夢破れてもどるゐなかや山わらふ

【読み】

 ゆめやれてもどるゐなかややまわらふ


【季語】

 山わらふ(春)


【語釈】

 破れて――やぶれて。

 山わらふ――「春の山の草木が一斉に若芽を吹いて、明るい感じになるようすをいう」(デジタル 大辞泉)。


【大意】

 夢破れていなかにもどってくると、山がわらうようにしてそこにあるのであった。


【附記】

 正岡子規(1867-1902)に「故郷やどちらを見ても笑ふ」の句があることを知り公開をやめようかとも思ったが、趣旨に違いがあるので良しとしたい。わらうという行為は奥が深いようで、標題の句においては山に嘲笑されているとの含みがあるかもしれない。


 一句、杜甫(712-770)の『春望』の「国破れて山河在り 城春にして草木深し」による。


【例歌】

 水鳥の鴨の羽色の春山のおほつかなくも思ほゆるかも 笠郎女


【例句】

 笑ふ山見返る雁の行衛ゆくゑかな 子曳

 うをによく酢のきく日なり山笑ふ 春庵


 二月きさらぎの山こそぐるや春の雨 仙化せんか

 片兀かたはげに日の色淡し春の山 太祇たいぎ

 日くるるに雉子うつ春の山辺かな 蕪村

 旅人のよこ笛ふきぬ春の山 長翠ちょうすい

 簾あむ戸口にちかし春の山 卓池たくち

 春山や松に隠れて田一枚 村上鬼城

 どこやらで我名よぶなり春の山 夏目漱石

 模糊として竹動きけり春の山 同

 春の山いくつとも無く越えにけり 正岡子規

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