言うんなら、それを拒む必要まではなくなってた。
「こんにちは~、来たよ、おば~ちゃん」
「あらあら、いらっしゃい、美智果ちゃん!」
僕が一緒に住んでた頃には殆ど聞いたこともない声を上げながら、母は相貌を崩す。<孫のことが可愛くて仕方ないおばあちゃん>らしい姿だった。
母は、世間一般から見れば僕に対しても真面目で優しい母親だったと思う。しつこく小言を言う訳でもないし、暴力を振るわれた覚えもない。だけど、父のような男を選んだという事実だけで、実の子供の立場からすれば十分に反発の対象だった気がする。母も、自分の失敗を棚に上げて綺麗事を並べるっていうところはあったから、それに対して反発を覚えてしまったかもしれない。一見、すごくいい親に見える人の子供が酷くグレたりすることがある理由が分かる気がした。
他人に見せてる姿だけじゃ分からない、<親の本当の姿>っていうのが子供には見えるからなんだろうな。表向きの<良い親>の仮面の下の生の姿が。そういうのが不信感に繋がって、反発を招くんだって気がしてる。
誰かを好きになる気持ちも理屈じゃないのと同じように、誰かに不信感を抱いてしまう気持ちも理屈じゃない。それが親であっても。いや、親が相手だからこそ、かな。それを力尽くで抑え付けようとすれば余計に反発を招くっていうのを、僕は美智果と暮らすことで確かめた。僕がついつい自分のことを棚に上げてお説教するようなことをしてると、あの子の様子が明らかに不穏なものになっていったからだ。
『育ててもらってるクセにそんなことで文句を言うな』
っていう人は多いと思う。だけど僕には、
『僕の勝手な都合で美智果を苦労の多いこの世に送り出してしまった』
っていう負い目もあるんだ。だからそういう意味では、美智果を育てることは僕の責任なんだから、恩を着せるつもりもないんだよな。
恩着せがましい人間は嫌われる。だったら、『育ててやってる』って考えてる親が子供の反発を招くのは自然な成り行きだと感じるんだ。
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